第19話 死角の世界

文字数 2,158文字

ラストがそういった瞬間、寒気が走った。

「急ぐぞ、何か嫌な予感がする」

マクイはこくりと頷き、フードを被り直す。

そして思い出したように聞いた。

「そっそういえば、さっき全員逃げて行ったけど、もしかして」

 ライノーツには魔喰いを見つけた際、国民に通報義務を課せられている。

 まだ客席の最後の一人が逃げ出して、5分と経っていないが、既に入り口は包囲されている可能性があった。来るときに教会に扮した入り口付近の路地に巡回の兵がうろついているのを目撃した。ならばとっくに上に伝わっている可能性もあるし、あの試合の最中に既にそうした人間がいなかったとも限らない。ならば。

「もうここは包囲されてる、どうする!?」

 すべてを簡潔に彼に伝えた。

 ラストは言った。

「こっちもちょいと用があるんだよここにはまだな。ていうか、そろそろ」

そう言った直後だった。客席から一人、少女のような体躯の子が顔を出す。マクイと似たような服装の子供だった。立ち上がっておろおろしている。

「あ、あれ。ここは?」

 ラストが深く息を吸った。そして声を張り上げる。

「ああ、それは後で説明する。とりあえず来い、エイブリー」

 それからラスト達は、その少女を引き連れて一旦、この地下闘技場の奥にある、鍵の閉まる場所に避難した。

埃だらけの古びた倉庫の様な場所だった。マクイによる又聞きだと、この闘技場は元々教会の地下倉庫に繋がる、ゴミ置き場の真下で、広さを持て余していたらしかった。そこであのならず者たちが仕立て上げたらしい。マクイがそう説明すると、

「だから、それとここに隠れる事となんの関係があるっていうんだよ?」

 エイブリーというらしい少女が言った。

「そんなことより、あんた、なんでずっと気付かないで寝てたんだ?」

 ラストが訊ねるとすぐにエイブリーが声を荒げる。

「どうでもいいだろうそんなこと! とにかくなにが起きてるか」

「わからない。私も、ちょっと前まで牢屋の中だったから」

「さっきの質問だけど、私はあんたらについていく気はない。ここの場所がわかれば一人でどこへでも行くさ。だから」

「あんたはずっと囚われてたんだよ。捕虜にされてここの景品の一つだった。解体ショーだのなんだの言ってたな」

 エイブリーの顔色があからさまに悪くなる。

「とっとにかくそんなどうでもいいことは」

「よくなさそうだけど……あそこにいたってことは観客の中に関係者がいたってことかな」

「ま、そうだろうけど、ひとまずどうするよ? ここで話していても埒が明かない。かといって出口は一つだ。でも多分もう包囲されてるだろうね。かといって」

「うーん」

「いいから行きたいなら勝手に二人で行けよ。私は一人でいい。今日はもうここで寝る!」

 口々に言いたい事を言っていてまとまりがなく時間ばかりが過ぎようとしていた。

マクイも今の状況に困惑していた。そんな矢先だった。

3人の口論が聞こえでもしたのか、誰かいるのかと大声で扉ががたがたと揺れる。かぎはかかったままだが、次第にその勢いが強くなる。ついには人を呼ばれ、怒号が飛んだ。

「ようやくみつけたぞ。そこにいるな魔喰い!? もう逃がさんぞ災いの始祖めが。お前を殺さんと、民はおろか国王陛下までも危険に晒される。生かしてなるものか! 生かしてなるものかあ!」

異様な殺気を声に乗せて放つ兵。エイブリーが震えていた。彼女の精神を解析したところ、魔喰い独特の不安の濃い色をしていた。或いは魔喰い感染者かもしれないし、マクイ自身も内心では震えていたのかもしれない。

そんな中、ラストだけがさっきから必死に倉庫を漁っていた。

そして。

「すまん、ない。地図がない。誰か、紙はもってないか」

探すがなかった。ないと言ったとたん、鍵付きの扉に体当たりする音が響きだした。

「やばい、やばいよ! おいどうする!?」

「あなたは何か役に立つ魔法とか使えないの!?」

「あんたなんで、私が魔喰いだって……いや私は魔法が使えないタイプなんだよ」

魔法が使えない、の精確な意味は、コントロールできないから、魔法という言葉では表さないという意味である。

「わかった! でもごめん。検知した限り、今外に軽く1000人以上はいる。もしこの扉が破られたら仮に私の魔法でも食い止められない。ラスト?」

頷きもせず、返事もせず、ひたすら思案するように頭をかいている。その足がぴたりと止まる。

「わかった」

「なにがわかったの!?」

扉を見やれば既にその形が歪むほど、衝撃を与えられていた。音の系統から斧も使われているだろう。

鋼鉄の扉だったのが幸いしたが、どの道時間の問題だった。

「ここから出る方法だよ。色々あるけど、確実性の高いのがない。それでもいいってんなら今すぐにでも」

一にも二にもなかった。

「わかったそれでいいから! 早く!」

オーケーと、軽妙に答えて、三人は消えた。直前に彼が唱えた魔法によって。

『我ら3人、これより死角の世界にていきる。光を生命とし光の屈折率の隙間に我らの世界を作れ。これは魔力が底をつくまで続け』
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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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