第5話「Maria Club」Part2

文字数 7,019文字

 放課後。2-Dの教室。
 そこにはまりあ。詩穂理。なぎさ。美鈴。優介。裕生。恭兵。大樹の八人がいた。
 生徒会長選とはいえど選挙である。ブレーンは欲しい。
 そこでまりあは詩穂理に協力を求めた。
 学年主席の頭脳を素直に借りることにしたのだ。
「友達」であるまりあを見捨てるわけにも行かないものの迷っていた詩穂理。
 自分に「軍師」がつとまるか?。
 そしてまりあの魅力なら自分など無用ではないかと。

「まりあ。僕も手伝うよ」
 点数稼ぎにきたのはミエミエの恭兵。
 もともと恭兵に好感を持っていないまりあだが
「恭兵君。ぼくといっしょにやってくれるんだね」
 優介が目をハート型にしていたのでなおさら突っぱねたかった。
 しかし自分が言い出した「作戦」で、いつも一緒にいようと言う四人の少女。
 なぎさのことを考えると突っぱねることも行かない。
 それに認めたくはないが恭兵がいれば優介もくっついてくる。
「いいわ。火野君にもお願いしようかしら」
「喜んで。お姫様」
 いちいち芝居がかっている恭兵。
 不思議なもので作った金髪もシルバーアクセも舞台衣装と思うと、さほど嫌悪感をもたらさない。
 軽い態度すらである。

 恭兵がいるとなるとなぎさが当然よってくる。
「お前は何をするんだよ」
「あたしはまりあの

だもん。だから応援するよ。ね。まりあ」
「ええ。よろしく頼むわね。なぎささん」
 もちろん事前の協定である。こうすればまりあに惹きつけられる恭兵と、なし崩しに一緒の時間が増える。
「ふう。まぁいいか」
 恭兵にしてみれば邪魔だが、まりあのそばにいるためにほうっておくことにした。

「面白そうだな。綾瀬。パフォーマンスなら手伝うぜ。お前と俺。二人の運動神経ならアピール満点だぜ」
 単にパフォーマンスの場を求めているのもミエミエな裕生。
 しかしこれを突っぱねると、詩穂理まで離脱しかねない。
「…………」
 その詩穂理は複雑な心境。自分には逆立ちしても真似できないふたりの動き。
(もっともその逆立ちも出来ないが)
 それを思うと気が重い。
「そうね。おねがいするわ。でも効果的なパフォーマンスの相談は詩穂理さんとしてくれるかしら」
「シホと? お前アトラクションとか見たことあんの?」
「え? えーと……ちっちゃなころにデパートの屋上でなら」
 さすがの詩穂理も幼児のころは普通に子供向けの番組を見ていた。
 ただし姉と妹の三姉妹。番組も女の子向けのものが多かった。これまた普通の話。
 当然ながら裕生はヒーロー物を中心に見ていた。
 見ていたどころかバイト兼実地練習で「戦闘員」を演じたこともある。
 二人の溝は案外深い。だが
「そんなんじゃ話にならないぜ。よし。オレが一から説明してやる。まずはそれからだ」
「う、うん。そうだね」
 逆に教わる形になった詩穂理だが、心なし嬉しそうだ。
(いいの? あんまり派手なパフォーマンスはまずいんじゃない?)
 なぎさが耳打ちする。
(正直それは期待してないわ。でもあまり危険でなければ軽くアピールできそうだし。なによりあの詩穂理さんを見て『風見君は要らない』なんて言える?)
 一緒に一つのことをやることになり、笑顔になる。
 いつもの委員長としての堅物振りがウソのようだ。
 やっぱり女の子。それも恋する乙女。
 だから詩穂理のためにも裕生は加入。

「俺も手伝おう」
 無口な大樹が詩穂理には積極的に語りかける。
 それが不安な美鈴だが、特に断る理由もなくまりあは受け入れた。
 こうして八人のユニットが出来上がった。

「学年主席に女子のスプリンター。ヒーロー候補生に硬派。どういう組み合わせなのかしら?」
 さすがにまりあも苦笑する。
「おいおい。僕を忘れてもらっちゃ困るよ。僕が頼めば女子はみんな味方してくれるよ」
 ぬけぬけと言い放つ金髪少年を白い目で見ているまりあ。
「そうね。女の子を釣るのは上手そうね」
 なぎさの前で辛らつに見えるが、むしろ仲良くしている方が気を揉む。
 だから遠慮なく恭兵にはずけずけ言うお嬢様。
「まりあ。


