八月三日 東京 「働」

文字数 8,122文字

 八月三日、辻塚留佳と相模原刑事は、朝早くから東京へ向かう電車に乗っていた。
 東京で起こった「東京都中学教師殺害事件」を捜査するためだ。
 本来であれば、管轄外の事件であり、群馬県警の刑事として、「島田宗吾殺害事件」を追うべきなのだろうが、何せ今は新しい情報が何もない状態であり、鑑識からの詳しい結果を受けて、再度捜査本部が立ち上がるまでは、足を動かすにも、どこに向かわせればいいのか、曖昧な状態なのだ。
 とはいえ、なぜ今東京の事件に首を突っ込むのかというと、被害者である神田龍弥という人物は、留佳が東京都教育大学の時の二つ上の先輩だったのだということが理由だ。深いよしみがあるわけではないようだが、大学の新歓で一度同じ飲みの席になったことがあり、そこで小説の話で盛り上がったという。共にミステリ好きであり、ミステリ愛好会に入らないかという誘われたが、「大好きな趣味が、迫ってくるなんて考えられない。」という理由で断ったという。何でもないワンシーンだが、そのシーンを共有した人間。そのような人物が殺害されたということで、悲しみに明け暮れるということではなく、「何があったのか知りたい」と興味をもったようだった。
 刑事も人間。休みの日はきちんと休みの日と扱われており、担当事件があれば、解決するまで休みなく働くなんていうドラマのようなイメージとは現代はちがう。それは「勤勉」か「時間のある」人間に限る。まあ、かくゆう自分も休みの日に結局は別の事件を追っているというわけだが。
 それにしても…
 留佳は、新幹線内で、駅弁を食べたあと、ずっとスマホをいじっている。
 普段は外の景色をぼんやり見ていることが多い留佳がスマホとは……。
 もしかして、男か?この間も、「私が彼氏にされたら…」なんて変な例え話をしていた。いや、まあ、俺には関係のないことだが、もし、もし彼氏がいるとしたら、留佳の彼氏にとって、おれはどういう存在に映るのだろうか。
 そんなことを考えている間に、何度かの乗り換えを経て、電車は東京都、町田市に着いた。
 都会の空気は汚い。偏見ではなく、本当に都会に降りて呼吸をすると、吸いにくさを感じるのだ。この空気を吸って育ったら、何かしら性格が歪みそうだ。
 相模原は、群馬生まれの群馬育ち、群馬県のエスカレーター進学をした。確か島田亜美も同じだった。そんな相模原にとって、東京は憧れていた時期もあったからこそ、どこか卑下したい場所として捉えられている。
「呼吸がためらわれる空気だな。」
 見上げるように横を歩く留佳が見てきた。
「人々の営みの空気です。懸命に働く人の汗は汚いですか?私はそうは思いませんけどねっ。」
 留佳には、素直に思ったことを話すようにしている。そうすると、留佳の言葉でハッとさせられることがあるからだ。留佳にハッとさせられることに、恥じらいはない。それくらい、敬意と愛をもって彼女とは関わってきた。
 神田龍弥が勤めていたという、東京都立翡翠中学校に来校し、話を聞くことになった。本来であれば管轄外の事件、情報も入らなければ、捜査の認可も降りないのだが、東京都県警の幹部に、かつて東京で勤めていた時の同僚がおり、お金を積んで、「捜査協力」させてもらえることになった。留佳の要望に応えるのに、金で解決できるものであれば、解決してあげたい。よろしくない親心だろうか。
 翡翠中学校で神田被害者と同じ三年の主任をしていた、山野先生に話を聞いていくと、神田先生の働きぶりはあまり好ましいものではないようだった。
「神田先生が亡くなったなんて、驚きましたわ。」
「いつご存知に?」
「朝、校長先生からのお話が会って、知りました。どうして、お亡くなりになったんでしょうか?」
「詳しくはお伝えできません。神田先生は、学校ではどのような様子でしたか?」
