第1話 無音のASH

文字数 554文字

『超能力とは異なった超能力をお持ちの方へ――』

 たった一文だけで、この宗教団体が一線を画しているのは明らかであった。
 
 普通、この手の手合いは一般人――いわゆる、凡人に触手を伸ばすもの。
 超能力などを有した超人は団体の代表及び幹部が掲げる謳い文句であって、誘い文句として使われるのは非常に珍しい。 
 
 現代では、宗教=儲かると思っている人は決して少なくはないだろう。
 それどころか、善良な人々を騙していると決め付ける人のほうが多い傾向にある。
 
 それゆえにインチキ、詐欺、洗脳と揶揄されやすい超能力や奇跡といった単語は、比較的持ち得ないのがこの業界の常識ですらあった。
 
 そんな情勢でありながらも、この団体は堂々とトップページに例の言葉を飾っているのだ。
 
 その上、少しずつだが確実に入信者を増やしている。
 しかし、目立った活動は見当たらない。
 
 それ以前に、いつから存在していたのかさえも世間は知らなかった。
 
 人目に触れたのは、この団体に著名人らが名を連ね始めたからだ。
 だが、それすらもネットに置ける口コミで広まっただけでマスコミは沈黙に徹していた。
 
 そういった経緯もあり、この団体ASH(アッシュ)はいつからか無音のASHと呼ばれるようになっていた。
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登場人物紹介

羽田翼(17歳)。都内の私立高校に通う3年生。性格も容姿も至って平凡でありながら、脅威の耐久力と持久力の持ち主。

不良に暴行を受けている際、居合わせた鈴宮凜に『超能力とは異なった超能力』の所持を疑われる。結果、宗教法人ASHと公安警察にマークされ――人生の選択を迫られる。

鈴宮凜(18歳)。中卒でありながらも、宗教法人ASHの幹部。

組織が掲げる奇跡――H《アッシュ》の担い手。すなわち『超能力とは異なった超能力』の持ち主であり、アッシャーと呼ばれる存在。

元レディースの総長だけあって気が強く、その性格はゴーイングマイウェイ。

冨樫(年齢不詳)。何処にでもいそうを通り越して、何処にでもいる顔。

宗教法人ASHの創設者であり、部下からボスと呼ばれている。

手塚(年齢不詳)。幅広い年代を演じ分けられるほど、容姿に特徴がない。

宗教法人ASHを監視する公安警察の捜査官。

秋月彼方(33歳)。児童養護施設の職員で、元公安警察の捜査官。

また『超能力とは異なった超能力』の所持者でもある。

父親の弱みを握っており、干渉を遠ざけている。

秋月朧(年齢不詳)。彼方の父親で警視庁公安部の参事官。

『超能力とは異なった超能力』――異能力に目を付けており、同類を『感知』できる娘の職場復帰を虎視眈々と画策している。

近江悠(15歳)。児童養護施設で暮らす中学生。

車恐怖症によりバス通学ができず、辛い受験を余儀なくされている。

幼少期から施設で暮らしている為、同年代の少年と比べると自己主張が少ない。

朱音初葉(15歳)。児童養護施設で暮らす中学生。

震災事故の被害者で記憶喪ということもあり、入所は12才と遅い。

同年代の少女としては背が高く、腕っぷしも強い。

茅野由宇(14歳)。児童養護施設で暮らす中学生。

身寄りがない悠や初葉と違い、母親は存命。何度か親元に返されているものの、未だ退所することはかなっていない。

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