第1話 ルイ・マックールからの招待状
文字数 3,152文字
ルナ ルナ 長い三つ編みの女の子
ルナ ルナ やさしい心の持ち主
ルナ ルナ お月さまのいちばん
きれいな夜にはじまる
思い切って 挑戦してごらん
わくわくする きみの未来へ
今夜は、世界中の誰もがドキドキして眠れない。
だって、
あの
世界一の大魔法使いルイ・マックールが、なんと百年ぶりに――ことの始まりは一週間前。
それは世界中をおどろかせた、突然のお知らせだった。
『みなさん、ごきげんよう。
このたび、わたくしルイ・マックールは、およそ百年ぶりに、新しく弟子をとることに決めました。
つきましては、次の満月の夜十二時に、弟子選びをします。
人間でなくてもけっこうです。
弟子とり会場は、お近くの公園や、学校のグラウンドです。
それぞれの会場へ行って、心の中で
そうすれば、わたくしルイ・マックールが、どこかから見ていてその場で選ばせていただきます。
それではみなさん、次の満月十二時に。
新たなる弟子との出会いを、心より楽しみにしています。
ルイ・マックールより』
このお知らせにより、世界一の大魔法使いルイ・マックールの百年を超える長い長い
このできごとは、ルナたち〈魔法使わない〉の方が多い国でさえ、大ニュースになった。
次の日は朝から、町中のお洋服屋さんに大勢の人が押しよせ、
おかげでお洋服はもちろん、美容室にデパートのコスメコーナーから古着屋さんまで、売り上げはどこもかしこも絶好調。
本屋さんや図書館もおおにぎわい。
できるだけ見栄えのよい魔法の参考書が、数日の間で大ベストセラーとなった。
みんなが夢中になって弟子になりたがる、ルイ・マックール。けれど、詳しいことは、正直よくわかっていない。彼についての
ルイ・マックールとは、
おまけにその姿は天使のような美少年というから、当時は彼を目当てに世界中の女の子たちが、彼の住むオシリス
もちろん、山は大パニック。
オシリス山に住んでいた木や花の精霊たちはみんなどこかへ逃げ出して、オシリス山は見違えるほどやせた山になってしまったという。
それからかもしれない。ルイ・マックールが、みんなの前に姿を現さなくなったのは――。
だから今、彼がどこにいるのか誰も知らない。
時どき変装して舞踏会に行っているという話を聞くけれど、本当かどうかはわからない。
ああ、そうだ。百年前にルイ・マックールの初めての弟子になったカーネリア・エイカー。
彼女なら、彼の居場所を知っているかもしれない。ただし、彼女の居場所も世間には知られていないのだけれど……。
今夜、ルナはクラスごとに集まって、ルイ・マックールの弟子とり見学をすることになっている。
集合場所は、弟子とり会場――つまり、ルナの
ただし、今日だけは登校時間がいつもと正反対。ルイ・マックールの弟子取りに合わせて、真夜中に登校する。
ルナの友達はみんな張り切って、お昼ごろから学校へ行こうとルナを誘ったけれど、ルナは一緒に行くのを
ルナはルイ・マックールの弟子に立候補しないから、遅くとも三十分前に着けばいい。みんなの待ち合わせ時間は、ルナにはあまりにも早すぎる。
そんなわけで、ルナはおうちで家族とのんびり夕食をすませてから、家を出る前に持ち物確認をもう一度だけして家を出た。
「いってきます」
ルナは友達といっしょに行かなかったことを、家を出て真っ先に
夜の通学路は、いつもと違って誰ひとり歩いていない。
おまけに、この辺りは
明るい時間には気にもしなかったことが、今だけはすべて心細い。けれど、仕方がない。ルナは家の前の暗くて細い道を、とぼとぼ曲がった。
「わあ……!」
道を曲がって出た通り。そこには見たこともない優しい光があふれていた。
ちょうど、ドッジボールくらいの大きさの光の
ボランティアの魔法使いの人たちが浮かせてくれた、光の魔法だった。
(すてき……。まるで魔法の世界にいるみたい……)
これなら、ちっとも怖くない。
ルイ・マックールの住んでいるところでは、毎晩こんなふうにやさしい色のライトが
ルナは幻想的な
いつもの
通学路に立ち止まり、しばらくの間うっとりしていた。その頭上を、ニッコリ顔の魔法使いを乗せたほうきが、静かに夜風を切って通り過ぎた。
彼らも今日なら、
堂々と
魔法が使える。ルナの住む国には、魔法使いと〈魔法使わない〉が一緒にくらしている。
けれど、その割合は圧倒的に〈魔法使わない〉の方が多い。
そのため、この国の法律は〈魔法使わない〉を優先的に守るように作られている。
例えば、チョットほうきで空を飛ぶときにも、いろんな書類を提出しなくちゃならないし、ちょっとでも飛行区間をはみ出だせば、すぐに白バイがとんで来る。
そんなことをしてまで、わざわざほうきを使う魔法使いなんていない。ルナの国には、もっと便利な交通手段だってあるんだから。
魔法使いたちがロッカールームの中でほこりかぶったほうきを引っ張り出すとき。それは、何かのイベントくらい。
出し物として、ほうきに乗って宙返りなんかして見せると、〈魔法使わない〉の子供たちが大喜びしてくれるから。
そういう時、魔法使いたちは大満足の笑顔をこぼす。この国で、魔法の
使い道
といえば、それくらいしかない。だからみんな魔法学校には進学せず、普通学校の
けれど、これを
子供たちだけではない。
弟子に
けれど、誰より大忙しなのは、この国に住む数少ない魔法使いたち。
彼らには、国から
――当日に起こり
当然、これを不満に思ったり、めんどうに思ったりする魔法使いもいた。
けれど多くの魔法使いは、どこかちょっぴり照れ臭そうにして――
「普段
――と、得意げに、魔法の知識を役立ててくれた。魔法使いは、人を喜ばせるのが大好きだから。
子供が魔法使いという不安定な進路を希望しても、頭ごなしに反対する保護者が減ったのは、彼らの
なんにしても、ルイ・マックールからのお知らせはいろんな人にとって、一つのきっかけになったようだ。ルナのように、一歩が踏み出せない子を
本当はルナだって、世界一の大魔法使いに全く興味がなかったわけではない。
ただ、自分がそんなすごい人の弟子に選ばれるわけがないから、よその人のお話だと思っただけ。
満月の夜の小学校のグラウンド。
ルナは、いつもと同じ
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