 「神田先生は、早くに帰ってしまうので、十七時以降にクラスの子から電話がかかってきても、いないことが多かったんですよ。その都度、じゃあかわりに誰が対応するのか。そりゃ同じ学年の私しかいませんよね。私がかわりに電話の対応をしました。最たるものは、今年の五月末、十八時頃に、神田先生のクラスの子が、コンビニで万引きを起こしたんです。神田先生に連絡をして、防犯カメラのチェックに行くことをお願いしたんですけど。断られて。もうびっくりでしたよ。」
「あまりやる気のない先生だったのですね?」
 「そうね。この件も、代わりに私が行くことになったんです。お子さんがいて…って言うのが口癖だったかしら。私だって十五年前には今の息子が赤ん坊で、子育てをしていたけれど、共に教員という仕事も妥協せず取り組んできました。その後も、自分の子なら大丈夫なように小さい頃に育ててきたから、クラスで何かあった時には、うちの子が小学校三年生くらいになったころには、もういつでも家を空けて学校にかけつけました。そうできるように、親子で関係性を作るのも、教師の仕事ですわ。それが、教師たるものだと思うんです。時代は変わったというけれど、教師たるものが何なのかは変わらないはずでしょう?今の先生って、働き方改革とか言って、生徒と向き合うことから逃げているように思うの。生徒たちを、蔑ろにしていいはずがない。子どもは国の未来であり、宝でしょう?だから、神田先生の定時退勤を貫く感じとか、何度も年休をとる姿には、もう、甘えがみえて仕方がなかったわ。」
亡くなった相手に、随分ずけずけと言うものだ。だがまあ、聞くところによると、確かに適当に働いているのだろう。自分の娘が、将来神田先生が担任になっていたら、面談などで文句を言っていたかもしれない。
「神田先生が生徒のことよりも自分のプライベートを優先しているために、山野先生にその負担がのしかかっていたのですね。学校全体でも、あまり勤勉で情熱的な印象はなかったと?」
「まあ、そうでしょうね。私は特に同じ学年ですから、負担は大きかったです。そもそも、上司の私と組んでいるのに、先に帰るというのも、実際はおかしな話なんですけどね。」
「いやはや、教員の常識は社会の非常識なんて言ったものですが、そのような感覚は、教員も刑事も変わらんものですね。では、神田先生を職場内で強く恨むとしたら、山野先生、あなたと言うことになりますかね?何か、職場内不倫であったりとか、そういうことはなかったのですか?」
「いやあ、なんせすぐに帰る方だから、そんなのはないかと思いますけど。というか、私は別に恨んだりなんかしてないですよ?そう言うことを聞くと言うことは、何ですか、神田先生は、誰かに殺されたんですか?」
 山野先生から聞けることはもうないだろう。話の語尾をあやふやにして席を立った。
「神田龍弥さんは、本当に意欲的ではない、望ましくない先生なのでしょうか?」
 職員玄関を出ると、留佳が相模原の方を見上げて言った。
「留佳世代からすると、大人の言葉はただの悪口大会のようにうつることもあるかもな。おれも部下ができると、よく小言を漏らしたものだ。だが、自分を正当化するわけじゃないが、山野先生然り、我々は我々の世代のルールを押し付けたいわけじゃあない。未来を作るのはいつだって若者だ。だが、先に生きた人間として、伝えてやれることはある。だから、伝えてやりたいと思うのだが、前を向く若者たちには、我々の習慣は好ましくないものとして、古い=悪いの図式でみる。間違ってる人ほど、耳に入れようとしない。そうなると、我々は我々の世代でその思いを処理するしかない。小言も増えてしまうものさ。悪口は言わんよ。真っ当な、小言だ。」

