エピローグ
文字数 900文字
海沿いの道に咲く、満開の桜並木。
その道を、一人の眼鏡をかけた少年が自転車で走り抜けて行く。
「うっわー!入学式当日から遅刻とか!洒落にならないじゃあないか!」
猛スピードで飛ばす彼は、腕時計を時々ちらちらと見ている。それが、いけなかった。
ふっと上げた視界で、前を歩く同じ制服姿の少年の姿を捉えた。しかし、捉えた時にはもう遅かったのである。
「え、わ!わわわわっ!!そこの人、どいてぇぇぇぇっ?!」
「え?」
彼の叫び声に少年が振り返った。
そして、
がしゃあぁぁぁぁん!!
「ぎゃあぁぁぁっ!」
「うわあぁぁぁっ?!」
豪快な衝突音と悲鳴が二つ、桜舞う青空に響き渡ったのであった。
「……っう、いたたたた……」
「だ、大丈夫ですか?!すみません!俺、今日が入学式で、なのに遅刻しそうで急いでいて……」
慌てる眼鏡の少年に、相手の少年は痛みに顔を顰めつつ笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫だよ。俺、体が頑丈なことだけがとりえだから」
「うう、本当にすみません」
自転車を止めると、眼鏡の少年はいまだ立ち上がれない少年に手を差し出す。
「ああ、ありがとう」
その手を取ると、倒れていた少年は引っ張られるままに立ち上がる。制服のズボンについた埃を払うと、眼鏡少年へと向き直った。
「もしかして、君も今日から高校一年生?」
「あ、うん。そうだけど…もしかして君も?」
問われた少年は頷く。
「へー。凄い偶然だね。あ、俺、江寺ニア。変な名前だろ?なんでも、偉大な発明家で研究者の曽祖父から貰った名前らしいんだ。当時は和製エジソンって呼ばれて結構有名だったらしいんだけどね」
「凄いじゃないか。変なことなんてないさ。良い名前だよ」
そう言って、少年は目を細め微笑んだ。
「そ、そうかな?そんなこと言われたの、初めてだよ」
密に曽祖父のことを尊敬していたニアは、嬉しくて照れくさくて頭を掻いた。
「俺は夜名トウタだ。よろしくな、ニア」
「うん、こちらこそ!よろしくね、トウタ」
笑顔で握手を交わす二人の間を、新しい季節の始まりを告げる春の風が駆け抜けて行った。
END
その道を、一人の眼鏡をかけた少年が自転車で走り抜けて行く。
「うっわー!入学式当日から遅刻とか!洒落にならないじゃあないか!」
猛スピードで飛ばす彼は、腕時計を時々ちらちらと見ている。それが、いけなかった。
ふっと上げた視界で、前を歩く同じ制服姿の少年の姿を捉えた。しかし、捉えた時にはもう遅かったのである。
「え、わ!わわわわっ!!そこの人、どいてぇぇぇぇっ?!」
「え?」
彼の叫び声に少年が振り返った。
そして、
がしゃあぁぁぁぁん!!
「ぎゃあぁぁぁっ!」
「うわあぁぁぁっ?!」
豪快な衝突音と悲鳴が二つ、桜舞う青空に響き渡ったのであった。
「……っう、いたたたた……」
「だ、大丈夫ですか?!すみません!俺、今日が入学式で、なのに遅刻しそうで急いでいて……」
慌てる眼鏡の少年に、相手の少年は痛みに顔を顰めつつ笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫だよ。俺、体が頑丈なことだけがとりえだから」
「うう、本当にすみません」
自転車を止めると、眼鏡の少年はいまだ立ち上がれない少年に手を差し出す。
「ああ、ありがとう」
その手を取ると、倒れていた少年は引っ張られるままに立ち上がる。制服のズボンについた埃を払うと、眼鏡少年へと向き直った。
「もしかして、君も今日から高校一年生?」
「あ、うん。そうだけど…もしかして君も?」
問われた少年は頷く。
「へー。凄い偶然だね。あ、俺、江寺ニア。変な名前だろ?なんでも、偉大な発明家で研究者の曽祖父から貰った名前らしいんだ。当時は和製エジソンって呼ばれて結構有名だったらしいんだけどね」
「凄いじゃないか。変なことなんてないさ。良い名前だよ」
そう言って、少年は目を細め微笑んだ。
「そ、そうかな?そんなこと言われたの、初めてだよ」
密に曽祖父のことを尊敬していたニアは、嬉しくて照れくさくて頭を掻いた。
「俺は夜名トウタだ。よろしくな、ニア」
「うん、こちらこそ!よろしくね、トウタ」
笑顔で握手を交わす二人の間を、新しい季節の始まりを告げる春の風が駆け抜けて行った。
END