第21話 アルデバランとべテルギウス
文字数 854文字
我に返り、慌ててミリンを追いかけるアールグレイ。
黄昏の空には金星。菜の花畑でミリンは追いつかれてしまう。
何に対してですか? 先輩は実は運営側のスパイで、俺たちを欺いていたことに対してですか?
それもそうだけど……それよりも個人的なことで……君との時間は暇つぶしなんかとは思っていないから、さっきのは、つい、言葉のアヤで、チャイの手前、ごめん。
俺、今まで感情優先の女の子達見て、引いていたんですけど、彼女達のこと笑えなくなりました。
だって先輩がスパイだっていうことより、俺の気持ちが一方通行だったことの方が数倍ショックだったから。
もうなにを言っても言い訳になるけど、君をそんな気持ちにさせてしまったことを、俺はひどく悔やんでいる。
洋画の言い回しみたいだ。
先輩、やっぱりかっこいいです。
ミリン、冷静に振る舞ってくれている裏側で、土砂降りの心模様が俺の俯瞰(ウェザーレポート)に映っている。
今まで俺は、傷つかないようにオタクの理論武装で防御してきました。
でも今は思いっきり悲しませてください。
俺にとってなにが大切なのか、わからなくなってきた。
どうしよう、ミリン、俺も混乱していて横殴りの雨だ。
もう、先輩と一緒に、澄んだ夜空のアルデバランとべテルギウスを眺めながら、いろんな議論をすることができなくなってしまうのか……それが残念で……
あれは! あれはかけがえのない時間だ。失いたくない……
下層出身の俺と、エリートの先輩とでは、最初から住む世界が違っていたんですね。
こんなに悲しいなら、仲良くならなければよかったのかな。
そうですね。先輩との思い出は宝物だから、悲しい気持ちも全部保存しておきたい。
もし俺が破損してスペアをインストールされたとしても、消えないように。
ミリン、俺は今、初めての感情が積乱雲のように湧き上がってきて戸惑っている。
ミリンをギクシャクと抱きしめるアールグレイ。
調整区域、意外な2人のカップリング成立。
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