第69話  黒澤 凛  6

文字数 3,169文字


 ※


 僕と同じ入れ替わり体質? あの人が?
 怖いお姉ちゃんも……僕と同じ……

怖くねぇ。お前は絶対大丈夫だ。

ちゃんと助かったら……俺も入れ替わる所見せてやるよ。だから踏ん張れ!

 その時、すぐ上から聖奈おねえちゃんの声がした。
華凛ちゃん!
おいっ! お前! 俺の片足を持てっ!
分かったわっ。華凛ちゃん! 今助けるわよっ!
聖奈お姉ちゃん!

 聖奈お姉ちゃんの声で、僕はぶわっと涙が出てきた。

よし。そのまま頼んだ! 行くぞぉ! 今助けてやる!
 虎さんの右手が僕の腰に届く。次に足を持っていた左手が腰にがっちり巻きついた。
今だ。上げろ!

 虎さんが叫ぶと、僕の身体が徐々に上に上がって行く。

 そして視界にみんなの顔が見えると、そこから一気に僕の身体は引き上げられた。

もう大丈夫よっ!

 すぐに聖奈お姉ちゃんが抱きついてくれて、泣いてしまった。 

 まだ息切れしてる聖奈お姉ちゃんは僕をきつく抱いてくれた時、僕は助かったのだと思った。


 だけど、虎さんは僕の手を持つと、すごい力で引っ張られてしまう。

な、何すんのよ!

助けてもらって悪いんだが……華凛ちゃん! 逃げるぞ!

おいっ! 女っ! お前もだっ!

え?
え? わ、わたし?
 え? 待って! 何で逃げるの?
逃げるんだ! 早くっ!

まずは華凛ちゃんやこの女の子に事情を説明しないと!

家に連れて行って、翔にぃ達に……

華凛ちゃん! あんた。は、離しなさい!
 聖奈お姉ちゃんが叫んだと同時に、平八おじさんまで近寄ってくる。
 すると、虎さんは僕を引っ張ると、急いで入り口に走ってゆく。
くそっ! どきやがれっ!
 聖奈お姉ちゃんを突き飛ばした虎さんは、再び僕を引っ張り走り出した。
聖奈お姉ちゃん!
いいから! ここからまず逃げるんだ!

 坂田さんまで引っ張られると、虎さんは僕達を抱えたまま屋上の入り口に向かう。

 その入り口の前に立っていたのは平八おじさんだった。

このまま逃がす訳には参りませぬな
んだと? おっさん。そこをどけ! 殺すぞっ!

 その瞬間――何が起こったのか分からなかった。


 気が付けば、僕と坂田さんは平八おじさんに抱えられていた。


 一体。何がどうなって……平八おじさんの横にいるのか理解出来ない。

立派に成長されておりますな。華凛お嬢様。

以前よりも胸のふくらみが大きゅうなっておりますぞ。凄まじい成長速度でございます。

こんの……クソメガネがぁ! マジで撲殺してやる!


 ※



待ちなさいあんた! 華凛ちゃんは私の家族なのよっ!
話をさせろって言ってるのが聞こえねぇのか! クソ女!
 虎お姉ちゃん。お願い……やめて! どうして逃げるの?
こういう輩は一度、懲らしめた方がよろしいかと。平八めにお任せ下さい

 平八おじさんは僕を降ろすと、すぐに聖奈お姉ちゃんが後ろから抱きついてくれた。


こんのクソ野郎がぁ!
 戦う構えを見た虎ちゃんは、急に見開くと、すぐに怖い顔になった。
 とっても怖い……まるで僕のお姉ちゃんみたいだった。
 だけど、虎さんは怒ってた顔から急に落ち着いていた。
……おっさん。マジ強いだろ? 何となく分かるぜ

なるほど、目だけは良いようですな。

しかしこの平八に勝負を挑むとは少しばかり無謀でございます

 お願い! 虎お姉ちゃん! お、お話、ここで……
 聖奈お姉ちゃん達は僕の事を知ってる。だから……


 声が出ない。怖くて……恐ろしくて僕には声を出すことが出来なかった。

そうだ華凛ちゃん! いいもの見せてやるよ。

お前だけ正体バレてるのは嫌だろ?