 まったく空気が読めないのか。それとも皮肉が通じないのかめげない恭兵。
「俺、参上!」
 突如としてポーズを取り台詞をいう裕生。どうやら何かのスイッチが入ってしまったらしい。
 それでどうしてか詩穂理が恥ずかしくなる。例えるなら身内が恥をさらしている感覚か。
 だからごまかすように切り出す。
「そ……それでは『高嶺さん後援会』としての活動を開始と言うことでよいですね」
「いいけど詩穂理さん。ちょっとその名前は堅すぎない?」
「え? 単純にわかりやすく名づけたのですが」
 確かに誰をどうする集まりなのか一発でわかる。だが華がないのも事実。
「そうだな……」
 ポーズを延々つけているはずもなく、普通の立ち方に戻ると話しに加わる裕生。
「『卓越(エクシード)』『選抜(ドラフト)』ででエクシードラ……」
「高嶺組はどうだ?」
「いやよ。そんなヤクザみたいな名前」
 大樹とまりあ。二人同時に裕生をスルー。
「まりあと愉快な仲間たち」
「ベタだわ…」
「まりあちゃん応援団」
「あのねぇ」
「Maria Clubってのはどうだい?」
 キザに決める学園の王子。
「まりあ…くらぶ?」
 鸚鵡返しにする美鈴。子供っぽい顔と声で可愛らしい。
「う……悔しいけど……ちょっと洒落てるかも」
 あまりこの男を認めたくはないが、その名前がしっくりきてしまった。
「いいんじゃない。本人も気に入っているようだし」
 ここぞとばかしに相槌を打つなぎさ。
「よし。決まりだな。このメンツで『Maria Club』だ」

 かくして高嶺まりあ後援会。通称Maria Clubが発足した。

 そのころ、一人勝ちを目論んでいたのが、思わぬ形になった瑠美奈。
「ふっふっふ。直接対決は望むところよ。まずはここでまりあに勝つわ。そうすればずっとリードしっぱなし。何しろ全生徒の頂点。生徒会長ですもの。権力よ権力。おーっほっほっほーっ」
 放課後の2-Bの教室。こちらも彼女と数人の生徒。
「瑠美奈さん~~~また同じ学校で嬉しいです」
 とろんとした口調の女の子。セミロングはありきたりの髪型。顔も普通。メガネが賢さよりもとろさを強調している。
「期待しているわよ。奈緒美」
 彼女の名は高須奈緒美(たかすなおみ)。かつては瑠美奈と同じ中学で、生徒会長の瑠美奈を書記としてサポートしていた。
 一学年下の彼女はこの春に蒼空学園に入学して来た。
 つまり「昔の部下」である。
「はい~~~お任せください~~~」
 まるでピクニックの弁当を頼まれたかのような緊張感のない返事。
「まったく……あなたは本当にのん気ね。敵は高嶺まりあよ。気を引き締めていきなさい」
 なんだかんだでまりあの人気を警戒している。
 『浮動票』が『タレント候補』に集まることがありえる。
「会長選ですか~~~~いっそ実弾を」

?」
 傍らにいた男も一年生。しかしかなりの長身でそうは見えない。
 不健康な痩身で顔色も悪い。
 こちらは奈緒美と逆にいわゆる「てんぱった」状態。
「こらこら。辻。この場合の実弾と言えば現金のことで……」
「カンボジアじゃ本物が飛び交ったぞ!!」
「ニュースになったのはその辺りだが、実際はあちこちでやっている話のようだがな」
 もう一人の男子。こちらは中肉中背。特徴のないのが特徴のような生徒だった。
土師(はじ)。こいつ抑えといて」
 その広いおでこを押さえて苦悩する瑠美奈。
 この二人も「かつての部下」である。
 頭脳労働担当の土師拓也と肉体労働担当の辻 元樹(もとき)である。
 三人とも瑠美奈の実家のグループの重役の子供たち。
 親にしてみれば取り入るつもりもあるだろうが、子供たちにしてみれば瑠美奈と言うのはなかなか面白い「ボス」のようだ。
 打算よりも面白さ優先で付き合っていた。
 意外に人望のある瑠美奈であった。

