1 ✿ 魔女の必殺技!

文字数 2,178文字



 帯刀家に現れた、ソックリア
 死んだはずのオーレリア・ジョンソンとそっくりの、素性の知れぬ女性だ。
 そして彼女は【痴漢犯】としても手配されていた。

「なんで、あんたがここに!?」

 良治はハッとしてマリーを向く。

マリーを狙いにきたのか!?

 良治はサッと、マリーを自分の後ろに隠した。
 マリーが、痴漢犯ソックリアの似顔絵を描いたことで逆恨みされたのだろうか

「私も、その女の子がこの家にいるのには驚いたわ」

 ソックリアは、長そでで額の汗をぬぐう。

「もう一度訊くわ。帯刀作は、どこ?
「Verschwinde!(出て行け)」
「お嬢さん、ドイツ人?

 一発の銃弾が良治の頬をかすった。
 赤い血がつぅ…と伝う。

このままじゃ、殺されちまう

 良治は庭の小石を手に取った。
 ソックリアが銃を再装てんしている間に、窓ガラスへ投げる。
 銃弾で穴が開き、ガラスにヒビが入っているので、割れやすいと考えたのだ。

 ガラスが砕け、ソックリアの足もとに散らばる。
 彼女の注意がそれると、マリーの手を引き、その場から逃げ出した。
 二人は剣道場へ逃げこんだ。

 良治は、道場の竹刀を取る。
 マリー絵具を手にとった。道場の絵を描くために、キャンパスや画材を置いたままだったのだ。

どこに逃げたって一緒よ!

 ソックリアも道場へやってきて、二人へ銃口を向けた。
 すると、ソックリアの背後でふわふわとキャンバスがうかび上がる。
 浮かんだキャンバスの影に気づき、ソックリアはそれを叩き落とした。

「すきあり!」

 良治は竹刀で、ソックリアの手首を打つ。
 銃を奪い、床をすべらせて道場のすみに飛ばした。

「いったぁ…ちょっとなにすんの…ははっ、やめ、あははははは!

 ソックリアが突然、腹をよじって笑い出した。
 マリーが絵具のを浮かばせて、彼女の体中をくすぐる。

「これで終わると思うな、ですよ」

 マリーは絵具のチューブのフタを外した。
 中の絵の具が、宙を泳ぐ魚のように流線を描いて浮かびあがる。


必殺、魔女の目潰し!!


 絵の具をたっぷり、ソックリアの目にあびせた。
 シンガポールでも悪漢にお見舞いした技だ。

「いいぞ、マリー!」
 のたうちまわるソックリアに、良治が竹刀をふりかぶった時だった。

「……むかつく」

 ソックリアは、ぎりっと歯をかみ合わせると、

「στροφή」

 小さな声で呪詛をつぶやいた。

「え? 今なんて? あ…う……あぁぁ!!」

 良治の右肘がバキベキと痛痛しい音を上げる。腕があらぬ方向へ曲がった。

「あ……ぁ…ぁ…」

 良治はその場にうずくまる。
 体中が尋常でない苦痛に苛まれ、骨や筋が悲鳴を上げた。

「これは呪詛? ひどい…こんな…」
 マリーは、彼の落とした竹刀を取った。

呪詛を解きなさい!!

 マリーは、ソックリアへ竹刀をはらう。
 すると良治に対して向けられた魔法が、マリーへ矛先をかえた。
 だがマリーは魔法の影響を強くは受けなかった。

「あなた、案外タフなのね? ――――βράχος」

 ソックリアがさらに呪詛を唱えた。
 途端、マリーの左肩が石のように重くなり、右の膝がうまく曲がらなくなる。不自由な部分はあったが動くことができる。シンガポールの事件では敵の魔法であやつられ、あわや銃で自分の喉を撃ち抜くところだった。あれからマリーは精神統一や魔法の練習を重ねたのだ。

 この女は良治を痛めつけてマリーを脅迫し、「帯刀作」の情報を引き出すつもりなのだろう。

「負けて…たまるか、ですよ!!」

 自分が負けたら、良治が殺されてしまう。
 マリーは自分にかけられた呪詛にあらがい、持てる力のすべてを使って竹刀を、ソックリアへ振るった。しかし渾身の一撃もかわされてしまう。

「くっ…う……うぅ

 とうとうマリーの身体がオイルのさされていないブリキのように動かなくなった。

「おろかな魔女さんね」

 ソックリアはクスッと笑って、剣先マリーの右目に合わせた。


目には目を。絵具のお返しに、剣はどう?


 ソックリアが、竹刀で彼女の目を突こうと構えた、その時。
 白くて固いなにかが、ソックリアの右頬にぶつかった。

マリー、逃げろ!!

 良治が折れていない左手で、自分の靴を投げつけたのだ。
 ソックリアの顔にもう一足、お見舞いする。
 良治の利き手は右だが、狙いは命中した。
 良治は、道場にあった別の竹刀を取る。

おらああ――!!」

 ソックリアとの間合いをつめ、速球を打ち返す勢いで彼女を壁へたたきつけた。

 ✿つづく✿
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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