第8話 名取 愛花

文字数 2,088文字

うちの店は変わっていて社長の方針で、テレビ等の電源は

お客さんがいないうちは、つけない事になっている。

(ほんと社長売る気ゼロだな……)

当然開店しても誰も来ないので、俺は今にも降りだしそうな空を眺めながら、

ポケットからスマホを取り出すと、スマホに『天気予報』と語りかけた。


するとスマホのディスプレイに、現在地のスポット予報が表示される。

(この後、短時間で非常に強い雨が降るでしょう……か)

これから本格的に雨が降ってくるみたいだな。


弓月は無事家に帰れただろうか。


そんな事を考えているとルキアが突然話しかけてきた。

『亮介。暇だったら夢に出てきた人物を、
 すまほって言うので検索してみたらどうかにゃ?』
『そうか、ネットなら何か出てくる可能性もあるな』

僅かな可能性にかけて、まずは『名取 愛花』をスマホで検索をしてみる。

「90万件か結構あるな。同姓同名の有名人でもいるのだろうか」
とりあえず一番の上のまとめサイトを開いてみる。
「んーと、名取 愛花さんは6年前に、行方不明になった名取グループの社長令嬢!?」

(おいおい、あれはただ夢であって、現実の話ではないはずだ)

さらに詳しくサイトを見ていくと驚いた事に、夢と同じように

名取 愛花が行方不明になり、公開捜査がされた事が掲載されている。


新聞のキャプチャ画像とニュース動画もあるので、間違いない。

「嘘だろ……それでこの件は、結局どうなったんだ……?」

次のページをタッチすると公開捜査が行われたが、

事件の手がかりが見つからず、捜索範囲を隣県まで広げた結果、

山奥の別荘地で倒れている少女を発見した。

「調べによるとその少女は名取 愛花さんの友人で、

 一緒に向日葵の丘公園に行く途中で斜面から滑り落ち、

 バラバラになってしまったとの事です、か」

「えーと、名取の写真が載ってるな」

容貌はまさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブと

青みがかった瞳が印象的な子だった。

「ハーフなのかな? 友達の方は名前は載ってないな。とりあえず次のページに行こう」

次のページをタッチすると名取グループ社長の娘、

無事発見されるの見出しが大きく出ていた。


愛花さんの友達の証言から近くの沢沿いを捜索した所、

岩場に自然にできた空洞があり、その中で座りこんでいる愛花さんを発見した。


衰弱が見られたが、検査に異常はなく数日で退院できる見込みとの事です。

「ああ、良かった。名取 愛花は無事だったんだな」

友達の方は名前もないし、どうなったかは書かれてない。

念のため他のサイトを見ると新聞の切り抜きがあり、

救出された友人のYちゃん(10歳)と書かれていた。

「山田……結城……ゆ、弓月!?」

まさか、そんな偶然があるのか? 


年齢的には合致はしそうだが、弓月に名取の名前で問いかけた時は、特に何も……。

「いや、言葉はなかったが、一瞬ぴくんと反応していた気がする」

もし名取 愛花の友達が弓月だとすると、弓月が抱えている何かは、

失踪事件に関係している可能性がある。


とりあえずこれ以上の事は、当人達にしか分からないので、

調べる手を止めて大きく背伸びをする。

……あなたはずっと後悔している事ってありますか?


再度弓月の言葉が頭をよぎる。

ザアーー

突如大きな音が聞こえて来たため、振り返ると結構な強さで雨が降りだしていた。

「降りだしたな。この勢いだと排水溝から水が溢れ出ないか心配だな」

うちの店もあまり高い場所にある訳ではないので、様子を伺うために店の外に出る。


外に出ると雨足がさらに強くなり、風も出てきているようだ。

『おーい、そんな前に行くとあぶないにゃよ!』
『ルキア、何か言ったか?』

ルキアが何かを言ったので聞き返してみたが、返事がない。


まあ何にせよ、しばらく店から出ない方がいいな。


学校帰りの小学生が巻き込まれていないか、一歩前に出て道路を覗きこむ。

……あれ、こんな雨の中に傘も差さずに、誰かが座り込んでるぞ。

その人物は何かを探すように下を向いているため、

顔は見えないが、服装からすると女の子のようだ。

「ったくこんな時に何をしてるんだ?」

そのまま放っておく訳にもいかないため、自分の傘を広げると、

店先にあるもう一本の傘を手にとって駆け寄る。

「猫……」

その声には聞き覚えがあった。


そして少女が顔を上げてなお驚いた。

雨の中座り込んでいるその人物が弓月 葵だったからだ。
「弓月! こんな所で何をしてるんだ!?」

弓月にそう声をかけるが反応がないため、とりあえず自分の傘に弓月を入れる。

「猫がどうかしたのか? 
 心配事があるにしても、今はそんな状況じゃないだろう?」
「猫が危ないの……私のせいで」
「私のせいってどういう事だよ?」
「一人で探すので近づかないでください」

こうしてやり取りをしてる間にも、雨はさらに強くなり、

だんだん傘を差している意味がなくなってきた。

「そう言う訳にもいかないだろう! とりあえず店の中へ来い!」
「離してください。でないとあなたにも」
「あなたにも……なんだ?」

弓月の言ってる意味は分からないが、ただ事ではないのは確かなので、

詳しい話を聞くため強引に店に引っ張りこんだ。

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登場人物紹介

綾瀬 亮介(あやせ・りょうすけ)

大学2年生。

相棒の猫・ルキアと心で会話する能力を持ち、また力を合わせる事で、

他者の心の状態を『色』で判別する事ができる。

謎の少女

亮介の自宅に突如現れた少女。


ルキア

亮介の家に住み着く猫。

亮介と会話をしたりする事ができる。

まさに深窓の令嬢と言う感じで、少し茶色がかったふんわりウェーブの髪と

青みがかった瞳が印象的で、ボディーガードを連れている。

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