「うーん。主たる好みは太宰先生なのですが、派生して坂口安吾に手を触れたこともありその「恋愛論」と呼ばれる論に、「教訓には二つあって、先人がそのために失敗したから後人はそれをしてはならぬ、という意味のものと、先人はそのために失敗し後人も失敗するに決まっているが、さればといって、だからするなとはいえない性質のものと、二つである」とあります。彼は恋愛において、その後者の属性を語るわけですが、私としては、教訓を聞き、省みることと、体験を通して省みることでは、その質に雲泥の差があると捉えています。そのため、こと恋愛に限らず、全てのことにおいて後者の属性をもつべきだと思うのです。加えて、先人は失敗するなと語るのではなく、確定の失敗があるのなら、それを受け止める構えをしておくべきなのです。神田先生の働き方に問題があると思うなら、それに周りで小言を言うのではなく、それによる失敗を受け止める構えを、先人らしくしていればいいんです。とはいえ、古い=悪いの図式は間違っていますが、古い=古いは、間違いありません。正しさに普遍性はないのですから、先人の抱く確定の失敗など、そもそも存在しないんですけどね。」
 飄々とした口ぶりではあるが、有無を言わせない思いが込もった捲し立てだった。
「怒ると一気に喋り尽くす癖どうにかならんのか。」
「怒っていないです。会話してるんです。」
「相模原さんも、「だから言ったのに」なんて言葉、部下の方とかに絶対使わないでくださいね?」
「確かに、それは、気をつけよう……」
 「よろしいです。では、神田先生のクラスを見に行きましょう。」
 三階の階段を登って廊下を進み、二つ目の教室が、神田龍弥が担任だった三年二組の教室だ。
 教室の後ろの壁には、係カードや自己紹介カードが貼られている。自分の時代に行っていたか、記憶は曖昧だ。
「これ、すごいですね。」
 教室後ろの端に、三二枚の小さなカードがあり、一枚一枚にコメントが書かれていた。
「小島岬さん。あなたはノートの整理力に長けています。イラストが、分かりやすく整理するツールとして使い分けられ、また色分けも、多色で書くのではなく、それぞれの色に目的があり、たいへん見やすいです。」
「斎藤秀作さん。あなたは得意の還元力に長けています。サッカーの授業の中で、未経験の子に、簡単な技や、どこに走ればよいか、実際に動いて教えていたそうですね。得意分野を活かす方法のベクトルは、自分だけではありません。それを体現していますね。」
 相模原と留佳は、気がつくと一つ一つ目で追って読んでいた。
「車谷悠介さん。あなたは作文力に長けています。読書にのめり込む日々が、君の語彙力を増やし、表現力を高め、それが想像力を膨らませていく。少年の主張、たいへん立派な文章でした。世界は確かに明るいものだけではありません。先生も、微力ながら照らしていきたいと思えました。ありがとう。」
「彼は、一体どんな文章を書いたんでしょうか?」
 どこか、暗い内容であることは感じられるが、相模原は正直あまり気になるようなことではなかった。
「それにしても、山野先生が言ってることも分かるが、子どもたちにはすごく熱心に向き合っていたように感じられる教室だな。」
「それが教師の本分です。神田先生は仕事を勤務時間に全うしていた方だと思います。」
 だが、それだけで働くってことにはならないのだがな……と相模原が言葉にするのをやめておこうと思った時、廊下から女子生徒の声が突然聞こえた。
「わっ、びっくりした〜。え、不審者?やばくない?」
「いえ、我々は…」
 相模原が警察手帳を出そうとしたところを、留佳が手で制した。
「私たちは、神田先生がどんな先生なのか、知りたくて教室を見にきたんです。」
「へ〜、何で神田先生のこと知りたいの?」
「実は私、神田先生の大学の後輩なんです!あんまり仲良しでもないんですけど、どんな先生なのかな〜って」
「え、なに彼女?!」
「仲良しでもないって言ったでしょ?ちょっとした社会勉強です!神田先生って、どんな先生?」
 「どんな先生って、うーん……岬言って!」
「ええ…普通に、三クラスで一番あたりの先生なのは間違いないよね?」
「それは間違いない。てか普通に私はめちゃすき。運動会の時に、クラスカラーとか言って、全身真っ赤でキモいくらい赤くなってたのは最高だった。」
