第24話「戦闘中に内職を進めるな」

文字数 2,426文字

~カデナ遺跡道中の森~
グォオォォ―ッ……
▼魔物は倒れた。
フー……
ごくろうさん。どやった?
んー。手強かったけどギルドの幹部が手こずるレベルじゃないな
ほー。そんな大したことない?
うん。森に入ってから戦った魔物は、まあ大体このレベルだ
じゃあ、この辺の魔物全体が急に強くなったわけちゃうみたいやな
だと思うよ。遺跡辺りまで行ったら分かんないけど
せやなあ。カイカ、これヨミヨミにもらった地図やねんけど
おう
これな、今までの調査団はこの辺までは無事に来れてるらしいねん。

ルートもこの辺までは書かれてるやろ

たしかに。ということは……
こっからが危険、っちゅーこっちゃ
だな。気を引き締めて行こうか
ところで、カイカはほんまに役に立つなあ。

物理もいけるし、魔法も使えるやろ。ウチやることないわ

おかげで仕事が進む進む……
戦闘中に内職を進めるな
慣れたら結構楽しいで~傘張り
しかも貧乏な侍がやってた地味なタイプのやつ
1つ10万ゴールドや。買う?
い ら な い
そうかー。いらんかー。

納入先がおらんから今のところ利益ゼロやねんなー

唯一にして致命的な問題を抱えた商売してるな。

納入先がいないのに何でやってるんだ。もう捨てとけよかさばるだろ

でも戦ってる間さー、手が空いてて暇やん?
オメーも戦うんだよ
えー。か弱い乙女を戦わせるとかケダモノの発想やわ
自分で「天才魔法使い」って言ってるくせに今更か弱いアピールするな
ウチは「天才魔法使い」なんて言ってへんで?
え? いや散々言ってただろ
「天才美少女魔法使い」や
ど~~~~でもいいーわっ!!
つまりウチは天才魔法使いであると同時に美少女でもある。

そんな可憐な美少女に戦わせようとかありえナイアガラ

美少女であると同時に天才魔法使いだろうが。

俺に任せて自分は内職とかマジでありエンジェルフォール

おおっ!? すぐ滝繋がりで返してくるとは……やるな!!
褒められてもあんまりうれしくない
まあまあ、ウチはMP少ないんや。

いざって時のために温存しとかなアカンねん。堪忍してや

まあ戦わないのはとりあえず良いとするよ。

でもサボって内職していい理由にはなんねーからな?

何言うてんの~ん! そら時間が余ってたら少しでも金を……
……?……
……どうした?
なんか、風呂敷が普段より重い気がすんねん
風呂敷が? 何か上に……乗ってる様子はないな
なんでやろ? MP切れするタイミングやないんやけどな……。

ちょっと待って、いったん風呂敷下ろすわ(ドサッ)

いや、ちょっと待て……俺の剣も重い気がする
そのでっかい剣か? 普段より重いん?
重い。ちょっと待て、俺も置く(ズシン)
剣も重いんやったら、ウチがおかしいとちゃうんかな?

ウチとカイカの両方が……

(いや、ちょっと待った……風呂敷と剣が重いってことは……)
もしかすると――


▼……ズズ……ズズズズ


――危ないっ!!
!?


▼魔物の攻撃! 地面が裂け、そこから魔物が飛び出してきた!

▼ミス! 2人は華麗に身をかわした!

 風呂敷に直撃! 中身が飛び出し、いくつもの薬品が割れた。

……チッ
ふ……入口方向っ!! あと風呂敷ーーー!!!
諦めろ!! 逃げるぞ!!
逃がすか!
やぁ~~~んもぉ~~~!! 風魔法!!


▼山田を抱えたカイカは、入口方向に逃げ出した!

▼山田は風魔法を唱えた! 魔物は足が遅くなった!


うおっ……!? くっ……!
最悪最悪最悪最悪やもぉーっ!! カイカはよ行けぇー!!!
これで全速力だよ! 魔法の方に集中しろ!
くっ、風さえなければ……!


