誕生日が近い

文字数 2,818文字

「鬼子の誕生日が近い」
 ある晴れた昼下がり、日本家の居間で寛ぐ田中や五変態を前に、こにぽんが突然のたまった。
「そうなの?なら誕生パーティーしないと。う~ん、でもプレゼント買う予算が」
「ん?金がないのか」
「そうなのよ。バター買い込んだらなくなっちゃって」
「む、わんこをバター犬にしているという噂は本当だったのか」
「チチメンチョウ!そんなわけないでしょ!ちょっとお菓子作りにはまっただけよ」
「稼ぐなら、おっパブがいいぞ。行きつけの店を紹介してやる」
「ヒワイドリも黙ってて!予算の方は兄貴も巻き込んで用意するから問題ないとして。さて、何をプレゼントしたものか」
 そこで、こにぽんが口を開いた。
「鬼子はイケ麺が食べたい、と言っていた」
 思わず息を飲む面々。
「こにぽん・・・それ、本当?」
「この前おひるごはんにうどん食べてた時に、そう呟いてた」
「・・・そう。こにぽんが嘘言うわけないし・・・鬼子さん、メンクイだったんだ」
「うん、鬼子、麺喰い」
 田中の当惑をよそに、五変態達は狂喜乱舞していた。
「遂に俺様の時代がきたか!!」
「魚類ごときなど永遠に来ぬわ!」
「両生類にこそ言われたくない!」
「フッ、醜いな。鳥類こそ至高!つまりこのヒワイドリこそが!」
「家禽なんぞには何もできんよ」
「七面鳥はクリスマスに食卓飾ってりゃいいんだよ」
「先生を馬鹿にするな!」
「ハチドリはこにぽんの胸でも鑑賞してろ!」
「ちっぱいは正義なんだよ!大きいと垂れるだけじゃないか!」
「そこ五月蠅い!!」
 あまりの騒ぎに田中が大声で変態達を怒鳴りつけた。
「そんな事より、これはチャンスよ」
「チャンス?」
「そうよ!これはもう兄貴とくっつけるしかない!」
「え?なんで?」
 当惑する面々をよそに、田中は一人盛り上がっていた」
「あの二人、見ててまだるっこしいの。分かるでしょ。もうこれを機会にはっきりさせるのよ!」
「いやでも俺達の・・・」
「あんたたちの時代なんて1000年たっても来やしないから安心して」
「それもひどい言い草な気が」
「いいから、協力してもらうわよ」

 居間から人気が消え、入れ替わりに猫が一匹。
「フフ、これはついなちゃんにも教えてあげないと。あの子一人蚊帳の外じゃ泣いちゃいそうだしね。面白い事になりそうね」


当日
「さ、鬼子さん、こっちよこっち」
「どうしたんですか田中さん。分かりましたから引っ張らないで」
 田中は鬼子を部屋に放り込んだ。
「ちょっと待ってて」
 急ぎ気味に襖をしめる。
「まったく、何がどうしたというんでしょう」
 言いながら鬼子は周りを見渡す。自宅の一室ながら見違える装飾に満ちていた。
「え?この壁紙、こんな色だった?」
 淡い空色だったはずの壁がピンクに彩られ、間接照明で薄暗い。妙に赤い布団も敷かれていて、枕は何故か二つ用意されてた。
「ま、待て、どうしたんだ」
「いいから、早くも入る!」
 ふすまが開き、巧が蹴り入れられてきた。
「じゃ、後は若いもんに任せて」
 ニヤツキながら襖をしめて去っていき、後には鬼子と巧の二人が残された。
「あ。鬼子さん。これはいったい?」
「私にもなにがなんだか」

「ふっふっふ。愛し合う男女が二人きり。これで何も起こらないはずがなく」
「田中、恐ろしい子」
 隣の部屋で田中とこにぽんが様子を隣の様子を窺っていた。
「カメラもセットしたし、さあ兄貴、鬼子さんに獣のように襲い掛かりなさい!」

「あ、そういえば鬼子さん。誕生日だそうですね」
 妹の思惑も知らず、巧はノホホンと鬼子と話し始めた。
「はい、ありがとうございます」
「これ、貰ってくれますか?」
「え? あ、フルーツタルトですか」
「はい昨日作って、鬼子さん達にって持って来たんです。バースデイケーキじゃなくて悪いですが」
「そんな事ありません!うれしいです」
 巧手製のタルトを大事そうに持ちながら鬼子は呟いた。
「・・・これって、誕生日プレゼントのつもりなのかな・・・」
 鬼子の視界に布団が入る。
「どうかしました?」
「い、いえ、何も」
(覚悟、決めてもいいのかな)
 鬼は静かに決意を固め始めた。

「お、これは、鬼子さん、やる気になった?」
 隣はいつのまにかギャラリーが増えていた。
「お前の兄貴、本当に男か。何やってやがる。さっさと押し倒せ」
「無理よ。今まで女っ気なしで、これが初めてなんだから」

「せっかくの誕生日なのに、みんなどうしたんでしょうね」
「さぁ。田中さんがいるんですから、探せばいると思うんですが・・・ハッ、もしや!」
 精神を集中し周囲を探る。
「・・・カメラ・・・撮影中・・・」

「ヤバい」
「逃げるぞ疾く早く」
「みんな、こんな所にいたのね」
 静かに笑みを湛えた鬼子がそこに立っていた。
「ほ、ほら。こにぽん。鬼子さんに言う事あるでしょ」
 こにぽんを盾に状況の打開を図る外道がそこにいた。
「鬼子、誕生日おめでとう。皆と相談して決めた」
「そう、ありがとう、うれしいわ」
 さすがの鬼子も毒気を抜かれ、危機を脱したかに見えた・・・が
「色々教えてもらって賢くなった」
「そう、何を覚えたの?」
「わんこはバター犬。稼ぐならおっパブ。鬼子はメンクイ」
 ・・・・・・
「お前達。何を吹き込んだ?」
「お、鬼子さん落ち着いて」
 鬼子はニッコリと笑って答えた。
「私は後2回、変身を残しています。この意味、分かりますよね?」
「分かるけど!私人間だし死ぬし!」
 まさに死の直前、猫以外誰も知らない伏線が回収された。
「鬼子!今日誕生日やそうやな!けどウチはそないな事で容赦せえへんで!」
「ついなちゃん!後は任せた!」
 とつぜん現れたついなに全てを託し逃げ行く腐れ外道達。
「あ?どうしたんやいったい?まぁええわ、今日が年貢の納め時や!・・・って、なんやねんこれ!」

「さようならついなちゃん、私達はあなたを忘れない」
「お前本当に酷いな」
 ヒワイドリのツッコミにも動じず田中は続けた。
「ついなちゃんに鬱憤全部ぶつけて、鬼子さんも落ち着いたでしょ。謝ればきっと許してくれるわよ」
「甘いわね田中さん」
「鬼子さん!こ、これはどうも、ところでついなちゃんは?」
「寝てるわよ」
「あ、生きてたんだ」
「・・・で、全員、正座!!」
「今日と言う今日は許しません!・・・あ、巧さんは先に戻っててください」
「兄貴だけずるい」
「そこ、黙って!」
「サー!イエッサー!」
「大体あなた達は・・・」
 いつ果てるとも知れない説教の渦。だが
(まあ、許してあげようかしら。巧さんとも良い時間を過ごせたし)

天は蒼穹。腫れ上がる青空の下、平和で平凡で楽しい日常の復帰まであと少し。


被害甚大なついなを除いて



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