第6話

文字数 794文字

 騒動から一ヶ月たった、ある日。
 午前の勤務が一段落し、昼休憩を取ろうと病院の待合室を横切ったときのことだ。

 待合室にあるテレビから「パソコンウィルス」の被害が相次いでるという話題が流れていた。そのウィルスに感染すると、自分のメールアドレスから登録されているすべての連絡先へ、自分の「検索履歴」と「閲覧履歴」が自動送信されるらしい。

 スタジオではウィルスを作った犯人ではなく、被害者側を「同情の余地もない」と、口をそろえて非難していた。なぜなら被害にあったのが、盗撮動画サイトの閲覧者ばかりだからだ。被害者たちは被害届を出すこともはばかられるだろうし、たとえ被害届を受理されたとしても捜査が行われることは少ないだろう。

 ただ今回の事件は、たまたま先日逮捕された盗撮常習犯も使っていたサイトであったため、警察はそれを足掛かりに違法動画サイトを次々と検挙し、現在は閉鎖に追い込んでいるのだと、出演者の一人である女性弁護士は答えていた。ちなみにこの女性弁護士は、先日逮捕された若い加害者の逃走中にたまたまぶつかられ、計らずとも逮捕に貢献した人物として紹介を受けていた。

 ボクはそこまで見ると、休憩室へと向かう。
 最後まで見なくてもわかる。

 サイトの管理者はみな、罪に問われることは間違いない。公私混同をしない真面目な警察官が、真面目に職務へ怒りをぶつけているはずだからだ。ちなみに捜査の責任者はあの黒田で、依頼人の一人がたまたま黒田の上司だと若宮さんは教えてくれた。
 
 ……さすがに、そんな「たまたま」信用できません、若宮さん。

 何はともあれ、今回の依頼は若宮さんの独特なやり方で綺麗に解決した。残念ながらボクは関わることはなく、若宮さんの役に立つことも振り回されることはなかった――が、しかし。

 フルムーンの「フルムーンにフルムーンを」が発端で、ボクが彼女にフラれることになるのは別の話だ。
 
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登場人物紹介

若宮カイ(41)

目明し堂を営む張本人

人嫌いで、大のめんどくさがり屋/なまめかしい雰囲気を漂わせている/いつも寝癖がついている/受けた依頼は、世羅くんを振り回してきっちり解決する、やればできる人

世羅宏(30)

若宮の助手兼、運転手、本業は医師

善良な人間(若宮談)/料理を含む、家事全般が得意/彼女が途切れない/いつも若宮に振り回されてる、ちょっとかわいそうな人

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