 すると虎ちゃんは、立ちながら目を閉じると、みるみるうちに金髪だった髪が黒くなり、身体も一回り大きくなってしまった。 



 ほ、本当に……僕と一緒。

そんな……あんたも入れ替わるの?
そんな……本当に……
これはまた。とんでもない人間に助けられたものですな
 男の子。虎お姉ちゃんは何処からどう見ても男の子になってしまった。

なぁお前ら。これを知ったからには生きて返せねぇ。

素直にいう事聞きゃぁ、知らずにすんだものを。

そんで……おっさんはここで死んでもらう。男になった俺は……とんでもなく強えぜ

ふふっ。この平八めは男相手に土が付いた事はありませぬ。

女子の状態であれば僅かながら勝機はあったものの、残念でございましたな

てめぇ! ぶっ殺す!
男など一撃でございますれば。

 その数秒後。どうなったのか僕には分からなかった。

 飛び掛った虎さんが何処でどうなって、地面に倒れたのか、僕には全く理解できなかった。

そんな……なんだてめぇ
相手が悪ぅございましたな。

俺が一撃だと……

こんな所で……龍兄ぃ……翔兄ぃ

 そのまま意識を失ってしまった虎さんに、平八おじさんが駆け寄ると、こちらを向いた。
聖奈お嬢様。マンションの下は既に人が集まってございます。これ以上この場所におられるのは危険でございますれば、車に戻りましょう。この男は平八めにお任せ下さい
分かった! 華凛ちゃん! あなたもっ。 行くわよ!
……はいっ!

 そして僕は聖奈お姉ちゃんや坂田さんと一緒に屋上の入り口へ走っていく。


 その時ふと後ろを振り返ると……平八おじさんも虎さんもいなかった。
 

聖奈お姉ちゃん! 平八さんが……
いいから。あいつが車に戻るっていうなら、私達も戻るだけよ。早くっ!

 ※


 マンションを降りてランドセルを持つと、外にはいっぱい人が集まっていた。

 黒いスーツを着た男の人がいっぱいで、聖奈お姉ちゃんが「もういいわ。ありがとう」と一声掛けると、すぐに走り去って行った。

だ、誰?
気にしなくていいわ。それよりも……こっちよ!

 他には叔母さんや、お爺さん。色々な人が大丈夫? と声を掛けてくるけど、聖奈お姉ちゃんはにこやかに返事して、逃げるようにその場を立ち去った。



 聖奈お姉ちゃんに言われるまま走ると、急に横から現れたのはいつもの黒い車だった。
 運転席には平八おじさんがおり、すぐに助手席のドアと後部座席のドアが開くと、すぐに乗り込む。

 後ろに座った僕の横には虎さんが居た。まだ意識が戻ってないようでぐったりしている。

 その時、スマホのメロディが聞こえてくると、どうやら聖奈お姉ちゃんに電話が掛かってきたらしい。
蓮……

聖奈お嬢様……彼にはまだ報告してはなりませぬ。

まず、こちらが先に状況を把握せねば。

そんなこと分かってるわよ。

うん。そうそう。凛ちゃんと偶然会ったからさ、今車に乗った所。

うんうん。いいわよ別に……

 電話の相手はお兄ちゃん……

 

そのまま私の仕事場まで行きたいっていうから。連れて行くわね。

うん。ちゃんと夜には帰すから大丈夫よ。

 明るい口調で喋る聖奈お姉ちゃんに、平八おじさんはルームミラー越しに僕を見ながら、人差し指を口に当てた。静かに。ってこと?

いいじゃない! ちょっとくらい凛ちゃんとデートさせてよ。

ごめん。ちょっと仕事の電話が来たわっ。また連絡するね

 そこで通話が終わると、聖奈お姉ちゃんはふぅっと溜息を吐いていた。


 聞くと、帰りが遅すぎて心配して電話をかけたって言ってた。

 車の時計を見ると、もう四時四十分。入れ替わりの時間が過ぎてるから、お兄ちゃんはきっと心配して……

大丈夫よ。蓮には上手く言ったから安心しなさい


 そうだった! 僕はすっかり……忘れてしまってた。

 今までなら、入れ替わりの時間が過ぎると、必ず僕を探しにきてたはず。


 それよりも。僕は自分がやってしまった事が大きすぎて……頭が全然追いついていない。

ふぅ。こっちの問題は何とかなったわね。

凛ちゃん。それと、あなた。


お願い。何があったのか。全部説明して欲しい。

 僕と坂田さんの目が合うと、とても怯えた様子に見えた。

 それは僕も一緒で、身体が震えてて、今にも倒れそうだった。

何であんなことに……ちゃんと教えて。

 喋らなきゃならない。全部……

 僕がやってしまったことを全て……

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登場人物紹介


 ★登場人物でも若干のネタバレを含みます。第一部からお読みいただきますようよろしくです。

 ★逆に第二部の登場人物を先に読んでから、第一部をお読み頂きますと、別の意味で楽しめます。

 

