第6話
文字数 1,575文字
奴等を引き付けるためには、奴等がここを攻撃し始めてから出ていった方が良い。
宿の主人は無茶だと言ったが、勝算がなければそんな事はしない。
そして実際、私の馬を追い始めたごろつきは、その数を大きく減らしていた。
フラッド・パスに逃げ込む。パスの両側に伸びる丘の上には、馬の走れる道はない。上から狙われる事は考えなくていい。
馬がそろそろ危なくなったところで、川の蛇行点に達した。
パスが少々広がった場所であり、丘に向かう小道がある。
そこに駆け上り、馬を放すと、岩陰で待った。
蛇行点であるから、こちらは相手が無防備に姿をさらす瞬間を狙えばいい。
手早く弾を込め直し、銃を構える。
最初の二発で、二頭の馬が主を失った。
だが連中も、むざむざやられるような奴は既に死んでいる。
私の隠れた岩に、銃弾が集中した。跳弾が頬をかすめ、血がにじむのが判る。
「魔法使い、聞いているか!」
銃弾の雨が途切れたところで、クルーガーのだみ声が、フラッド・パスの谷に響いた。
「降伏するなら、命はとらねえ!」
「お断りだ」
私も声を張り、言い返した。
「雑魚の手下になる気はないんでな」
「……野郎ども、あいつをぶっ殺して頭の皮を剥げ!」
ごろつきたちが愚にもつかない冗談を口にし、どっと笑い転げた。
笑ってはいるが、銃は私のいる方向に向いている。
それがいっせいに火を噴き、私の幻影を貫いた。
幻影であるから、無論、倒れない。ごろつきどもが恐怖の声を上げ、まだ若い一人が馬の首を返した。
逃げ出そうとした奴を、モリソンが撃つ。
額のあたりから脳漿を飛び散らせ、若いごろつきは死体に変わり、馬から落ちた。
「……てめえ、人間じゃねえのか」
クルーガーが唸る。
答える義理はない。
幻影の顔に歪んだ笑みを浮かべさせ、私は天を見上げた。
この時期にはありえない雨雲が、次第に広がり始めている。
クルーガー達がそれに気づいたのは、日が陰ったときだった。
日が陰るとすぐ、大粒の雨が落ち始める。
あとは、この小道に上がってこようとする奴を寄せ付けなければ良いだけだった。
一時間ほどで、水がやってくる。
「助けてくれ、俺は泳げねえんだ!」
誰かが叫んで、そのまま流されていった。
馬と男達の悲鳴が消えた後、日の光が射す。
手下を盾にして、小道の水際で自分だけ助かったクルーガーが、呆然と水の引いていくさまを眺めていた。
その背後から銃を突き付け、撃鉄を起こす。
「さてと、一緒に来てもらおうか」
反論すれば撃つだけだった。
クルーガーを縛り上げて馬に括り付け、戻った私を、ユパカが厳しい表情で迎えた。
「魔法使い。そろそろやめなさい」
呪術師の口調だった。
「何を?」
「魔法使いは、命を削っている。ユパカは、それを見過ごせない」
「お気遣いは有り難いが、弾の無駄遣いは嫌いでね」
それよりもクルーガーだった。勝手に殺してもいいが、まだ吐かせる事はある。
それにクルーガーの手下がいるのは、この街だけではないはずだった。
しかしこの悪党は、なかなか歌わなかった。
囀る気がないなら、こちらからそうさせてやるより他にない。
悪党は結局、涙とよだれを流しながらひたすらしゃべる、哀れな存在に成り下がった。時折悲鳴を上げるが、それは銃を使って消す。
話が終わったとき、クルーガーの手足はすべての関節が折れていた。
頑強に同席を求めたユパカが、呪術師の無表情に感情を隠しきれず、わずかな嫌悪の色を浮かべていた。
「言い残す事はあるか、クルーガー」
クルーガーにかけた術を解いたところで、私は聞いた。
「殺さないでくれ…」
「なるほど」
