第10話 鉄の鎧と苦悩

文字数 1,299文字

「出来たね!シュロ」「出来たね!ツワブキ」
2人は自分の2倍ほど大きな鉄の鎧を見上げて、嬉しそうに言った。
「頑丈そうだね」「強そうだね」
双子の王のうっとりとした眼差しの中で、無機質な鎧たちは横に6体並び、動く時を静かに待つ。

「素晴らしゅうございます」
「鉄の鎧を魔法で動かすなど、凡人には思いつきますまい」
「これで世界は火燈のものです」
「さすが双子の王」
双子の王に対して、側近たちは賛同の言葉を我先にと口にする。
こうしておけば、自分の身は安泰だ。言葉だけで、自分の地位と財産を守れるのだから安いものだ。楯突くなどバカのする事だ。と言わんばかりに、今日も双子の王の機嫌を取るために、心にもない言葉を口にする。

「動かしてみたいね!シュロ」「戦わせてみたいね!ツワブキ」
「どれくらいすごいかな」「2元帥くらいには強いかな」「いや、5元帥くらいは強いはずだよ!」自分たちが投獄した元帥を単位とし、双子の王は、この鎧が実際に戦っているところを想像する。

「ねえ、今すぐ動かせないの?」ツワブキが1人の技術者に聞く。
「どこかの街で試してみたいんだけど」シュロが別の技術者に言う。
「う、動かすだけなら可能でございます」
「ま、街までは、いダッ…移動手段を調整いたしませんと」
「早く動かしたいんだけど!」「早く戦わせたいんだけど!」
双子の王の詰め寄りに、その場にいた技術者たちがウッと息を呑む。

双子の王に披露する前夜、6人の技術者たちは、頭を抱えていた。
双子の王の命令で、鉄の鎧を作ったはいいが、注文されるがまま性能を上げすぎた故に、動かせる魔法使いが5人しか見つからなかった。そのうち3人は、2時間ほどで魔力切れをおこし、回復に一晩かかった。
「どうする、このままじゃ出来ていないのと同じだ」
「性能を落とすしかないだろう」
「性能を落とすと、王たちの言うレベルまで遠くなるぞ」
「そんな事になったら、ここにいる全員が投獄されるかもしれない」
「なんて事を思いついてくれたんだ」
「簡単に出来ると思ってるのが、タチが悪い」
技術者たちの不満は、何の解決策もないまま、さらに新たな不満と不安を生み出し続けていく。

「私たちの作った物が、罪のない人を無差別に殺すなんて」
「私たちの作ったものが、どこかの街を壊すなんて」
「武器や鎧は戦のために作るが…」
「戦をしてるのも、火燈と水恵だけじゃないか」
「ああ、私たちはどうすればいいんだ…」

鉄の鎧を動かさなければ、自分たちの首が飛ぶ。家族も親類も殺されるだろう。
他の職人のようにこの国を捨てるには、両親が、祖父母が、幼い子が、身重の妻が、長旅に耐えられるのか。
新たな地で、鉄を打つしか出来ない者が、職を得て生活していけるほどになるのか。
国を出るための税と、隣国への旅費をどう工面するか。
考えて、考えて、考え疲れて思考が止まる。そして、変化を諦めるようになり、今を受け入れてしまう。

「動かせるようにするしかない」
「もっと軽量化するしかない」
「もっと強い魔法使いを探すしかない」
「私たちがどうにかするしかない」
追い詰められた技術者たちは、難題をどう解決するかを話し合う。
国の家畜は、こうして出来上がる。
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登場人物紹介

葵 アオイ

主人公。魔法使い。

楡 ニレ

水恵の現国王。葵の兄。妹思い。仲間想い。お人好し。

梛 ナギ
水恵の現参謀長。文武両道。楡の幼馴染。

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