第19話 四大妖のもとへ
文字数 2,056文字
急な話に、周りの者は困惑する。
「待ってください。そんな急に言われましても……。それに皆で協力して、一体づつ倒したほうが安全ではないのですか?」
「時間がないのじゃ。わらわもこの娘を使っていつまで交信できるかわからん。よいか、四大妖のもとに送り込める術は一度きり。奴らを倒せば、奴らの領域も崩壊し、この地に戻ってこられる。ほれ、さっさと話し合わぬか」
なんとも強引な話ではあるが、龍たちは渋々誰がどの大妖と戦うのか輪になって話し合った。
「皆さん、申しわけありません。あの方は一度言い出したら聞かない方ですので」
話し合いながら龍が小声で謝る。不思議そうに
「師匠。秦璃……じゃないんだったね。あの気の強そうなのと知り合いなの?」
「まあ、なんというか、詳しいことはわたしの口から言えないのです。ただ、あの方は天界に住まう仙女であるとしか……。わかってください」
深刻な顔でうつむく。その様子を見て、皆もそれ以上訊こうとはしなかった。
「四大妖……ただの伝説だと思っていました。天手河の
「天手河の無支祁──そいつはおれが倒す」
「左臥……いつの間に。古代の水怪、無支祁。いえ、水神といってもいい程の大物ですよ。この地へ生きて戻れる保証がないのに、なんの利益もなしにあなたが動くとは」
龍が眉をひそめて訊くと、左臥は軽く咳き込んだあとに言った。
「おまえには関係ない。そこならおれが行ってやる、と言ってるんだ。これ以上無駄なことを言わせるな」
左臥はくたびれたように腰を下ろす。龍はまだ納得できない様子で話を訊こうとしたが秦璃が口を挟んだ。
「よし。四つのうち一つは決まった。ほれ、龍。おまえはどうするのじゃ」
「わたしは……ならば白露宮の餓堕羅のところへ。皆さんの異存がなければですが」
無論、誰も反対しなかった。伝説の四大妖など、おとぎ話か古い文献に数行記されている程度のものなのだ。どの妖怪がどんな力を秘めているのか誰にもわからない。
「わたくしは東泰門の土伯。あの門は幽界につながっていると言われていますね。一度、行ってみたかったのです」
まるで物見遊山にでも行くような欧陽緋の口ぶりに皆が呆れた。林魁と
「お姉さん一人で行くなんて無理だよ。おれと蘇悠さんが一緒に行ったほうがいいよね」
「おうよ。こんな若くて綺麗な人を妖怪のところに一人で行かせるなんて男じゃねえ。さ、おれがいたほうが安心でしょう?」
だが欧陽緋は視線を落として首を振る。
林魁は龍に同意を求めようとしたが、同じように龍も首を横に振った。
「彼女は一人のほうがいいでしょう。心配はいりません。ある意味、この中で最も強いでしょうから」
ここで左臥がくつくつと笑う。
「そいつが官軍の兵から、なんて呼ばれているか知ってるか?〈夜叉欧陽〉だぞ。幽界の鬼なんぞ仲間みたいなもんだ」
鋭い視線で欧陽緋が睨みつける。左臥は肩をすくめて押し黙った。
「問題はあと一ヶ所。楽円寺の那威王」
龍はそう言って一同を見渡す。
子供の林魁と秦璃。身体のでかいだけが取り柄の蘇悠。まったく戦力にならなそうな
「だったら、おれ。おれがいるよ、師匠!」
林魁が飛び跳ねて立候補する。龍はそれを無視し、秦璃に相談する。
「あと一ヶ所は無理ではないでしょうか。とりあえず、わたしたち三人だけで行くというわけにはいかないのでしょうか」
「それでもいいが、おまえたちが戦っている間に那威王が復活して都で暴れだしたら、誰が止めるのじゃ? ここは時間稼ぎ程度でもよいから、誰かを送り込むべきだと思うが」
「しかし……」
龍がなおもためらってるいると、秦璃が自分を指さす。
「わらわが行こう。この身体でいつまで動けるかわからんが。この娘にとっては酷なことかもしれんが、そうも言ってられぬ状況じゃ」
「あ、阿璃が行くんだったら、わたしも」
秦昂が進み出る。林魁と蘇悠も顔を見合わせ、ずいと前に出る。
「そんな、無茶です」
龍が四人を止めようとするが、またも秦璃の正拳突きがみぞおちへめり込んだ。
「無茶もヘチマもない。白龍よ、相変わらず心配性じゃのう。わらわがついておるかぎり安全じゃ。さあ、準備はいいか。さっそく送り込むぞ」
秦璃が両手を天に向け、目を閉じる。そしてその手を龍たちに向けた。龍たちの足元が、ぱあっと光だした。
うずくまった龍が慌てて林魁に声をかける。
「魁、これを」
背中の木箱から木剣を取り出し、投げ渡す。林魁はにっかり笑ってそれを受け取った。
全員が身体が宙を浮くような感覚に襲われる。実際には沈んでいるかもしれない。次第に意識が遠のく。
光に包まれた七人の身体は、それぞれ四大妖の封印されし異界へと飛ばされていった。