第12話 リコリスの述懐~最後の雨の夜~

文字数 714文字

ヒイラギさんはいつも威張っていた。


私が寝室に行くまでに少し準備に時間がかかると、ベッドに腰掛けて顔をしかめて待っていて恐かった。


ヒイラギさんは避妊をしてくれなかったから、ピルを常用するようになった。

リコリスと違って俺は忙しいんだ。
そう言いつつ、週末には必ずここに来たから。
同じ大学の彼女と比べて、リコリスはまだ子どもだな。
ヒイラギさんは終わってから、ベッドの上でそう言ったことがある。


だったら週末ここに来ないで彼女と一緒に過ごせばいいのに、私はそう思いフイッと背中を向けた。

するとヒイラギさんはにこにこして、

リコリスも嫉妬とかするの?
私が拗ねてしまったと勘違いしたらしく、嬉しそうにしたのだ。


そのとき私は、ヒイラギさんの扱い方がわかったような気がした。

今までシーツを握っていた指を、ヒイラギさんの首筋と背中に這わせて、感じている振りをした。

するとヒイラギさんは汗をかき真剣な表情を浮かべ、耳元で「一緒にいこう」とささやいた。

私はヒイラギさんのタイミングに合わせ、果てた振りをした。

終わったあとはしばらく、息づかいを荒くしてみせた。


ヒイラギさんは満足そうだった。

私がヒイラギさんと最後に寝たのは、雨の激しく降る夜だった。


「……リコリス……リコリス」

うわごとみたいに私の名を呟いて、なにか言いたげだった。


その夜私は初めて演技では無く、頭が真っ白になった。

どうせ私がいなくなっても、新しい愛人を見繕うのでしょう?

私の代わりなんていくらでもいるのでしょう?


ヒイラギさんと過ごす週末の夜は義務でしかなかった。やっと解放されて蝶のように自由になった。


けれども、最後の雨の夜をふいに思い出す。

ヒイラギさんは、少しは私を探してくれるのだろうか。

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