『ヘイリアス皇王国に伝わる天地開闢神話』

文字数 720文字


はじめに混沌があった。
その混沌の中に、闇が凝った。
これが闇の聖母である。
 
闇の聖母は自身の左目を抉り、一柱の神を生み出した。
聖母の左目を受けて生まれた神は、すべてを見通す者となった。
ヒーリア神である。
闇の聖母は左手を折り、一柱の神を生み出した。
聖母の左手を受けて生まれた神は、すべてを創り出す者となった。
フォルール神である。
聖母はみずからに片目と片腕を残した。
あまねく人々を見守り、あらゆる人々を抱くためにである。

姉神ヒーリアが天を支え、弟神フォルールが大地を固めた。
こうして天と地が定まり、聖母に守られた世界が生まれた。
ヒーリア神は弟神に言った。
どんな知恵でも、どんな技術でも、好きに創り出すがよい。
だが、美しい娘だけは創ってはならない――と。

しかしフォルール神は草を束ね、少女を形作ってしまった。
少女の美しさに焦がれたフォルール神は、知恵と技術のすべてを彼女に教え与えた。
少女は与えられた力を楽しんだが、決して使ってはならないと禁じられた力があった。
彼女はついに誘惑に負け、禁じられた力を試してみることにした。
――相手の命を奪う力を。
フォルールはみずからが創り出した少女によって、命奪われた。
姉神の忠告もむなしく――彼は「死」を、創り出してしまったのである。

闇の聖母は嘆き悲しみ、その涙は天に散って星となった。
弟の死を悼んだヒーリア神は、フォルール神の亡骸を埋めた。
フォルール神の亡骸を抱いた土には、死に抗う草木が生え繁った。
ヒーリア神は墓守として一人の魔女を選んだ。
魔女は草木を薬とし、不老と不死を得た。
けれども、フォルール神がよみがえることは、ついぞなかった。

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