第99話   お互いの初めて 3

文字数 4,243文字

 ※


 土曜日。昼過ぎ。

 

じゃあ行ってくる。しっかり留守番しとけよ
うん! 帰りにうみゃー棒買って来てね

 凛に見送られ、玄関のドアを開ける。

 美優ちゃんとの待ち合わせに向かうべく、出陣である。



 この件は事前に聖奈にも伝えておいた。

 何故か白竹さんの事になると、やたらピリピリするからな。

 そんな気がするので、俺は正直に話していた。

今からデート?
 そんなラインがタイミング良く届くと、俺はスマホを睨みながら返答していた。
そんなんじゃない。友人として相談を聞きに行くだけだ

 何度言えば分かるんだよ。

 俺にはそんな気持ちなど一ミクロンも存在しない。

向こうはそう思ってないかも

そんなハズはない。聖奈よ。俺はマジなんだ。

それに美優ちゃんもきっと同じなんだって

いつの間にか名前で呼んでるし
 お前な……
せっかく今から話し合いに行くと言うのに、モチベを下げられたくなかった俺は、たまらず電話していた。

そんなんじゃない。彼女は何か困りごとがあるんだよ。

だからそういう冗談は、今は言わないでくれ

ふ~ん。あんただけに相談か……

聖奈! 頼む。ちゃんとお前には説明するから。

俺はお前に、一番誤解されたくないんだ

もうっ……

普通に言ってくるから困るのよ。

 聖奈は暫くしてから「わかった」と納得してくれた。

 大きな交差点までくると聖奈との通話を終わらせる。


 

 暫くして、ラインのスタンプが届く。

 「えらい」とプラカードを持ったクマだった。

 もしかして正直に喋ったから? と思ったが。


 その後に届く「LOVE」と書かれたスタンプだけは意味が分からなかった。



 理由を聞こうにも俺はこの話題は一切言わないし、聖奈も何も言わない。



 この言葉に突っ込んではならない。

 突っ込めばきっと何か俺に悪い事が起きる。そう断定していた。


 さて、そろそろスタンプの話題は置いといて。急がないと。

 今日も天気が悪いな。昨日までは天気も良かったのに。

 ポツポツと空から雨が降り出しやがった。



 学校じゃなかったので天気予報を見てなかったのを後悔する。

 こりゃ一旦帰って傘を持っていこうか悩んだが、時間は取らせないという事を言われてた為、そのまま歩き出した。



 歩いて十分ほど。雨は予想に反して激しくなっていく。

 喫茶店前につくと、視界に捉えた白竹さんに手を振り、小走りで彼女に駆け寄った。


こ、こんにちは。蓮くん……

 目の前まで来ると、学校で見せたような空元気でもなく、無理矢理作った笑顔で迎えられた。


 初っ端ならダウナーゾーンからのスタート。



 ほら見ろ聖奈。

 彼女はそんなつもりで俺を呼んだ訳では無い。


 この顔が今からデートしにいく女の子の顔かよ。と心の中で突っ込んでいた。 


 ※


 今日の美優ちゃんはやたらセクシーバージョンである。

 肩まで出てる服は楓蓮には絶対着れないだろうと思ってしまった。

 

 着てみたいという願望はあるものの、そ~いうのに手を出すと、男としてどうなのかっていう拘りがあってだな……

どうも。遅れてすみません
いえいえ、こちらこそ呼び出しちゃって……ごめんね

 手短に挨拶を済ませると、ニコっと彼女は微笑むが、明らかにテンションが違う。


 最初から重苦しい雰囲気。とりあえずは……

めっちゃ雨降って来ましたね。外じゃ何だし、どこか入ります?

 じゃないと傘を持ってきていない俺がズブ濡れになっちまうんで。


 いつぞやの西部のような状態に陥っていた。

うん……行きたい所があるの

 お。行きたい場所があるなら、従うしかない。  

 という訳で、美優ちゃんに付いていくと、駅前に行くようだな。

ネカフェに行きませんか?
おおっ。実は俺も……行ってみたくて。どんな場所か知りたくて

 彼女のテンションが少し上がった気がした。が……一瞬だけだったようだ。歩いている間も言葉は無く、どこか思いつめたような顔になってしまう。



 美優ちゃん……一体どうしたんだろうか。

 とにかく俺一人では間が持たない。



 何とかいつもの美優ちゃんに戻ってほしくて、こちらから話題を振っていた。

そういえば、この前のコミカライズ。凄かったです。

まるでアニメで再現できる完成度ですよ

美優ちゃんは俺の小説のコミカライスしてくれているが、この前送ってくれたのは、エロシーンではなく、本編なのだ。

あれを見たとき、本気でアニメにすりゃ絶対売れると思いましたよ。


えへへ……
…………

 この話題もダメか。


 一瞬だけ笑顔が戻るが、明らかな愛想笑い。

 とてもじゃないがいつもの美優ちゃんとは思えないほどのドロドロっぷりだった。




 ※



 やがてマンガ喫茶の縦看板がある場所についた。

 俺はどうやって入るのか知らなかった。ド田舎出身でこういう場所は初めてなのだ。


 すると美優ちゃんが「こっち」と言うので、先導してくれる。

 この時ばかりは彼女が、どこかのゲームのベテランハンターに見えた。


 美優ちゃんが店員に告げ、通された場所は個室。

 こじんまりとした場所に置かれたパソコンに、畳のような場所と、すんげー楽そうな椅子があるぞ。


 初漫喫は、そんな感じだった。後は二人で一緒にジュースを個室に運び、部屋のドアを閉める。



 そこから俺はとりあえず正座になり、前を向いた。

 ここまで来たんだ。遠慮なく本題に入らなければ。

……どうしましたか? 何か気になる事が?
はい……
 う~ん。いつもの美優ちゃんじゃないのは明白だが、白竹語も出てこない辺り相当重症だぞ。
あの、喋り難い事なら別に、ね? 言わなくてもいいと思うし。気楽に行きましょう
……うん

