乙女たんを応援する会&警察の皆さん

文字数 1,948文字

「乙女たーん!」
「生で見る乙女たんは、凛々しくて美しいなぁ!」
「地球を守れ、乙女たん!」
 声のするほうを見てみると、「乙女たんを応援する会」とプリントされたお揃いのTシャツ(イラスト入り)を着た、オタク風の一団がいた。
 そいつらの声援によって、空中でバランスを崩した乙女は、攻撃できずに地面に着地した。そして、そいつらのほうを振り向いて、一喝する。
「な、なんだ貴様らはっ!? 気色悪いから、私にたんとかつけるな!」
「おおっ、乙女たんがこっちを見てるぞっ!」
「乙女たんっ! 乙女たーん!」
「怒った乙女たんもかわいいなぁ……!」
 こいつらが例の、「乙女たんを応援するコミュニティ」の連中か……。お互い、厄介なファンがついたものだ……。
 なんか、地球の平和とか、街のために戦うとかどうでもよくなってくるから、やめてほしいのだが……。
「グオオオオオッ!」
「ギャアアアアッ!」
 もう、この幻獣どものほうが、わかりあえる余地がある気がする。
 もうやだ、この国民ども……。
 ともかく、これ以上動画を撮られる前に、さっさと倒しちまおう。
 俺は早く家に帰って、だらだらしたいんだ! 帰宅部舐めんな!
 そうとなったら善は急げ。俺はもうパンツ丸見えになるのを気にすることなくジャンプして、積極的にトリケラトプス型に攻撃を仕掛けていく。
 だいぶこの体にも慣れてきたので、割と簡単に幻獣の角を全て斬り落とすことができた。 あとは、とどめだっ!
 俺は角がなくなった脅威がなくなった幻獣の背中に飛び乗ると、脳天目がけて男の娘ソードを突き立てた。
「ギエェェェェ!?」 
 確かな手ごたえとともに、幻獣から悲痛な叫び声が上がる。
 やがて、徐々に輪郭が歪んでいき、最後には消滅してしまった。そのまま、俺は地面に着地する。
 ……すまんな、種族を越えてわかりあえる日も来るかもしれないと思ったが、そんな悠長なことは言ってられなかったわ。
 そして、乙女も――
「たあああっ!」
 気合いとともに刀を一閃させて、ティラノザウルス型の首筋に強烈な一撃を食らわせた。
「ギィエエエエーン!?
 ティラノザウルス型も叫び声を上げながら後方に倒れ込む。
 そして、こちらもゆっくりと消滅していいった。今回は、相手を逃がすことなくしとめられたわけだ。
 最後は、ちょっとあっけないぐらいだったが、これで俺たちの勝利。初陣にしては、出来すぎだろう。
「ふん……。どうやら今回は、貴様にも少しは助けられたようだな」
 まったく素直じゃないな、ツンデレ乙女め。
 でも、逃げ回るだけよりも、こうして乙女と同じ舞台で戦えることは素直に嬉しい。……って、これじゃ、男の娘戦士推進団体の思う壺かもしれんが。
「えへへ、敵対勢力同士かもだけど、これからもよろしくね、乙女ちゃん」
「ふんっ、まだ貴様のことを完全に信用したわけではないがな」
 男の娘戦士を演じて、乙女と会話するのはなんか新鮮だ。やっぱり、女の子のフリして話すのって楽しいなぁ……。
 俺がそんなことを思っている間に、一足遅れで、警察のパトカーやら、機動隊員輸送用の大型バスが到着した。
 ……ふっ、遅かったな、警察の諸君。幻獣ならば、俺と乙女が見事に倒してやったところだぜ。
「いたぞ! あれが男の娘戦士だ!」
「とっ捕まえろ!」
「あー、あー、マイクテスト。無駄な抵抗はやめて、投降しなさい。……繰り返す、無駄な抵抗はやめて、投降しなさい」
 …………。あ、あの……俺、地球の平和のために、一生懸命戦ったんですが……。
 くそっ! 非合法組織って厄介だな!
「もうっ、覚えてなさいよっ!」
 俺は悪役のような台詞を吐くと、路地に入って姿をくらますことにした。それなのに、一番近くにいる乙女は俺のことを追うそぶりはない。
「……なんであたしのこと、追わないの?」
「貴様には借りができたのでな。行けっ」
 変なところで、律儀な奴だ。ともかくも、今はありがたい。
「恩に着るよっ! ありがとっ!」
 俺は路地に入って逃げ始めた。そのあとを、警察の人間が複数追ってくる。走るのは苦手だが、俺には奥の手がある。
「……元通りになぁ~れ♪」
 路地をいくつか曲がったところで、例の言葉を口にする。すると、俺の身体は一瞬光に包まれて、元の姿に戻った。
「……君っ! ここを今、セーラー服を着た怪しい奴が通らなかったか!?
「あー、あっちに行きましたよ?」
 追いついた警察の人にデタラメを教えて、アサっての方向へ走らせる。
 当然、俺が男の娘戦士だとは気がつくことなく、全力で走って行ってしまった。お勤めご苦労さん。
 ……やれやれ、危ないところだったぜ。
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登場人物紹介

牝野雄太……男の娘戦士に選ばれてしまう。帰宅部であることに誇りを持つ男子高生。

牝野雄太(変身後)……超かわいいJK風男の娘戦士。ネットに勝手に投稿された動画が大ヒット。濃ゆいファンとクラスメイトたちに応援され、ときおり恥ずかしい動画を撮られながら戦う。

双木弥生……見た目は美少女だが、性別は男(?)。雄太のクラスメイト。スキンシップが大好き。

男川乙女……男川流剣術の後継者であり、政府が宇宙からの侵略者に備えて開発したパワードスーツを着用し「女の娘戦士」として戦う。雄太の幼なじみ。

百合宮ペン子……男の娘戦士推進団体戦闘支援科のお姉さん。公私さまざまな面で雄太をサポート。学生時代は男の娘もののネット小説を投稿していた。


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