第3話 実験、考察、手詰まり感

文字数 1,033文字

食事量は一年以上かけて落ち着いたものの、最大の問題である「おなら」には、一向に改善の兆しが見られなかった。
『腸内環境を整える』と謳った乳製品は一通り試したが、ことごとくハズレだった。
世間一般で良いとされるものでも、すべての人に効果があるわけではない、ということはわかっていたつもりだったが、特に夫とは相性が悪かったらしい。
時には『整える』を通り越し、流れがよくなりすぎることも。
乳糖不耐症も疑ったが、牛乳はお腹を壊したり壊さなかったりで、いまいち確証がない。
低温殺菌牛乳にしたら少し落ち着いたので、これもまた相性なのだろう。

持って生まれた体質と、育ってきた環境の違う者同士が一緒に生活する。
そして、より健康になれるように、バランスよく栄養が摂れるようにと、日々の献立を考え、食事を準備する。
もともと料理が苦手な上、フルタイムで仕事をしていた私にとって、これはなかなかにハードルが高い話だった。
夫は自営で私よりも少し時間はあったが、彼は料理のセンスが壊滅的にない。
「調理」という作業はできるのだが、任せきると不可思議な料理が出来上がる。
しかも、困惑するくらいに大量に作ることがほとんどだった。
試行錯誤の末、私がメニューを考え、二人で食事を準備する形に落ち着いてきた。

私たち夫婦は、食事を別にすることがほとんどない。
もともと人付き合いが希薄な上、夫婦で一緒にいることが楽しいせいで、「(伴侶以外の)誰かと食事に行く」というイベントが発生しないのだ。
その事実を踏まえると、毎日ほぼ同じものを食べているにもかかわらず、夫の「おなら」の攻撃力がやたらと高いことが不思議である。
ちなみに、私はおそらく人並だろうと思っている。(ほかの人と比べる機会なんてそうそうないので、主観に基づく見解であることは大目に見ていただきたい。)
少なくとも、夫の「おなら」は明らかに攻撃性が異常なのだ。
何かが悪くなっている上に刺激を加えたような臭いで、大抵は出した本人が一番ダメージを受けている。

夫婦の間であれば、笑いのネタに変えることだってできるが、お客様相手ではそうはいかない。
夫の仕事は鍼灸師。
人に触れることを避けられない仕事だ。
施術中に惨事を引き起こすわけにもいかず、地味にプレッシャーを感じているらしい。

夫は結婚してからの食生活で、以前よりも体調を崩しにくくなった、と言っている。
しかし、お腹の事情に関しては相変わらずなのだ。
私の拙い料理スキルでフォローするには、あまりにも手強い壁である。
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