「あれはやばかったよね〜。奥さんにもすごいやめときなって言われたらしいし。」
「クラスのみんな、神田先生のことそう思ってるのかな?」
「いや、それはないかな〜。孝太とか、陽キャな男子からすると、神田先生って草食系で、体育会系って感じではないから、なんか物足りない感あるんか知らないけど、文句はよく言ってるの聞くし。でも休み時間とか、なんか毎日全員と喋るように意識してるんかね?いつも誰かと話してるから、嫌いっていう人はいないかも。」
「そっかあ〜、岬さんって、このボードにある、ノートの整理力が高い岬さん?」
「だって岬〜」
「私より上手な人全然いますからね?!まじこのせいでノート見せてとか言われて、まじだましてごめんって気持ち。」
 そうは言っているが、岬の表情はどこか幸福感が感じられた。こうして、神田先生は彼女らの気持ちを掴んだのだろう。
「草食系っていうと、そしたらこの車谷君とかも、神田先生と仲良しなのかな?」
「あー、車谷君は、ちょっと変わってるから。」
「車谷君は、わたし二年同じクラスだけど、ずっと車谷君だわ。」
「ずっと読書してるんだよね。なんか、怖いとか嫌いとかじゃないけど、話しかけにくい感じ。」
「うん。でもあれじゃん、ここ一ヶ月くらい学校きてないよね。」
「やっぱあれがあったからかね?岬覚えてる?」
「覚えてる覚えてる。」
「何があったの?」
「車谷君が、急に孝太を殴っちゃったんだよね。車谷君って、そういうキャラじゃないからまじでびっくりした。そっから、来なくなっちゃったよね。孝太も別に怒ってないのに。やっぱ、変わってる。」
「神田先生は、何て言ってたの?」
「いや、孝太もいたし、特に休む理由があれこれは言ってなかったけど、毎日車谷君の机に給食置かせてるよね。」
「んね。給食終わる少し前になると、ジャンケン大会でみんなで奪い合いね。」
「そういうことがあったんだね。お話ありがとう!やっぱり神田先生は、素敵な先生だな、という感想です!」
「なにそれ〜。って、私たち忘れ物取りに来たんだった。じゃあねかわいいお姉さ〜ん」
 そういって、女子二人は教室を出ていった。
「まだ、亡くなったことが学校から報告されていないから、勝手に言ってはいけないなんて、分かってるぞ?」
「いえ、警察手帳を見せたら、取り調べみたいになってしまうじゃないですか。彼女たちの、フラットな言葉が聞きたかったんです。手で制したりして、すみませんでした。」
「いや、詫びることはない。留佳のことだから、何かあるんだろうしな。」
「車谷先生は、誰かから強い憎悪を受けるような人柄ではないように感じられますね。」
「大人の社会の評価と、子どもの社会の評価は異なるものだな。」
「どちらが正しいなんて、ありませんけどね。」
 こんなやりとりで険悪になるような仲ではない。二人は並んで教室を出た。
 翡翠中学校で山野先生以上に神田龍弥につながりを持つ人物もいないとのことだったため、相模原たちは翡翠中学校を出た後、町田市内を捜査して回った。町田市は、電車一本で若者が賑わう下北沢につながっているが、若者の街という様相はない。マルイや、ルミネ等もあるが、居酒屋が多く、夜にはキャッチを出している店や、その横を歩く酔っ払いが多いため、「治安が悪い」という印象をもっている若者も少なくないようだ。住んでる人は決して多くないが、横浜線への乗り換え等が可能なため、人の出入りが多く、聞き込みで辺りを歩いていると、賑わいを見せているようにも見える。朝、昼、夜で色々な顔を見せる都内の町の一角で、殺人が行われた。しかも、犯人と思われる目星はついていない。
 ろろ聞き込みを重ねたが、ここでも重要な情報は得られなかった。
「田舎のねずみと都会のねずみって話、ご存知ですか?」突然、留佳が話しかけた。
「聞いたことはあるかな?」見栄を張ったわけではない。本当に、なんだか聞いたことがある程度だったのだ。
