あそこに

文字数 524文字

「あ、あそこに居る」
蛍光灯の切れかけた階段の踊り場を指差しながら、一人が言い出す。
それがスタートの合図だろう。
「ねぇ、見えるでしょう」
念を押す言葉に周りの人間が同調する。
「ほんとだ」
「確かに居る」
口々に言いながら、三人とも少し離れた所に居る女子に視線を向けた。
「ねぇ、あんたにも見えるでしょ?」
「え……」
三人とは明らかに毛色の違う、サラリとした黒髪の彼女はそう言ったきり黙りこむ。
その様子を見ながら、三人は相手を馬鹿にする様な笑みを浮かべた。
「あーだめかぁ、忘れてた」
「あんたは霊感無いんだもんねぇ」
「そうか、小学校の時から、あんただけ見えないんだっけ」
醜く蔑んだ顔でにやにやしながら、一人を取り囲んでいるのはあまり良い見せ物ではない。
めんどくさい所に通りがかったものだと思いながら、私は声をかけた。
「そこ、通りたいんだけど」
庇うつもりがある訳じゃなく、単に邪魔だっただけだが、三人は睨めつける様にこちらを見ると、学年違いのリボンに気付き、そのまま舌打ちして去っていった。
「あんなの適当に相槌を打てば良いのに」
ぽつりと言うと、彼女は軽く笑う。
「……だって、居ないもの」
そして、言った。
「……あそこには」
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