▼2人は逃げ切った。








ここまで来れば大丈夫か……? おい山田、大丈夫かよ
風呂敷……商売道具……all night long……
悪かったって。大事なのは分かってたけど、しょうがないだろ。

逃げる方向を真っ先に指示したのはお前じゃないか

したけどさ……
中身もほとんどぶち撒けてる状態だったし。あれは回収できないって
うん……
……
風呂敷……
わ、悪かったって……。言っちゃ悪いけど、

そんなに大事なら自分で回収すればよかったのに

いや、それは無理やったな
何でだ? 魔法でちょちょいと回収できないの?
風魔法使ったやろ。あれでMPがほぼすっからかんや
え? アレだけで? い、いや強力な魔法だったけど……。

お前があの程度でMPなくなるのか?

あのな。あの時風呂敷と剣が重くなったやろ
うん
アレは、「重い物を支えるMP」が多くなってたから起きてん
……?
うーん、分かりにくいよな? 一から説明すんで
おう
まず、ウチはMPを使って重い風呂敷を支えてた。

そのMP消費量が1時間に10MPやとする

1時間に10MPね
それが「何らかの影響」で1時間に50MPになった、とすると
MPがガリガリ減るな
そうや。そうすると「今まで10MPで支えれてた風呂敷」が

「50MPないと支えられへん風呂敷」になる。とすると?

「重くなったように感じる」……ってことか?
そう。

すると本来50MP消費する風魔法は?

さっきと同じ計算なら、250MP使うことになるな
その通り。そんなに使ったらウチのMPはあっという間になくなる。

せやからウチのMPがもうないねん

つまり「MP消費量を多くする魔法」がかかってるのか?
たぶんそんなトコやろうな。でも効果は範囲的で、

ここまで来た今は元に戻ってると思う

だから元来た方向、入口方向を指示したのか。

……理屈は分かった。でも俺の剣が重くなった理由は?

MP使って持ってたわけじゃないだろ

いや、カイカもMPを使って持っとったんや。そのつもりがなくてもな
そのつもりがなくても? どういうことだ?
まあ、その辺の話は専門家のトコに行きながら話そうや
専門家?
魔法の話やったらこの人にお任せやわ。

ウチの師匠んトコ行くで。解決しよう思ったらあの人の協力が不可欠や

何やら思いもよらぬ魔法(?)にかけられ、危機一髪だった2人。

この状況を解決するためには師匠の協力が必要らしい。2人は師匠の元へ。

いったい何がどうなっているのか! 次回、師匠が解説してほしい(願望)。

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登場人物紹介

山田太郎

元道具屋の店主。高レベルな魔法の腕を持っているが、

なぜか関西弁の守銭奴とやけに現代的な性格。

「ドカベンって呼んでもええで」と言ったり、

偽名で岩鬼正美を名乗るなど、某野球漫画に謎のこだわりあり。

カイカ

冒険者の戦士。腕前に自信があったので難関ダンジョンに挑戦してみたものの、準備不足で傷薬がなくなりピンチに陥るちょっとしたマヌケ。腕は確からしいが、コミュ力がないと山田にディスられている。

ハイロ・アナグレタ

第3話より登場。酒場の看板娘らしい。

たちの悪い冒険者に絡まれていたところを山田たちに助けてもらう。

美人さんだが、なぜか「~っす」という語調で話す。

師匠(アネア・エアクオウ)

第9話より登場。凄腕の魔法使いで、山田の師匠。

100年以上生きているらしいが若々しく、「魔女」らしい風貌。

しかし魔法以外の事は99%忘れてしまうらしく、100年前どころか

昨日のことすら記憶が怪しい。山田いわく「後期高齢者」

ヨミド

第19話より登場。ギルドのリーダーで、魔法使い。

厳格な性格で、プライドが高いような発言が見受けられる。

第一章の山田とカイカはヨミドと会うために旅をしているが、

その役割を考えると、たぶん彼がメインヒロインなんだと思います。

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