 ★読者視点は神視点。登場人物の心の声も聞こえます。(フキダシの色がこの色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年

 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 自分自身の事よりも、仲間の為ならば凄まじく有能になる。

 ★ 白峰楓蓮 しらみね かれん


 蓮の女性の姿。類稀なる美少女だが本人にはあまり自覚がない。


 外部には黒澤家の親戚(蓮の姉)となっている。

 楓蓮では世間との関わりあいを最小限にしてきたが、徐々に一人の女性として目覚め始める。

 

 自分を理解してくれる人間が増えるたびに楓蓮は飛躍的に成長してゆく。  

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生

 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。

 

 二部中盤で凛オンリーの章があります

★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは黒澤家の秘密を知るものだけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。

★ 黒澤 玲斗 くろさわ れいと

★ 白峰 麗華 しらみね れいか


蓮や凛のお父さん。ただいま遠方で仕事中。

麻莉奈や平八。ティナとは大親友。


後半から再び登場します

★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。

 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。


 高校当初から蓮と関わりを持ち、お互いに影響されてゆく。無二の親友?

 記憶喪失だったが、徐々に昔の事を思い出してゆく。


 二人目の主人公。

★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲

 おっぱい職人。ツイッタのフォロワーは10万以上の有名人。

 作中でも最強だと言われるが……

★ 白竹 美優 しらたけ みゆう

 

 男女入れ替わり体質

 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。とても内気で、語尾が変になる。

 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は魔優と入れ替わっている

 歌が上手く、全国でも有名な絵師でもある。(エロ同人が本業)

 

 三人目の主人公。 

★白竹 美樹 しらたけ みき


 白竹美優の男性の姿。

 外部では白竹魔樹と名乗っているので、彼を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で厨房担当したり、サイクルの都合上、学校でも魔樹として振舞う。

 男の子の身体で遊ぶのが大好き

★白竹 魔優 しらたけ まゆう


 男女入れ替わり体質。

 外部では白竹美優と名乗っているので、彼女を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で接客担当。サイクルの都合上、学校でも美優として振舞う。

 心の中は女の子なので、こちらが真の姿となる。

 四人目の主人公

★白竹 魔樹 しらたけ まき


 魔優の男の姿。外部に知られているのは魔樹である。

 蓮の隣のクラスで、常にクール。成績も良く、空手や合気道を習得。

 学校内では魔樹王子と呼ばれるほどモテる。


 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は美優と入れ替わっている

 乙女ゲー大好きのツンデレ。

★白竹 麻莉奈 しらたけ まりな


美優。魔優の母。入れ替わり体質。


とてもピアノが上手く、蓮はプロの犯行だと断定。

双子の母だけあり、とても美人だが色々とヤバい人。

男の姿は、でかい上にマッチョらしい。


★ じいじ


 白竹家のおじいさん。喫茶店のオーナー。

 小太りでツルっぱげ。チョビ髭が可愛い。

 厨房担当で楽しい事があると、その場でクルクル回りだす。

★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 男女入れ替わり体質。

 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的で、クラスでも人気がある。

 楓蓮に一目惚れし、ずっと彼女を追い求める。

 オムライサーでありポニテマニア。

 

 五人目の主人公

★山田 龍子 やまだ りゅうこ


 龍一の女性の姿。

 楓蓮を追って同じ喫茶店で働く事になる。全国でも有名な山田組の人間。

 ケンカが強く、蓮も認めるほど。

 楓蓮に近づく男を排除しようとする俺っ子。

★山田 虎子 やまだ とらこ


男女入れ替わり体質。龍一の弟(妹)

全国統一を夢見る女の子。既にチームを結成しており、チームヴァルハラと名づける。

口調はキツいが、兄弟には頭が上がらない。

デコトラならぬデコチャリで街中を暴走する。

★染谷 翔一 そめや しょういち 


男女入れ替わり体質。龍一の兄(姉)

