第５話　帰り道

「りょーた君って、童貞？」

お酒を飲んでも、いつもの清潔感に溢れる彼女の口からそんな言葉が出るとは思ってもなかった。

（やばい！これはどう答えれば正解なんだ。僕が童貞だと本当のことを言えばダサいと思われるかもしれないし、逆に嘘をつけば彼女と行為に及んだ場合下手だと思われるかもしれない。ここは、とりあえず彼女の様子をみてみるか。）

「なんで急にそんなこと聞くの？」

「やっぱり・・・」

彼女は独り言のように小さな声で言ったが、僕の耳には微かに聞こえてきた。

（選択肢をミスったか！まずい）

「いや、ごめんね！なんでもない気にしないで」

彼女は、笑みを浮かべながら少し申し訳なさそうに言った。

「わかった・・・」

（とりあえずは、どうにかなったかー。澄川さん急すぎるよ！）

僕と彼女は、居酒屋のある商店街を抜け近くの公園の横を通り過ぎようとしていた。
すると、前から4～５人ほどのいかつい集団が向かってきた。

(頼むから絡んでくるなよー）

そう思っていたが、僕の願いは叶わなかった。
いかつい集団のリーダーぽい大柄な男が澄川さんにわざと当たってきた。

「おいおい、そこのお嬢ちゃんどこみて歩いてんだよー」

「ごめんなさい・・・」
彼女は、集団の方を振り返り深く頭を下げた。

（僕は、こういうときどーすればいいんだ）

大柄な男が澄川さんに近づく。

「謝って済むんなら苦労しねんだよ！」
澄川さんの目の前で大声で怒り口調で言い放つ。

澄川さんは、なにもすることができずただ下を向いて震えながら立っていた。

「も、もう十分じゃないでしょうか彼女だって謝ってますし。」
僕は、男の足元を見て視線をそらし勇気を振り絞って彼女の援護をした。

「なんだお前、この女の彼氏か？」
男は、僕の胸ぐらをつかんで威嚇してくる。

（僕が澄川さんの彼氏⁉いやいやありえない絶対にありえないって）

僕が否定しようした瞬間、澄川さんの声が聞こえた。

「そうです、この人は私の彼氏です。その手を離してください！」
彼女の声は、強く激しかった。

（えっ。えーー⁉）

「そうかお前の彼氏かそれならお前も同罪だなー」

「うっ！」
男の大きな拳が僕の顔面に勢いよくあたり、僕は気づいたら地面に倒れていた。

「ぐはっ！」
そのあと、周りにいた他のいかつい連中にもぼこぼこにされ最後に、大柄の男に渾身の一蹴りを腹にくらい集団は満足したのか去っていた。

「りょーた君、大丈夫？ごめんね私のせいで・・」
澄川さんは泣きながら、気絶しかけていた僕に声をかけた。

僕は、必死に立ち上がり公園のベンチまで足を引きずりながら歩き座った。
そして、澄川さんも隣に座り真っ白なポーチからハンカチを取り出し、僕の出血を止めようとしてた。

「あっ、ありがとう」

「あの人たちひどいっ」
涙を擦りすぎたのか目が真っ赤になっていた。

「ごめんかっこ悪かったよね俺」

「そんなことないよ、りょーた君かっこよかった」

（僕は、彼女からその一言をもらいうれしさのあまり夜空を見上げ笑い安心したのかそこからの記憶は全くない）

「ケガがひどい・・私の家で手当てしないと」
この言葉が、いろいろあった今日で最後に聞いた言葉だった。