8:現場到着につき状況開始 3
文字数 1,733文字
サーニャちゃんがテントの前に戻ると、沙雪さんが不機嫌そうな顔で待ち構えていました。
サーニャちゃんがそんなことを考えながら肩を竦めると、沙雪さんは表情と同じように不機嫌さがにじみ出ている声音で言いました。
サーニャちゃんはそう言うと、この話はこれでおしまい、と言うように手を叩いて大きな音を出しました。
沙雪さんはその音に驚いたように目を見開いて固まってしまいましたが、そのことを気にするでもなく、サーニャちゃんは続けて言います。
サーニャちゃんの言葉に戸惑う様子を見せる沙雪さんでしたが。
サーニャちゃんはそれを気にすることもなく、言葉を続けます。
そう言ったサーニャちゃんの顔は笑っていました。
でも、声と目は笑っていませんでした。
沙雪さんはそれを見た途端に、慌てたように持っていた資料を捲って該当する情報があるページを見つけ出すと、サーニャちゃんに渡しました。
サーニャちゃんはその資料を黙って少し眺めると、内容を咀嚼するような間を置いてから、沙雪さんに資料を投げ返しました。
そしてそう言うと、沙雪さんに背中を向けて。
その場から姿を消しました。
だから、サーニャちゃんが立ち去ったという事実を認識できて。
沙雪さんは大きなため息を吐きました。
ついでにというようにそう呟くと、ああもう! と髪が崩れるのも厭わずに、頭をぐしゃぐしゃと掻いてから、踵を返してテントの中へと入っていきます。
そして、有無を言わさぬ口調でそう言い放って。
――は? 避難対象者の誘導中にサーニャが割り込んできた?
サーニャの逆鱗に触れないように、彼女が居る間だけでも職務はちゃんとやれと言わなかったのか!?
――ああ? 冗談だと思ってた?
彼女を何だと思っているんだ、バカかおまえは!
彼女がやらないと言ったら本当にやらないんだぞ!?
やってきた報告に、心底うんざりしたような表情を浮かべながらそう叫び返した後で。
テントの入り口から見える空に視線を移しました。
――そこに広がっていたのは、黒い夜の空ではありませんでした。
そこには、真っ赤に燃える炎のような紅い空がありました。
あんなことが出来る子に、直談判して言うこと聞かせられるわけ?
そう思うんだったら勝手にやりなさいな。
――私ももう帰るわ。
彼女が最低限の仕事はすると言ったからには、これ以上に事態が悪化することはないでしょうし。
そこから先はもともとあなたたちの仕事なんだから。
そうして最後にそう言い残すと、沙雪さんは言葉通りに、テントの中から立ち去りました。