「イソップ寓話の一つです。田舎に住んでいる一匹のネズミは、土くれだった麦やトウモロコシを、美味しく食べて暮らしていました。都会のネズミはそれを見て、「君はこんな退屈な生活でよく暮らせるな。僕のところへ来れば珍しいものが腹一杯食べられるよ。」と言いました。
都会に着くと、都会のネズミは、パンやチーズ、肉といった見た事も無い御馳走を田舎のネズミに見せました。めくるめく御馳走を前に田舎のネズミはお礼を述べ、食べようとした。けれどその時、何者かが扉を開けてきた。二匹は潜りこめる狭い穴をみつけると一目散に逃げ込みました。それを何度も繰り返しました。田舎のねずみは、「僕には土くれだった安全な畑で食べている方が性に合ってるね。」と言ったというお話です。」
「田舎で貧しく静かに暮らすか、都会で危険だが豊かに生きるか、田舎と都会を対比した話だな。大学生らが上京するのは、まさにその激しく危険なものを求めてだろう。それがどうした?」
「大学生が上京するのは、進んだ学問が都内にあるからですよ。
 私はこの話を聞いて、いつも疑問に思うんです。田舎で暮らすねずみは、本当に土くれだった畑を食べていたいのでしょうか?都会で暮らすねずみは、パンやチーズを、贅沢品だと認知していたんでしょうか?二匹が出会った時、それはお互いに未知との出会いであり、新しい現状への不満の創出だったと思います。田舎ねずみは、田舎へ帰って日々を暮らしている時、あのご馳走を知る前と後で、その幸福度はどう変わるのでしょうか?まだ若いねずみたちであれば、知る前の方が幸福であったように思われます。また、都会のねずみは、田舎なら安心して食べることができる事実を知り、それでも危険を冒す日々に、不満が生まれたんじゃないでしょうか?」
「そうだとして、どうなる?」
「分かりません。行動を起こすかもしれないし、起こさないかもしれない。けれど、私のこの寓話の解釈は、つながる必要のなかったつながりも、世の中にはある。ということです。井戸の中の蛙は、確かに大海を知りませんが、同様に鮫や人間への恐れも知りません。」
「知らぬが仏ってことか?」
「日本語は本当に豊富ですね。敬愛する太宰治は、「教養のないところに、真の幸福は絶対にない」と仰っておりますが、真の幸福を皆が求める必要はないと思います。お酒飲んで踊って幸福に満たされる人類もいていいんです。彼らが、部落問題や差別問題に頭を悩ませないことが、差別解消の一手段であることは間違いありませんし。」
「じゃあ、真の幸福を求めるべきは誰だ?」
「べき人などいません。幸福は、人の幸福を侵害しない幸福であれば、真も何もないと思います。まあ、教養のある方にとって、教養のなさげな幸福は、ある種苛立ちすら生むと思いますけどね。悩ましい。」
「人を幸せにする幸福ってのもあると思うけどな。」
 頭の中に留佳を描きながら、留佳を直視はできずに相模原は言った。
「それは愛ですね。愛することが幸福なことであるとは、フロムと同意見ですね。素敵です。」
「何の話だ。話を戻すが、二匹のねずみが出会わなかったら、そもそもそれじゃあ、寓話じゃなくなっちまうじゃんか。」
 「何を今更。雑談ですよ。でも、私たちは、そうやって、出会って、関わって生きています。私は相模原さんとつながれてよかったです。刺激的で、危険な道をいく刑事ねずみと、出会わなければ、私はいつまでも何もない、虚無を漂って自分の終わりを探す病院ねずみです。」
「その言い方で言うなら、刑事ねずみは、虚無だったから病院ねずみと一緒にいるわけじゃない。病院ねずみが、病院ねずみだったから一緒にいるんだ。」
「なんかかっこいいこと言ってるようですけど、比喩がひどくてよくわかりませんっ」
 にこやかに笑う彼女を見て、心をすっと、ひなたにいるような心地になっていた相模原を、携帯の着信が東京の町に引き戻した。警察からの着信だった。
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