第6話 オーダー、通る。
文字数 3,550文字
四人がけの席で蘭子が一人そわそわとしていると、スタッフのメイドが冷水の入ったグラスを持ってきた。
メイドの彼女は、人差し指で自分のくちびるをなぞって、
満面の笑顔で言って、彼女は居住まいを正す。
招き猫みたいなポーズをとる彼女――メイドのねーぶるは、頭に猫耳のカチューシャを乗せている。
だが、どこからどう見ても人間だ。
彼女は右手を背中に回して、なにやらごそごそしたあと……
猫耳のカチューシャを取り出した!
とは言ってみたものの。
店内を見まわしてみると、他のメイドも、それから他の客も、みんな頭に猫耳を乗せている。
カウンター席でメイドと会話している、スポーツマンっぽいお兄さん。
テーブル席のキリッとしたお兄さんや、別の席のお姉さんたちも。
みんなみんな、猫耳だ。
確かに先ほどから、店内では、蘭子のボキャブラリーにはない言葉が飛び交っている。
その会話の応酬に、スタッフだけでなく客すらも、疑問を感じていないようだった。
猫耳カチューシャを手に、ねーぶるはにこにこ笑顔を見せる。
蘭子の頭に、猫耳カチューシャがジャストフィット!
すると店内の会話が……
言ってねーぶるは、大げさな仕草で店内を振り返る。
いまや店内の注目を集めていたねーぶるがそう言うと、拍手喝采が起きた。
はっとしてねーぶるが、蘭子の手を取った。
毛布と銘打ってはいるが、実際には寝袋型で、中の人をすっぽりと包んでくれる形状をしている。他のものよりも保温性が高い、特注製のボア生地が快眠を約束。
さらに、頭の部分はフードのようにかぶることができる構造になっており、耳や首元を寒さから守ってくれる。しかも可愛らしさの演出として――これは保温性には無関係だが――フードには、ぴょこんとした猫耳があしらわれている。
中の人が温かいだけでなく、見ている者もほんわかするデザインなのだ。
ちなみに……
感極まったのか、ねーぶるは蘭子に抱きついてきた。
お姉さんにすりすりされて蘭子は困惑するが、店内はそんな二人をほほ笑ましく見守っていた。
ちなみに寝具堂家のメイド(しずか)は、夜な夜な蘭子に見立てた抱き枕に頬ずりしないと眠れない体質である。
さっさとドリンクでも注文して、さっさと飲んで、さっさと出てしまおう。こんな子どもっぽい店とは、それでおさらばだ。
蘭子はそう決めて、ため息をついた。
ピンクを基調にした、華やかでガーリーなデザインのメニュー表。蘭子の感性からしても――すごく可愛い。
肩をふるわせ、蘭子は叫んだ。