第1話 -2-

文字数 570文字

「やっぱダメですかねー」
 奥村が上げた原稿を上原がチェックする。音声起稿はどうしても聞きとれない箇所は創作せず、正直にわからなかったと示す必要がある。【KIKOU】ではその場合〈***〉と表記するルールで統一している。今回、奥村が仕上げた原稿は後半ほとんどが〈***〉で埋まっていた。
 上原はヘッドフォンで音声を確認する。前半、中盤、後半とざっくりチェックしているようだが、終盤のほうで上原は険しい顔つきになった。
「あー、こりゃひどいわ。私には会話してるかどうかもわかんない」
「場所を変えてレコーダー持っていけなかったのか、後半ずっとこんな感じです。ようやく男がしゃべりだしたーと思って、めっちゃ耳すませたんですけどダメでした」
「いや、無理っしょこれは。あんたで無理なら絶対無理」
「悔しいですよ。せっかく決定的なこと言ってるかもしんないのにー」
 天を仰ぐ奥村に、上原は個包装のペンタゴン煎餅を差しだす。上原のお気に入りのお茶請けである。お菓子大好きな上原がお裾分けしてくれるというのは、実は相当レアケースだ。
「よく頑張った。お疲れさん。依頼人の女性には全力を尽くしましたって、きちんと説明しておく。次はご褒美案件回すから、息抜きしな」
「裁判は嫌ですよ」
「人気アイドルのラジオ書き起こし。【土野小波のツチノコにょっき☆にょき】」
「やります!」
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