第3話(1)

エピソード文字数 3,174文字

「ほーらね。予想通りになった」

 あれから15時間後の、8月3日の午前7時半過ぎ。俺は、ダイニングテーブルで諸手を挙げた。

「にゅむぅ……。浮かばないよぉ……」
「解せんぜよ……! 三人そろって、何故浮かばんがよ……!!

 上手くいかない理由? そんなの決まっているでしょう。


『家先生を跡形もなく壊せば、帰れなくなるぜよ!』


 とか言ってるアホな子がいるからだよ。

「ね、ねみゅい……。ゆーせー君、休んでいーい……?」
「徹夜は、身体先生に毒やきね……。五時間くらい、仮眠を取ろうぜよ……」
「母さんは、午前10時の飛行機に乗るんだ。根性みせてください」

 ていうか、5時間は仮眠違う。妙案が出たらフュルに辞書を渡して、『仮眠』を引かせよう。

「搭乗の手続き等があるんで、残り時間は約2時間。ピンチなんだよ」
「時間が、ないにゃぁ……。『戦場空間』を出してる間は時間が止まるき、出して少し休むぜよっ」
「おいやめろ! 『そしたら大変なことになるかもしれんぜよ』って、アンタが言ったんでしょうがっ!」

 あの空間が発生している間は外の時が止まる(停止する範囲は、その星限定。ただし、力のある者は星内に居ても動ける)という仕組みがあるため、一度展開すると外の世界に悪影響がある。なので世界を――ここの場合は地球を徐々にその悪影響に慣れさせていかないと壊れてしまうから、1日数回あるであろう襲撃での展開を考慮すると、最低でも100年は自分達からの使用を控えた方がいいらしいのだ。
 一応過去に、誰かが十数万回以上展開している――すでに慣れているという可能性はあるのだけれど、慣れてなかったら人類はお仕舞いですからね。僕達は慣れていないと仮定するのであります。

「『戦場空間』は、ブブーかぁ……。ねーフュルちゃん、魔法(まほー)さんで時間をとめれなかったっけー……?」
「『無(む)の束縛(そくばく)』ってのがあるけど、それはいかんがよ。一回使うと、次元内の全生き物先生が永久に停止するきね」
「あ、そだったそだったっ。伝説の魔法(まほー)使いの魔法を創った初代さんは、『やるならド派手にやりましょう!』がモットーだったもんねー」
「そうながよ。やき師匠、所々――初代先生が知人先生に内緒で創った魔法はこんなになっちょって、これを発動したら全てが終わるがよね」

 コイツらの会話は時々、さらーっとこんなのが出てくるからおっかない。一時間前なんて、寝そうになってたせいもあるのだが、
『ワシらの星と、この星以外滅ぼすぜよー。そしたら母先生も安心やきね!』
 って仰った。
 勇者魔法使いさん。そんなことしたら、悪くない生き物まで滅んじゃうでしょ。

「にゅむ、これもブブーなら……。このお家には吸うと即死しちゃう瘴気(しょーき)が漂ってるから、来ないでー! はどーだろー?」
「レミアちゃん。そんな家から連絡してる俺って、なんなの?」

 地球で最強の生き物じゃないか。いやまぁ、すでに最強の生き物になってるんだけどさ。

「っ! 脱藩するとメールを送るのはどうぜよ!」
「こら龍馬オタク。んなの送ってどうすんだよ」

 母さんなら、『お母さんもする~。わーい脱藩~』とか返信してくるぞ。これ、今迄で一番しょーもない。

「にゅむー、にゅむむむむ……。にゅむむむ…………。にゅむむむむむむむむむ……………………っっ! ゆーせー君のママさんは、催眠術が得意だったよね?」
「そうだよ。それがなに?」
「ママさんに催眠術をかけて、パパさんのトコにUターンしてもらえばいーんだよっ。どーかなどーかなっ?」
「いいね。ナイスアイディア」

