4 ✿ プラネタリウム展示会

文字数 2,294文字



「うっわぁ、綺麗だな」

 プラネタリウムのような展示会場だ。暗い会場の中央に、黒い球体の投射機が据えられており、無数の星を映し出す。また、壁や台に飾られたアニメのセル画や絵コンテはライトで照らされていた。展示物はそれぞれ小さいものも大きいものも星のように光る。

 部屋の中には、アニメの音楽をオルゴールアレンジしたものが流れていた。

 マリーは一つ一つをじっくりと長く鑑賞した。
 アニメに興味のなかった良治も、展示に見入る。
 アニメーション制作がこんなにも多岐で、根気のいる作業なのだと知った。

 マリーと良治は、2番目の部屋へと移動する。
 宇佐(うさ) (うさぎ)監督作品に登場した、悪役が紹介されている。
 この部屋には星の投射機は無く、展示物を照らすライトは暗めである。
 紹介されている悪役キャラクターは、ブラックホールから生まれたという設定だからだ。この展示室はブラックホールを意識して、照明を極端に落としていた。

暗すぎだろ…。これは痴漢が狙ってもおかしくないな」

「作品に対して不届き千万の(やから)death(です)

「なぁ。今〝デス〟が別の意味になってなかったか?」

 良治の問いに対し、マリーは無言だった。

マリー、手

「へっ」

「ほんと真っ暗だから。か、勘違いすんな。こういう暗いところで痴漢があったって言ってたからさ」

「……」

 マリーはきょとんとして、黙って良治の差し出した手を見つめていた。

「あ…いや、その。馴れ馴れしくて、ごめん」

 するとマリーが、良治の左手をハシッとつかんだ。

「お言葉に甘えます」
「お…おう」

 自分から手を差しだしたのに、良治の方が恥ずかしくなる。

(なんで俺、手ぇ繋ごう…なんて言ったんだろ)

 空いた右手で頭をくしゃくしゃとする。
 マリーの左手は小さくてあたたかい。
 本当にこの子は、自分より年上なのだろうか。
 小さな背も、三つ編みにされたプラチナブロンドの髪も、すみれ色の目も、この国にはありふれていないもので、異国のお人形と手をつないでいるような不思議な感覚だ。それにこの子は魔女なのだ。この子が空を飛ぶのを良治は見た。

「あっちに気になるパネルが…」

 マリーが見たいもののところへ良治の手を引いていく。
 このまま見知らぬ魔法の国へ連れていかれそうだ。

「あの、ちょ、ちょっと……や、やめて」

 近くで、女性の戸惑い声が聞こえた。

「きゃああ!!」

 女性の甲高い悲鳴が上がる。一人の女性が展示物の前でうずくまっている。
 彼女の後ろには深くフードをかぶった何者かが立っていた。

(まさか痴漢? この暑いのに…フード長袖かよ!?)

 その人は、マリーと良治の方へと駆けてくる。
 良治はとっさに犯人らしき人物の前に出ると、相手を正面からつかまえた。
 相手のフードを思い切り下げ、顔を見ようとした。
 しかしそれを見止める間もなく、

「うっ・・・」

 相手のこぶしが良治のみぞおちに入り、彼はその場に崩れ落ちた。

「大丈夫ですか!?」
「けほっ……こほっ、ほっ」

 マリーはうずくまる良治を支えると、逃げていくその人をキッとにらんだ。

 くいっと指を横にふる。
 逃げていく敵の足もとで、一本の消火器が倒れた。
 犯人は足をひっかけ転んだが、すぐに立ち上がると、次のエリアへとかけた。

痴漢です!!」

 マリーの大声に、展示会場がどよめいた。

「次のエリアに逃げました!」

 同じフロアにいた人たちはどよめき、「どこだ」「あっちだ」と犯人を追う。

「あっいててて…」

 良治はみぞおちをさすりながら立ち上がる。

「マリーは、なにもされなかったか?」

「私はなにも。痛かったでしょう?」

「俺は大丈夫。それより…」

 良治とマリーは、うずくまる女性に寄り添い、彼女を気遣う。
 女性はマリーと同じくらいの年だ。


「急に身体が動かなくなって。いきなり太ももをさらわれて…手が…」


 女性は恥ずかしくて、すべてを言うのを躊躇っている。
 騒ぎを聞きつけ、すぐに警備員がやってきた。
 警備員は仲間へ連絡し、出口に張るよう指示した。

「どんな人でした?」

「フードをかぶった人です。顔がよく見えなくて。男だと思いますけど……」

「いえ、女でした

 マリーの言葉に集まっていた人々は騒然とした。


私、見ました。連れが犯人を止めた時に犯人の顔を。相手と目が合いました」


 マリーは良治をちらと向く。

「見た目は女、フードをかぶった者だ。該当する人物を止めてくれ」

 警備員は指示する。
 しばらくして、監視カメラをチェックしていた別の警備員から報告が入った。

「犯人と思わしき人物を探りましたが、どのカメラもエラーを起こしていて…」

「そんなはずは。カメラになにか、投げられたのか?」

「分かりません」

 報告を聞いた警備員は苦い顔をし、被害女性を介抱するマリーを見た。

「君……犯人の顔を見たって、言ったね?」

「はい、ハッキリと」

「詳しく教えてくれるかい? あなたも君も、いっしょに来てください」

 警備員は、良治と被害女性に声をかける。

 彼らは別室へと移動した。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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