第2話

文字数 1,482文字

2011年将棋東日本大会に参加して
 
 私は、日本将棋連盟支部対抗戦東日本大会団体戦に参加した。東日本は、被災地でない県のほうがはるかに少ない。どこの県もなんらかの影響はある。なんと声をかけたらいいのか分からなかったし実際声をかけることはできない。ただ、茨城県の代表の小木ポール君は知り合いだったので少し話をした。茨城もやはり揺れは大きかった。ポール君によれば、子どもを学校に送るのも考えたほうがいいとのこと、放射能の影響は大きい。ポール君は、今度のアマ竜王戦では、神奈川県代表に代わる。「放射能を避けたのか」と聞いたがそうではないらしい。 私と同じ団体戦浜松支部代表の阿部君は、高校の団体戦の静岡県代表で福島の郡山に行く。少しおびえているようだ。 
 指導対局は金井恒太五段だった。彼が少年時代、御徒町将棋センターで対戦していた。彼が奨励会に入る前の研修会の頃、あと一勝一敗で奨励会入会の時だ。金井君は自信がなかった。
「あと一勝で奨励会だね」私が言うと金井君
「でも、手合が角落ちと飛車落ちなんです」
「それを勝った人がプロになる」
「そうですね」金井君は明るくなった。
これは堀口当時四段が「研修会から奨励会に行った人はプロになっています。ぼくもそうてした」と言っていたことが根拠で自信たっぷりに言ったのだ。
「『それを勝った人がプロになる』と言ったの覚えてる?」「覚えていますとも」
 懇親会で、郷田九段は東日本の被害に向けたスピーチをした。佐藤紳哉六段のあいさつが面白かった。自分の毛が薄いことと「角」と「桂」の駒の頭の弱いことをかけた自虐ネタを披露した。私はユーモアを研究していることを佐藤六段に伝えに行った。「何パターンくらいあるんですか」「百二十くらいです」「何かひとつネタを教えてください」「そうですね、じゃ、今日電車の中で考えたやつを」
「日本の食事で人気があるもので「う」から始まるものは?」「ヒント?」「「ん」で終わる」「ウラン」「うどんだろ、お前は原子炉か」・・・このネタ金井恒太五段と佐藤紳哉六段にやってもらった。一度聞いただけで打ち合わせなしですぐ二人で演じられる能力の高さに驚いた。
 私は、将棋のプロ棋士は論理力とか記憶力が格段に優れていると思っていたが、テーマを設定する能力が優れていると体感した。質問が本質的で、知り合ってわずかの時間で一気に深い話をしたのはこの時以外にない。
「ユーモアのパターンを川柳で」にユーモアのパターンはある。https://novel.daysneo.com/sp/works/ef8fd7bae628293c5745cf4a4146a429.html
 たわいのないなぐさみ、ユーモアが日本に広がれば日本は復興したと言える。紳哉先生はその後、「藤井四段29連勝すごいですね。ただ、脱帽です」と言ってかつらを取るというパフォーマンスでテレビにも登場するようになった。自分の弱点をさらけ出しプラスに変える。弱さを長所にイメチェンできる人は勇気を与える。明るくハゲを演じてハゲを励ましている。
 
 大会の結果は予選突破本戦一回戦敗退だった。感想としては、レベルの高い将棋を日ごろから指さなければいけないということだ。勝てばいいと雑になっていると、強い相手には通用しない。序盤の細かさ、読みの正確さ、終盤の決め方、常に最善を尽くす訓練を日ごろからくせにしないといけない。勝ち負けの結果以上にレベルの高さを保つことが長い目で見た時の成果があがるだろう。緻密な論理や豊かな発想力を将棋で養い、なんらかの復興へつながればいいと願っている。

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