第13話 小悪魔の罠

文字数 1,803文字

「五回も揉んだんですか!? 五回も!?」

雫は出雲の襟首を掴んで前後に揺らす。その様子を見ていた美桜と使用人たちは微笑ましいと笑っていた。出雲も雫は本気ではないと察していたので、この一連のことは楽しいと感じていた。

「許してください! もう揉みませんから!」

出雲がそう言うと、美桜がもう揉まないのと口を尖らせて言う。

「揉んでいいの!? あ、いや、もう揉まないと思います……」

出雲が俯きながら言うと、美桜は再度小悪魔な笑みを浮かべていた。

「俺で遊ばないでよ!」

そう言う出雲に美桜はごめんねと言った。雫は美桜様がいいと言うならもういいですと言う。

「朝食を食べるまで長かった……」

出雲はそう言い、いただきますと言って食べ始めた。一口食べると、美味しさや食材の旨味が口いっぱいに広がって美味しいと自然と口から言葉が漏れていた。

「手作りって美味しいんだね。 何度もそう思っちゃうよ」

食べ続ける出雲に美桜がここで毎日食べれるからと言う。それに対して出雲はありがとうと言い、おかわりと茶碗を持ち上げて言った。

「朝からそんなに食べて大丈夫? この後の訓練で気持ち悪くならない?」

そう美桜に聞かれた出雲は、大丈夫と笑顔で返した。

「食べても食べてもお腹が空くから平気!」

出雲は成長期の今に食べれていなかった分を取り戻すかのように食欲旺盛であった。出雲の身体はまだ痩せ細っているが、キチンと食べていることや訓練をしているので、次第に筋肉がついて適正な身体になるだろうと美桜と雫は考えていた。

「朝食後はすぐに訓練ですよ。 準備しておいてくださいね」

そう雫に言われた出雲は、分かりましたと返答した。そして、準備を整え、出雲は昨日と同じ場所で訓練を開始した。光魔法のレイを発動したり、筋力トレーニングを出雲は続けている。次第に体力が底をつき、地面に倒れて休憩をしつつも、出雲は強くなるんだと呟いてトレーニングに励む。

「ちょっと休憩……身体が痛い……」

出雲は床に寝っ転がりながら空を見ていた。すると、木の側に置いていた魔法書が淡く光ったのを出雲は見た。出雲は身体に鞭を打ちながら立ち上がって木の側にある魔法書を手に取る。

「魔法書が光った? 何か新しい魔法でも出現したのかな?」

出雲がレイが書かれているページを開くと、そこには新しい魔法名が出ていた。

「新しいのが出てる! 魔法名は……光弾?」

今度はカタカナではなく漢字で書かれていた。出雲はそんなものなんかと納得することにし、光弾という魔法を習得しようとした。

「光弾には詠唱はないのか。 イメージ、光弾だから光を弾のように発射するイメージ……光弾!」

出雲は右手に光を収束させて一気に銃のように放つイメージで光弾を空に向けて放った。光弾は空に向けて真っ直ぐ飛ぶと数十メートル飛んだ先で弾けた。出雲は自身の放った光弾が消えたのを見ると、新しい魔法を使えたと両腕を上げて喜んでいた。

「よし! 着実に成長してる! 新しい魔法扱えた!」

やったと喜んでいると、突然身体中の力が抜けて地面に倒れてしまった。出雲は魔力が切れたのかと思い、巨大な脱力感が襲っている身体に鞭を打って中庭から一時出ようと地面を這っていた。すると、弾ける音を聞いていた美桜が中庭に来ると、ゾンビみたいに這っている出雲をみて悲鳴を上げた。

「キャアアアア!」

美桜は叫びながら真下にいる出雲の頭部を何度も蹴りつけてしまった。出雲は痛い痛いと何度も叫ぶと、美桜が出雲だったのと驚いた口調で言う。

「俺だよ……何度も蹴らないで!」

頭部を両手で覆うと、静かに立ち上がった。

「美桜に蹴られたら虚脱感が消えた気がする!」

出雲がそう言うと、美桜が気持ち悪いと真顔で言う。

「真顔で言わないで!」

出雲が頬を膨らませながら言うと、美桜が冗談よと言った。

「でも、蹴られて元気出るのは気持ち悪いわよ」

舌を出して小悪魔な顔をすると、出雲が美桜はたまに小悪魔系みたいになるねと言った。

「小悪魔系? なにそれ?」

美桜はその言葉を知らないようで、出雲は甘えた口調やボディタッチが多かったりと言う。

「それに、身体のラインが見える服を着たりとかね」

出雲がそう言うと、好きな服装だから仕方ないと笑顔で言ってきた。
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