龍一が恐れる唯一の兄貴。百人でかかっても勝てないらしい。

ただいま、新婚生活真っ最中。

★染谷 桜 (そめや さくら)


 翔一の奥さん。普通の人間。

 とても清楚で大人しそうな美人だが染谷三兄弟は彼女に対し頭が上がらない。

 翔一を女らしくする為、日々調教中。

★百済 紫苑 くだら しおん


 高校二年。軽音部。実家はソッチ系統の百済組。

 楓蓮達と一緒に喫茶店でバイトを始める。関西弁ちっくな喋り方だが、とても優しく後輩想い。

 蓮の同じクラスである、米山まゆこと、坂田沙織は小学校からの付き合い。

 マイブームはマジョリーナちゃん(ミニチュアダックス)を可愛がる事。

★坂田 沙織  さかた さおり


 高校一年。蓮と同じクラス。

 いつもニコニコ。おっとりとした口調でマイペース。

 紫苑と同じ軽音部。ベース担当。

 親が犬のブリーダーで楓蓮に二匹のダックスを譲る。

★ 西部

 蓮と同じクラス。

 事あるごとに蓮に絡んでくるが、その目的は聖奈や美優と接点が持ちたいが為である。

 ツイッター名では「モントゴメリー」。おっぱい職人を神と崇める。

★真鍋

 蓮と同じクラス。西部の友達。

 頭は良く、テストでも上位だが、彼もおっぱい職人を神と崇める。

 ツイッター名は「穴バースト」

★米山 まゆこ (だんじりバージョン)


 蓮と同じクラス。坂田とは昔からの親友で、紫苑は先輩に当たる。

 魔樹王子にベタ惚れてしまい、蓮に紹介してもらえるよう頼んだ。

 バスケ部所属。一年なのに相当の実力を持っている。

★ 三輪 加奈子 みわ かなこ

 

 蓮と同じクラス。坂田沙織の友達で幼稚園からの付き合い。

 男の子同士がホニャララするのが好き。

★ 清原 愛美 きよはら まなみ


 魔樹と同じクラス。米山まゆこと中学時代からの付き合い。

 ちなみに魔樹王子と呼び出したのはこの子。

★ 梶谷


 蓮と同じクラス。西部の友達で小学生からの付き合い。

 バスケ部所属。一年でレギュラー筆頭。

★高坂


蓮と同じクラス。梶谷の友達。

ギャルゲーのアイドルプリンセスをこよなく愛する男の子。

★ 鼻


楓蓮が命名。

その昔、蓮にケンカ売ってきたり、美優をナンパしたり、ろくでなし男であったが楓蓮や龍子にボコられる。だが楓蓮に鼻を治してもらったと勘違いしている。

楓蓮に殴られてから、とんでもなく優秀な男へ変貌する(だがケンカは弱い)

★ヴァルハラメンバー 


 只今メンバーは八人。

 虎子率いるチームヴァルハラメンバー。俗に言う不良だが、楓蓮。龍子。虎子には従順。

 実は全員イケメンレベルだが、とにかく頭も弱く、ケンカも弱い。

 NO表示されており、変なヤツが混じってます。 

 竜王 冴子 りゅうおう さえこ


 高校一年。西部曰く、彼女と美神聖奈。白竹美優を三大美女認定している。

 いつも笑顔。とても愛想が良い彼女だが……

 王二朗曰く、超危険人物。鞄にスタンガンを隠し持ち、女の子を襲うらしい

★ 播磨 王二朗 (はりま おうじろう)


 高校一年。竜王冴子と共に登場。190センチの巨漢であり極道顔。

 とてもじゃないが高校生には見えない容姿に、シルエット姿となっている。

 警官とエンカウントすると、ほぼ職務質問されてしまう。

 ゴリラのモノマネが神がかっている。

★竜王 将哉 りゅうおう しょうや


 萌ゴリと共に現れた男性。とてもイケメンだが萌にナンパーマンであると暴露されてしまう。萌は恋人だと告げるが……楓蓮は最初から将哉を警戒する。 

★稲坂 萌 いなさか もえ


 楓蓮が早朝マラソンに出かけた際に知り合った女性。

 巨漢で筋肉質なので、楓蓮は男だと勘違いするほど。

 とても気さくでしゃべりやすい印象を受けた萌ゴリ。ちなみにラッキースケベ体質。

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