第36話 あたし、コロ助

文字数 1,119文字

 覚えてくれてる? あたし、コロ助。

 最近、つまらなく平和な日常を送っていたの。あの綺麗なジョシちゃんはちっとも見なくなって、ユーキは落ち込んで、ミサは何度目かの失恋をしてたある日、大荷物を抱えて、二人で出て行ったと思ったら、その夜遅くにちっちゃい女の子が来たのよ。

 え? 寝てたのにどうして分かるって?

 あたしも一応、犬の端くれ。耳も鼻もいいんだから。嗅いだことのない匂いが混じってたから、すぐに分かったわよ。でも面倒だったから眠ってたの。そしたら家の方から夜中にも関わらず大盛り上がりした声が聞こえてきたわ。いい人間同士何してたのかしらね?

 そしたら、朝、その女の子が私と散歩に行くって言うじゃない。私の散歩は女の子なら、ミサとジョシちゃんって決めてるの。しかもユーキにはジョシちゃんのはずなのに…。
 だから威嚇したら、後ろからメソメソと悲しそうについてくるじゃない?
 私、意地悪じゃないのに、意地悪してるみたいじゃない? 意地悪だった? ごめんなさい。
 それに、なんか私よりも小さく見えるの。あの子。

 公園で、勇希が呼び出すもんだから「やっぱりそれでもジョシちゃんがいいの」って吠えてやったんだけど、なんだか、必死に私に話しかけるの。
 でも何言ってるのか、さっぱり分かんない。結局トモダチってことで落ち着いたみたいだけど。
 
 トモダチってなに?

 でもユーキが笑い出したから、トモダチって、笑い合う関係かしら?
 じゃあ、まぁ、悪い人じゃないかなって思ったの。ちょっとメソメソしてるけど。

 それにやっぱりあの子の中にも小さな女の子がいて、ジョシちゃんとは違うんだけど、寂しくて、丸まってる女の子がいるのよね。で、その女の子を優しくしてくれる男の? …男なのかなぁ? 男には見えるんだけど…、女性的な人がいて…。
 二人は一緒に丸まってるのね。
 お母さん? みたいに包み込むような格好で…でも男だけど。どういうことかわかんないけど。二人で一つ? そんな感じなの。

 それで、困惑してるわけ。

 ジョシちゃんは私が優しくしてあげなきゃって思うんだけど…この子は…この存在に守られてて…。でも一人で立とうと手をぎゅっと握って、力を入れてるところ。
 頭の中では「立たなきゃ、立たなきゃ」って言ってる。
 ずっと自分に「頑張れ、頑張れ」って言ってるんだけど…。
 でも、私、その姿が痛々しくて哀しくなっちゃう。
 
 横にいるユーキは相変わらずボーッとしてるだけで、あいつ、大丈夫かしら、とこっちが心配しちゃう。
 ワン。
 本当はジョシちゃんに会えなくて、淋しいの知ってる。あたしが側にいるって言うのにさ。相変わらず失礼なやつ。
 でも…あたしもさみしい。
 クゥン
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