 ただ。

「ただね。この中で、催眠術をかけられる人いる?」
「……にゅむ……」
「師匠っ。精神を崩壊させる魔法なら、使えるぜよ!」

 だよね。やっぱりそんな人間はいない。

「師匠っ。精神を崩壊させる魔法なら、使えるぜよ!」
「レミア、子孫繁栄の件を思い出して言ったんだね。ボツったが今のはよかったよ」
「ぇへぇ。褒めれたよー」

 頭をナデナデしたら、レミアちゃんはにっこりした。うんうん、この調子で頑張ろうね。

「師匠っ。子孫繁栄を崩壊させる件なら、魔法ぜよ!」
「色々混ざってるよしつこいよ! 真面目に考えてください!」

 なんだよ子孫繁栄を崩壊って。どうやったら、子孫繁栄自体を崩壊させ――

「!!!!!!!!!!!!!」

 子孫繁栄。そうだ、子孫繁栄だ!!

「にゅむっ?」「師匠?」
「なんという僥倖っ。フュルのおかげで閃いたぞ!」

 俺はすぐさまスマホを掴み、嬉々として母さんに電話する。
 これで、イケるっ。これでイケるぞ!
 プルルルル プルルルル プルルルル ガチャ
『おかけになった電話は、現在使われております。ピーッと鳴りましたら、「お母さん若いね」と言ってください。ポーッ』

 あの人、いつもブッ飛んでるなぁ。四十四歳のやることとは思えないよ。

『ポーッ』
「はぁ~。母さん、若いね」
『あらやだ~。そうでもないよ~』

 ふー、満足して頂けた。これでやっと通話できる。

「母さん、突然なんだけどさ。当分、父さんのトコにいてくれないかな?」
『??? 理由はなに?』

 さーて、いきますか。俺の作戦、スタートっ。

「実は、とある女の子と仲良くなってね。昨日今日と、家に呼んでるんだよ」
『お母さんがいたらお互い何だか気まずくて、なかなか進展しない。故に家を空けてほしいのね?』

 さすがは、孫誕生切望マザー。理解が早い。

「俺って、ずっと彼女がいなかったでしょ? このチャンスを逃したくないんだよね」
『そういう事情なら、許可しましょう。何日何ヵ月何年でも、こっちに居るわ』

 おーっしゃ! 遠ざけ作戦、大成功だ!

「どもです母さん。じゃあ切るね」
『その前に、優君に質問。恋人候補ちゃんはどんな子なの?』
「髪は金髪のツインテールで、顔は猫っぽい。服はゴスロリを愛用していて、土佐弁を使う女の子だよ」

 正面と斜め前に魔王と勇者がいるから、2人の特徴を合わせてみた。ふふんっ、ここは想定済みでございます――

「そんな人お家にいないよっ!? ゆーせー君には幽霊(ゆーれー)さんが見えてるのぉっ!?
「霊感と魔力は別物やき、ワシにも霊視はできんぜよ! 師匠は、ただの人間先生ではなかったがやね……!」

 ――ございますっていたら、2人が大きな声を出した。
 嗚呼、想定外が発生。これ、母さんに聞こえてますよね……?

『優君。今のはなあに?』

 やっぱり、聞こえてる。
 恋人候補との仲を深めようとしてる者の傍に、女子がもう一人。わたしの言い分、支離滅裂だよねぇ……。

「か、母さん違うんだ。違うんだよ。これは――」
『……お母さんが、留守の間に……。優君は、王様みたいな思考回路になったのね……』

 ぇぅ? おうさま?

『優君は好きな人が二人いて、どっちも攻略希望。プチハーレムを作りたがってるんでしょ~!』

 うわぁ、よかったぁ。ウチにもアホな子がいたよぉー。
 南国土佐から来た変わり者界の雄、万歳っっ!

「か、隠してたけどそうなんだよね。2人の相手は忙しいなー」
『ひゅーひゅー、やるじゃーん。これなら家業も安泰だね~』
「うん、そうだね。で、ではこの辺で」
『はーいはいっ。いいニュースが入ったら教えてね~』

 母さんはムフンと笑い、交信終了。途中でハプニングがあったものの、遠ざけ作戦は無事完遂となったのだった。
 注 これは、相手が弩級のアホだから成功しただけです。良い子の皆は、絶対に真似をしないでね♪
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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