第4話 ゲートキーパーのお仕事

文字数 1,875文字

(4)ゲートキーパーのお仕事

門をくぐると開けた空間に出た。
武たちが入った祠は大きくなかったが、門の中の空間は祠とは比べ物にならないくらい広い。

「ここが俺たちの世界だ」と前鬼はその場所を武に紹介した。

「じゃあ、別の惑星に移動したってこと?」

「そうだな。ワームホールを通って地球からここに来た」

※ワームホールは時空構造の位相幾何学構造。時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域。

「へー。案外、宇宙旅行は手軽なんだなー」と武は感心している。

「手軽なだけに危険なんだ。俺の仕事は、このワームホールの入り口に設置されているゲート(門)を守ることだ」

「具体的に言うと、何から何を守るの?」

「それはお互い様だな。地球の人間が俺たちの惑星に来るのを防いだり、俺たちの星の悪人が地球にくるのを防いだり。」

「どちらも危険なんだ」

「そうだ。宇宙人が地球人を殺す場合もあるし、地球人が宇宙人を殺す場合もある」

「事件が起きたの?」

「ああ。昔、マイケル・ピーチ(Michael Peach)って奴が俺たちの星に来たんだ。そいつはシリアルキラー(連続殺人犯)でさー。俺たちの星の人間を何人も殺したんだ。何とか追い返したんだけど・・・」

「何かあったの?」

「ピーチが地球に帰った後、俺たちの星での出来事を本にしたんだ。お前も知ってるだろ?」

「え? 『桃太郎』かな?」

「正解! ピーチは自分の殺人を正当化するために、鬼ヶ島をでっち上げた。許せねーよな」

「ジェノサイド(大量虐殺)か・・・」武は小さく言った。

「それ以来、危険人物を行き来させないように、お互いに門番を設置してゲートを守ってるんだ」

「大変だね。でも、おじさんは人間より強いから大丈夫なんでしょ?」

「うーん。どうだろうな? 俺は短距離の攻撃はできるけど、中長距離の攻撃ができないからな」

「拳銃やお菊さんの攻撃には勝てないってこと?」

「そうだ。剣の達人でも拳銃に勝てないだろ。地球の兵器が近代化して、ますます門番の仕事が大変になった」
前鬼は自分の苦労を語った。

「お菊さんは水を操れるのに、おじさんはそういう能力はないの?」と武は聞いた。

「お前はちょっと誤解しているぞ。お菊さんは水を操っているんじゃない。そうですよね?」前鬼はお菊さんに聞いた。

「そうね。私たちは魔法使いじゃない。超常現象なんてこの世にないから」

「お菊さんの能力は超常現象じゃないの?」

「そうよ。私が操作しているのは原子ね。水は、水素原子(H)2つと酸素原子(O)1つで構成されるでしょ?」とお菊さんは言った。

「分かるよ。H2Oだもんね」

「私が操作できるのは原子番号だと9番のフッ素(F)までね。それ以上は原子量が大きいから無理よ」とお菊さんは言った。

武はフッ素(F)の原子量を考えた。
フッ素は陽子9、中性子10だから原子量は19。
そうすると、お菊さんは原子量20未満の原子を扱うことができるのか・・・

「9番までだと、水素(H)、ヘリウム(He)、ベリリウム(Be)、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)だよね」

「そうね。その中で分子にして攻撃に使えるのはH2O。だから私は水を使っているの」

「へー、あれは原子の操作なんだ。お菊さんは原子量20未満の原子を扱うことができるんだね。もっと多くの原子量を扱える人はいるの?」

「もちろん。それと、原子よりも小さいもの、噂では素粒子レベルまで扱える人もいるみたい」

「え? 原子よりも小さいものを操作できるの?」

「そうよ。原子は原子核と電子で構成されているでしょ。その原子核は陽子と中性子で構成されている。陽子と中性子を構成しているのが素粒子。こんな感じね」

そう言うとお菊さんは図を書いた。

【図表3-1:原子、原子核、素粒子の関係】



「へー。素粒子レベルまで操作できたら、その人は物質をほぼ無から作れるよね?」

「そうね。万物を創造できる神ね」

「僕から見たら、原子レベルを操作できるお菊さんも神だよ」と武は言った。

お菊さんは褒められて嬉しそうだ。
前鬼はお菊さんの機嫌が良いことを確認したうえで、話を続けた。

「それでだなー。俺はお菊さんのような科学者じゃない。原子を操作できないから、体力だけで戦わないといけない」

前鬼はお菊さんが科学者だから原子操作できると言った。

― 科学者は原子を操作できる?

武は『ひょっとしたら自分にもできるのでは?』と考えた。ダメ元でお菊さんに聞いてみる。

「僕が科学者だったら、お菊さんみたいに原子操作できるの?」

「できるかもね。試してみる?」とお菊さんは言った。
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