 まぁ話題と言えばママの事なのだろうが。

 こちらから切り出そうか。

とにかく美優ちゃんのお母さんは……俺は全然気にしてませんからね

うん……ありがとう。

だけど……今日はそのお話じゃないのです

 なに? これは予想外だった。 この話以外に何があるというのだ。
ねぇ……蓮くん
 美優ちゃんが俺の名前を呼んだ。そんなタイミングで俺のスマホがブルってしまう
ど、どうぞ。続けてください
いえいえ。見ちゃってください、何か急なお話だと大変ですし

 話し合いの最中なのに、タイミングが悪い。

 逆にスマホを確認してくださいと、催促されてしまえば見るしかない。



 しかもラインの内容は聖奈からであり「来月の中旬にデートするわよ」とか送ってきやがった。その後で「楓蓮で」と付け加えてくる。


 確認後、引きつり笑いで謝罪する。

 美優ちゃんに、誰から? と突っ込まれれば正直に喋るしかなかった。

聖奈ちゃん?

 そう言って顔を上げた彼女は、やや上目遣いになりながら「聖奈ちゃんとは仲がいいんですね」と呟いた。


 予想外な質問に、少々焦りながらも説明した。

ま、まぁ……聖奈はその……腐れ縁っていうか。

口はキツいけど、とっても良い奴だから。俺も実際……色々と世話になってて

付き合ってる。のです?
……いえ。そういう関係ではありません
 美優ちゃんは覗き込むように真摯な目をぶつけてきたが、無意識の内に否定していた。 

いえ。それはありません。

それに……前にも言ったと思いますが、俺は誰とも付き合えないんです

どうして。ですか?
……すみません。い、言えないっていうか、ごめん

 おいおい。俺が追い詰められてどうする。

 今日の美優ちゃんはグイグイ突っ込んでくるぜ。

もしかして。お話というのは……そういうお話?
ううん。だけど……ちょっと気にはなってたけど……

 再び闇に落ちていく彼女。他に何があるっていうんだ。


 本当にどうしたんですか? 美優ちゃん……

聖奈ちゃんはきっと……

蓮くんの正体を知っている。そんな気がする。



 ※



怖い……
怖い? ですか?
今から蓮くんに言わなきゃならない事が怖い。で、でも……言わなきゃ……

 一体何の話なんだ? 

 全然検討がつかなくてこちらまで焦ってしまう。

待って美優ちゃん。あの、そういう話は言わない方がいいと思います。なんとなく……
でも、私はその為に今日、蓮くんを呼んだの……だから
迷うなら言わない方がいい。止めましょう。そういうのは覚悟を決めてからにしましょ

 あぁこういう台詞があったなぁ。自作小説で言ってた。

 まさか自分が使うとは思わなかった。


 依然としてジュースにも手をつけない白竹さん。こりゃ相当手強いと感じると、長期戦を覚悟していた。



 そんな時、彼女がこちらを向く。

 視線は合わせなかったが、俺の小説の事を喋り始めた。

蓮くんの小説ですけど、主人公はヒーローに……

本当の事を、真実をずっと隠し通すのですか?

 おおっと。盛大なネタバレですね。

 しょうがない。ちょっとだけお教えしましょう。



 ちなみに小説の主人公は未来人であり……

 現代の男性と恋に落ち、平和に暮らすと言うのが表の話だ。



 だが真実は、時空パトロールという武装集団に籍を置き、歴史改竄を目論む組織と対峙し、撲滅しようとする凄腕の警察官だったりする。


 ヒーローに知られたくないのは、自分が武装組織の人間である事と、時には人を殺め、消し去ってきた。その真実は決して知られたくないと言う話だ。表向きの彼女は純真無垢であり、暴力とは無縁のキャラなので、真実がバレるのを非常に怖がっており、話せないのだ。

ですね。本当の事を言えば絶対嫌われる。本人はそう思い込んでますから。真実は絶対喋ろうとしません
…………
怖くて自信が無いんですよ。特に主人公の場合は、愛した人間がヒーローだけの一途キャラですし、恋愛経験はあまり無いって設定です。言えば絶対に嫌われてしまうと。そう決め込んでるんです
…………
正直に言って嫌われたりしないのに。ってかヒーローは主人公の正体は知ってるし、実は主人公を……裏で助けまくってるんですけどね
最後まで……言わないつもりなの?
主人公はそのつもりですが、実はその先の話はまだ決めてなくて、正直に喋る方が面白いのか、黙っている方がいいのか迷ってます。ちなみに美優ちゃんはどっちの方がいいですか?
私は……正直に喋ります。それでもっと仲良くなれたらって……思う

 う~ん。確かにそれも一理あるんですけどね。

 もっと日常シーンでラブラブになって良いとは思うんですけど。

う~ん。頑なに拒否してる描写もあるし、そこから態度を改めるのも……何かきっかけが無いと難しいというか……


正直に喋ります……
そ、そおですか? じゃあここは美優ちゃんの意見を……
蓮くん……あのね

蓮くんは……男の子と女の子が入れ替わる体質。なの?


そ、そうだよね?

え? あ? な、なに?


俺は今、何を言われたんだ?

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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