第34話 確実な予定に急な予定を重ねて

文字数 1,397文字

 必要な量のご飯を必要な分だけ食べる。小学校の給食にも物足りなさを感じたのに何故僕は彼女の分までお腹が空いて、ニコチンにも頼り、ピザのデリバリーを電話で注文した時点で満足し、チューイングガムを飲み込めるほど小さくなるまで噛み続けるのだろう。
 ごちゃごちゃ屁理屈を捏ね始めると決まって額をぴしゃりと叩かれるものだからもぐもぐ口に含んだまま目だけすいすい泳いでいる。
 魚は海底に溺れ鳥は大気に燃える、木々と動物が戦争を始め、O3はセブンティーンの女の子、ルネ・マグリットが喜びそうな構図とモティーフを膳立てする。

 マサチューセッツでは実験きつねが雌雄放し飼いされ、彼女の夢にもふわふわのお揚げを数え、個人的な享楽のために正常な心拍を日常生活へ放棄する。彼女は何処かに居て、もう既に僕を待っている。待っていたのは僕ではなくて彼女の方だ。手の鳴る方へ、だるまさんがころんだ、缶けり隠れんぼ、秘密基地の所在地、少年の宝の地図はかつて其れ自体が七色で宝物だったはず。そして其れらは常に移動を伴って影のように明証される。

 地図は十七個の譜号、並べて「移動祝祭日」に灯して言えばE・パウンドの理想的詩韻充電、都市が発電し充電し、満たされた区間の運航に僕は今日も詩を真上に描く。

 やたら喉が乾いてビールも飲みたいし相して煙草も吸いたい。シェイクスピアの何だっけ、「ロミオと」、思い出して口に出そうとし開いたまま句読点に喉さらに乾かし、スンマ・テクロジカ(神学大典)に対立してのイワンの無神論かれの病、及んでW・ギャラガーの端物の中で天才少年が「神の神喰い」を目の当たりにする、額の汗が目に痛くて、ダブリンのオデュッセイア航路、若き基次郎の肺結核、一葉夢幻の稲荷参り、目を瞑ると、僕には僕のものおもう起源がちゃんとある、ガートルードの詩の中で永遠に反復する一輪の薔薇のその質量に、そもそものこの物語のはじまりを省みる。

 「夜中にチャルメラが鳴るんだよ。寝癖さん」枕に鼻を押し当てて「お寝坊さんは食いしん坊」ケタケタ笑って「食べには行かないよ。聴こえるから聴こえる、面白いんだよ」毛布を顎に引き上げながら「今夜その時は起こしておくれ」フフ「キャラメルマキアートにハッカをブレンドするね」目醒ましさんは鳴らず仕舞い。カロリーが純粋に充電されベクトルも東西南北どこにも寄らない方向に一定されていた。

 ボーイングには未だ搭乗しない。明日は同窓会、アメリカ土産の隠し事を探るに実験ノートをプレゼンしよう。夜通し考え事に我ながら暇も草も飽きるほど喰い、大洋からのノイズに全身まみれながら未来の最新型ラジオを考察する。それはとても高価で誰も買わないような代物だ。

 さっき買ったコンビニのウォッカは冷凍庫キンキンに冷え前頭葉がズキズキ痛くて、かんべんしておくれって、片目だけ涙を流しながらソファに思い落ち葉のように埋ずもれた。左手は床にしな垂れ音もさせず彼女の名を繰り返しゆっくりなぞっていた。僕達の部屋、というよりも、その時はなだらかに揺れている舞台ポルカドッツ・カーテン主人公のリビングルームだった。

 のそり夜半ひとり起きてカップヌードルを啜ってブラン毛布に繭のように包まって冷えた身体に徐々に心拍と体温を取り戻していった。夏はもうすぐいつのことで、はて、それは市場やデパートで売っているどの夏なのかは今でも分からないでいる。




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み