私は無造作に銃の引き金を引き、すすり泣く悪党を死体に変えた。
宿の主人は無茶だと言ったが、勝算がなければそんな事はしない。
そして実際、私の馬を追い始めたごろつきは、その数を大きく減らしていた。
フラッド・パスに逃げ込む。パスの両側に伸びる丘の上には、馬の走れる道はない。上から狙われる事は考えなくていい。
馬がそろそろ危なくなったところで、川の蛇行点に達した。
パスが少々広がった場所であり、丘に向かう小道がある。
そこに駆け上り、馬を放すと、岩陰で待った。
蛇行点であるから、こちらは相手が無防備に姿をさらす瞬間を狙えばいい。
手早く弾を込め直し、銃を構える。
最初の二発で、二頭の馬が主を失った。
だが連中も、むざむざやられるような奴は既に死んでいる。
私の隠れた岩に、銃弾が集中した。跳弾が頬をかすめ、血がにじむのが判る。
「魔法使い、聞いているか!」
銃弾の雨が途切れたところで、クルーガーのだみ声が、フラッド・パスの谷に響いた。
「降伏するなら、命はとらねえ!」
「お断りだ」
私も声を張り、言い返した。
「雑魚の手下になる気はないんでな」
「……野郎ども、あいつをぶっ殺して頭の皮を剥げ!」
ごろつきたちが愚にもつかない冗談を口にし、どっと笑い転げた。
笑ってはいるが、銃は私のいる方向に向いている。
それがいっせいに火を噴き、私の幻影を貫いた。
幻影であるから、無論、倒れない。ごろつきどもが恐怖の声を上げ、まだ若い一人が馬の首を返した。
逃げ出そうとした奴を、モリソンが撃つ。
額のあたりから脳漿を飛び散らせ、若いごろつきは死体に変わり、馬から落ちた。
「……てめえ、人間じゃねえのか」
クルーガーが唸る。
答える義理はない。
幻影の顔に歪んだ笑みを浮かべさせ、私は天を見上げた。
この時期にはありえない雨雲が、次第に広がり始めている。
クルーガー達がそれに気づいたのは、日が陰ったときだった。
日が陰るとすぐ、大粒の雨が落ち始める。
あとは、この小道に上がってこようとする奴を寄せ付けなければ良いだけだった。
一時間ほどで、水がやってくる。
「助けてくれ、俺は泳げねえんだ!」
誰かが叫んで、そのまま流されていった。
馬と男達の悲鳴が消えた後、日の光が射す。
手下を盾にして、小道の水際で自分だけ助かったクルーガーが、呆然と水の引いていくさまを眺めていた。
その背後から銃を突き付け、撃鉄を起こす。
「さてと、一緒に来てもらおうか」
反論すれば撃つだけだった。
クルーガーを縛り上げて馬に括り付け、戻った私を、ユパカが厳しい表情で迎えた。
「魔法使い。そろそろやめなさい」
呪術師の口調だった。
「何を?」
「魔法使いは、命を削っている。ユパカは、それを見過ごせない」
「お気遣いは有り難いが、弾の無駄遣いは嫌いでね」
それよりもクルーガーだった。勝手に殺してもいいが、まだ吐かせる事はある。
それにクルーガーの手下がいるのは、この街だけではないはずだった。
しかしこの悪党は、なかなか歌わなかった。
囀る気がないなら、こちらからそうさせてやるより他にない。
悪党は結局、涙とよだれを流しながらひたすらしゃべる、哀れな存在に成り下がった。時折悲鳴を上げるが、それは銃を使って消す。
話が終わったとき、クルーガーの手足はすべての関節が折れていた。
頑強に同席を求めたユパカが、呪術師の無表情に感情を隠しきれず、わずかな嫌悪の色を浮かべていた。
「言い残す事はあるか、クルーガー」
クルーガーにかけた術を解いたところで、私は聞いた。
「殺さないでくれ…」
「なるほど」
私は無造作に銃の引き金を引き、すすり泣く悪党を死体に変えた。