 何とか落ち着いて再び決意を新たにする。
「相手にとって不足はないわ。明日から勝負よ。まりあ」

 翌日。放課後には二人の候補が公示された。
 もともと単独候補だったくらいだ。ましてや大財閥の令嬢二人を相手にする気概を持つ生徒がいなかった。
 この二人での争いとなる。
「いよいよ始まったわね」
 掲示板のポスターの前でつぶやくまりあ。傍らには詩穂理。美鈴。なぎさの姿が。
 優介。恭兵。裕生はクラブ活動が。大樹は双葉に付き添って帰宅した。
 女だけのグループ。
 その一同の前に「対立候補」である瑠美奈たちが。
「!」「!」
 とにかく仲の悪いまりあと瑠美奈。あうなりにらみ合いになる。
「あら。ごきげんよう。まりあさん。私の猿真似をして生徒会長に立候補したんですって?」
 カチンとこないほうがおかしい。
「ごきげんよう瑠美奈さん。相変わらず光り輝いていますわね」
 言うまでもなく瑠美奈が一番気にしている「おでこ」のことである。
 ワンパターンも逆を言えば定番。一番効果的な一言である。
 むかむかとくるのを抑えている瑠美奈。

 まりあのバックアップの三人ははらはらとしている。
 それに対して瑠美奈陣営の奈緒美はニコニコと。土師はクールに無表情。辻は血走った目をしていた。
「ふ、ふん。いつまでもそんな台詞で怒ると思ったら大間違いよ。あんたほど小さい胸してないし」
 度量と言う意味だろうか?
「な? 胸のサイズなんてワンサイズだけの違いでしょうが」
 いきなり余裕のなくなるまりあ。
 Bカップで別に小ぶりでもないのだが、顔の可愛さに比べるとボディはややメリハリがないなと感じているまりあ。
「お生憎さま。私、最近大きくなったみたいでDに買い換えたのよね」
 顔のよしあしならまりあの勝ちなのだが、実はプロポーションとなると瑠美奈に軍配が上がる。
 別にまりあが発育不良と言うわけではないが、瑠美奈のプロポーションは17才にしてはメリハリが効いていた。
 実のところ若干「負けている気が」しているまりあ。そのせいかことさらおでこのことを攻める。
「Dがどうしたって言うのよ? この娘なんかGよ!」
 いきなり前に押し出される詩穂理。
「え? え? え?」
 頭はよくても運動が苦手なため(はっきり言えば鈍い)、まったく抵抗できないままさらし者に。
「おおっ」
 さすがに滅多にお目にかかれない92センチGカップのバストは大迫力だった。
 ましてや身長が156と平均より若干低い。
 それだけになおさらアンバランスに胸が目立つ。
 思わず見入る瑠美奈たち。女でもセクハラで訴えられそうだ。
「ふん。確かに立派な胸だわ。これには負けるわね」
 3サイズの差では逆に悔しいなんて気も起きない。
 むしろしげしげと眺めてしまう。
「あ、あの……恥ずかしいから止めてください」
 消え入りそうな声で哀願する詩穂理。
 長い前髪と大きなメガネで素顔は隠しているが、なにしろそっくりなAV女優が存在する。
 つまり「そそる」顔なのである。
 それが頬を染め恥じらい、身をくねらせている。
 その場にいた大半が女子だが、それでもなんだかおかしな気分にさせる優等生である。
 詩穂理にとっては大きな胸が、男性の視線を集める。バランスを崩す。重い。服の選択の幅が狭くなるなどマイナスにしかなってない。
 しかも大半の女子は羨んでも同情はしてくれない。

