第8話 名取 愛花
文字数 2,088文字
うちの店は変わっていて社長の方針で、テレビ等の電源は
お客さんがいないうちは、つけない事になっている。
当然開店しても誰も来ないので、俺は今にも降りだしそうな空を眺めながら、
ポケットからスマホを取り出すと、スマホに『天気予報』と語りかけた。
するとスマホのディスプレイに、現在地のスポット予報が表示される。
これから本格的に雨が降ってくるみたいだな。
弓月は無事家に帰れただろうか。
そんな事を考えているとルキアが突然話しかけてきた。
僅かな可能性にかけて、まずは『名取 愛花』をスマホで検索をしてみる。
さらに詳しくサイトを見ていくと驚いた事に、夢と同じように
名取 愛花が行方不明になり、公開捜査がされた事が掲載されている。
新聞のキャプチャ画像とニュース動画もあるので、間違いない。
次のページをタッチすると公開捜査が行われたが、
事件の手がかりが見つからず、捜索範囲を隣県まで広げた結果、
山奥の別荘地で倒れている少女を発見した。
容貌はまさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブと
青みがかった瞳が印象的な子だった。
次のページをタッチすると名取グループ社長の娘、
無事発見されるの見出しが大きく出ていた。
愛花さんの友達の証言から近くの沢沿いを捜索した所、
岩場に自然にできた空洞があり、その中で座りこんでいる愛花さんを発見した。
衰弱が見られたが、検査に異常はなく数日で退院できる見込みとの事です。
友達の方は名前もないし、どうなったかは書かれてない。
念のため他のサイトを見ると新聞の切り抜きがあり、
救出された友人のYちゃん(10歳)と書かれていた。
まさか、そんな偶然があるのか?
年齢的には合致はしそうだが、弓月に名取の名前で問いかけた時は、特に何も……。
もし名取 愛花の友達が弓月だとすると、弓月が抱えている何かは、
失踪事件に関係している可能性がある。
とりあえずこれ以上の事は、当人達にしか分からないので、
調べる手を止めて大きく背伸びをする。
……あなたはずっと後悔している事ってありますか?
再度弓月の言葉が頭をよぎる。
突如大きな音が聞こえて来たため、振り返ると結構な強さで雨が降りだしていた。
うちの店もあまり高い場所にある訳ではないので、様子を伺うために店の外に出る。
外に出ると雨足がさらに強くなり、風も出てきているようだ。
ルキアが何かを言ったので聞き返してみたが、返事がない。
まあ何にせよ、しばらく店から出ない方がいいな。
学校帰りの小学生が巻き込まれていないか、一歩前に出て道路を覗きこむ。
その人物は何かを探すように下を向いているため、
顔は見えないが、服装からすると女の子のようだ。
そのまま放っておく訳にもいかないため、自分の傘を広げると、
店先にあるもう一本の傘を手にとって駆け寄る。
その声には聞き覚えがあった。
そして少女が顔を上げてなお驚いた。
弓月にそう声をかけるが反応がないため、とりあえず自分の傘に弓月を入れる。
こうしてやり取りをしてる間にも、雨はさらに強くなり、
だんだん傘を差している意味がなくなってきた。
弓月の言ってる意味は分からないが、ただ事ではないのは確かなので、
詳しい話を聞くため強引に店に引っ張りこんだ。