 なんだか変な気分にさせられたので解放される詩穂理。
 大きな胸を押さえて荒い息をしている様子は、誤解してくださいといわんばかりだ。

「ふん。確かにその胸は凄いわ。さらに言うなら学年主席の頭脳」
 女の子としてはあまり頭のよさだけ言われるのも「可愛げがない」といわれるようで複雑だったが、まだ胸よりはそっちの方が言われてもいいことなので黙っている詩穂理。
「でも優秀なブレーンがいたとしても本人に求心力がなければ難しいんじゃなくって?」
 粗を探して攻め立てる。そのときは恍惚としている瑠美奈だが
「瑠美奈さん~~~~お言葉ですけど相手は『学園のアイドル』ですよ~~~」
 気の抜ける調子で奈緒美が指摘する。
「求心力はともかく、人気じゃ不安要素はなさそうですが」
 土師が冷静に指摘する。
「それがどうしたっていうの? これは人気投票じゃないのよ。生徒会長を決める選挙なのよ」
 いうことはもっともだ。これで権力欲しさと言う動機でさえなければ……
「大体ゆくゆくは橘コンツェルンの頂点に立つであろう千鶴お姉様。その従姉妹といえど妹みたいなわたしが、学校の選挙程度を制覇できないでどうするのよ」
「ご立派ねぇ。でも生徒は誰を選ぶかしら。そもそもあなたのおでこばかり印象に残って、名前を覚えてないんじゃないかしら」
 実家がライバル関係と言うこともあるが、この二人はとにかく仲が悪い。
 もっとも見方によっては遠慮なく地を出し合っているだけに、かなりの親友とも取れる。
「高嶺さん。でも今の選挙じゃ明らかに本人を指してある通称なら有効票ですよ」
「するとオデコって書かれたら投票が成立するの? くっ。生まれついてのアピールポイントとは恵まれているわね」
「悪口なのか悔しがっているのかはっきりしなさいよっ」
 これもまたよくわからない瑠美奈の言い草である。

「騒がしいな。何をもめているんだ」
 まだ制服姿の芦谷あすか。女子空手部の部長が何人かを引き連れて歩いてきた。
 放課後だし部活のための移動だ。
 ちらりと掲示板のポスターを見る。
「ああ。生徒会の選挙か」
 あまり興味がなさそうである。その場の面々を一瞥する。なぎさの姿を見つけた。
「綾瀬。お前は高嶺の陣営なのか?」
「う、うん。そうだよ」
 口ごもったのは「よくない雰囲気」を感じ取ったから。
 ちょっと前にトラブルが起きているなぎさとあすか。
「ふぅん。もしかして、火野恭兵もなのかな?」
 なぎさは俯くようにして首を縦に振る。
「そうか。どちらかと言えばテニス部で体育会系といえる高嶺に投じようかと思っていたが気が変わった。女子空手部は全員海老沢に投票の方向で行こう」
 そのときの瑠美奈は単純には喜ばず、不思議そうな表情をしていた。
「それはありがたいけど、なんでいきなり?」
 本人だけならともかく、部長の座を利用して部全体の投票を左右するとは。
「海老沢がいいというより、火野恭兵が気に入らない。ついでに言うならやたらに『女』を強調した高嶺もあまりな。そんなところ」
「な?」
 まりあにしてはいいがかりも同然だった。
 女が女らしくてどこが悪い? そういう思いだった。
 それが表情に出ていた。それに気がつくあすか。
「一番気に入らないのは高嶺。あんたが男にうつつを抜かしていること。男に媚びているような奴に、生徒のリーダーなんて任せられない。あたしは海老沢に入れるよ」
 言うだけ言うとあすかたちは部活へと急ぐ。
「おーほっほっほ。味方や好きな相手に足を引っ張られるとは、なかなかに先行きの楽しみな選挙だわ。おーっほっほーっ」
 芝居なのか。それとも地なのか高笑いをしてその場を立ち去る瑠美奈。
 硬直したままのまりあ。申し訳なさそうななぎさ。
「ゴ…ごめん。まりあ。芦谷とはちょっともめたことがあって…」
「そんなのどうだっていいわ。わたしが優介を好きだから生徒会長には向いてないですって? 人を好きになれない人物が生徒のリーダーになんてなれないわよ。そう思わない。美鈴さん?」
「ふぇ? は…ハイ。それも一理あります」
 瑠美奈のパワーに圧倒されて言葉か出てなかったのだ。
 それがやっと一言を発せた。
「ですが、恐らくは相手陣営はネガティブキャンペーンをやってくるかと」
 平たく言えば粗を暴いて評価を下げさせる行為である。
「なにか別のアピールをした方がいいかしら?」
 優介を好きな自分を否定されて、まりあのやる気に火がついた。
 しかし暗礁に乗り上げた。

「それならアタシがお手伝いするんだニャン」
 べたべたな語尾の少女が現れた。
 ネコミミのカチューシャ。たまたまなのか素顔だが、普段は視力は1.2なのにメガネ着用。
 尻ではなく腰の部分から伸びている「尻尾」。

 コスプレで名が知れている里見恵子が協力を申し出てきた。

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