第6話 馬鹿な2人

エピソード文字数 3,274文字

「出るぞ」

 彼らと別れて程なく開口一番に言った。女は口にこそしないが困惑していた。僕は説明が面倒で、大仰にため息をついた後に言った。

「人を見る目はある。一度あることは2度ある。悪人には2種類いる。信念のある惡と有象無象だ。あれは後者。信用できない。以上」

 女は疑問があっても口には出さずに二の句を待っていたが、待ちきれずに口を開いた。

「言っとくけど、あんなことは今日に限った話じゃない。今更だよ。あと、あんたはわかってないかもしれないが」

 夜の空を見上げ、小石を蹴る。時折、薄汚れた土煙を吸って咳き込む。

「あんなことなんて実はフェイクなんさ」

 僕はぴたりと足を止めた。

「あいつらのあれは、いつも私を庇っての嘘、嘘っぱち。つまり、逆なんだよ」

 夜風が静止した拍子に服の隙間を縫って体を冷やす。僕は黙って聞き入った。

「私な、実は、あんたがくる数日前に余命宣告をされたんだ。おかしいだろ、ここには医者なんていない。じゃあ、何故かって、あの二人だよ。あの大男達だ。私は、私も、魔法使いなんだ」

 振り返ると、神妙な顔で見つめ返す女がいた。

「肺病ってのは嘘さ。あんたの経歴もあって同情を買えたら何か変わらないか期待した。まあ子供騙しだけどあんたは結果的に騙されてくれた」

 僕の表情が変わらないのをみて一層表情に影を落としながら、

「とにかくっあんたには感謝してるんだよ。あいつらの演技だけじゃ乗り切れなかったからな。ルシルは魔喰いの実験場だ。私はもう最終実験として殺される手筈だった。だから、あの囚人たち、いや仲間と話して今日にも逃げる予定だった。しかし、足音と気配がしたから咄嗟に、蹂躙されてるふりをしてたってわけさ。ま、多分全部ばれてるんだろうけどな」

 自嘲気味に口だけ笑って、目線をはずす彼女に僕は、で、と続きを聞いた。

「いや、それだけだよ。私達は、もう諦めてる。多分私達の行動も思考も全て見抜かれていたから、あのタイミングであいつらが現れて、仲間がまたさらわれた。天国に」

 ゆっくりと祈る様に目を閉じる。

 そのままどこかにむけてまた歩き出したので、後を追う。

「でって感じだろう。で、も糞もない。そのままさ。私達は、いずれ必ず。そりゃまあ人間はいつか必ずそうなるわけだから、無駄な足搔きなんだろうけど。こんなところで死ぬのは誰だっていやさ」

 黙って夜道を行く僕に鬱憤を晴らすように、

「だから、私らは、どのみち今日明日でお陀仏さ。だから最後のやけくそであいつらがあんたに依頼した。あれ、バグ石っつうんだろ。通常の採掘の工程ではできない、魔法で加工された石。昔教育を受けていた頃に何かで読んだよ。通常の石の数倍の強度がある。人間業じゃない。あんたならあるいは」

 今度は先を歩いていた彼女が振り返った。

「あんたなら、一泡吹かせられるかもしれない。あの二人に、いや」

 またそのままそっぽを向いて歩きだした。

 まあいいやあ、っと伸びをするように言って、じゃあな、っと。

 どこかへ去っていく彼女は、大丈夫、私達は私達でなんとかするよ、と。

 どこか他人事のように言っていた。

 僕はその日は一睡もせずに、夜をみていた。土塊の上に寝転んでずっとあの不気味な笑顔を射殺すように見つめ続けていた。

 そうして朝が来た。

 遠間で何かが騒いだ。怪鳥がひどい声をあげて鳴いている。僕は無言でその場に駆けた。



「おっと昨日の!」

 鉱山の裏、昨日の待ち合わせ場所にいたのは、彼らと彼女と、あの大男二人。僕の前にずらりと並んでクバリがロープを握って引っ張ると、彼女が倒れる。首には輪を作ったロープが密着している。そのロープの反対には捕まえたと思しき無数の怪鳥を括り付けていた。そしてもう一本怪鳥の群れから伸びたロープをウォーケンが握っている。途中までついていき確認するか、そのまま行くところまで行くか、海側で飛び降りて泳いで帰ってくるか、どちらにしろ人間業じゃない。

「さあ、お前も観衆だ。こいつは昨日の晩、ボロ船で脱出しようとした。4人いた。他の3匹は既に始末した。後はこいつだ。こいつには特別凝ったプランを用意してある。それがこれさ」

 怪鳥がざっと二桁はいる。どれも足に縄がつけられその縄をクバリが持って手を離せば、一斉に鳥が飛び立つ。聞くまでもない。

「魔法使いは簡単には死なねえだろ。奴らの生命力は化け物だ。胴を切っても腹を刺しても、魔法で回復しちまう。上手く作用すればだがな。だが、これは、まあいい」

 実験だから、と言いたいのか。

 多分、上手く作用してもしなくても、確実に殺せる方法を模索してるわけだから、それで、首つりだ。

 鳥を適当に飛ばせて空の上で殺す。首つりなら回復のしようがない。いつかは力尽きて死ぬ、という打算の実験だ。

 奴らが、筏か何かの即席船で脱走しようとしていた彼女たちをどうやって捕まえこの状況に、などはどうでもいい。図体のわりのあの俊敏さは例え彼女に魔法があろうが、意味をなさない。抵抗すらしなかった可能性が高い。

 この世界の魔法に絶対はない。

 彼女の目が一心に何かを見ていた。何も映っている様子はない。目に映る景色以外の何かを一心にみている。祈っている。

 腹の底の見えない僕の助けなど、眼中にない。

 思った。

 あの彼女だったら、ここは、この場はどういうだろうかと。

 助けろというだろうか。助けられる保証はない。

 先刻も言ったが、僕はこいつら二人に一人で勝てる程強くはない。もしそうであるなら、とうに始末している。人一人を素手で殺すのは言うが易し。実際はかなりの長期戦と消耗戦になる。そこでこの筋肉の塊のような、体力と腕力と生命力しか取り柄のないようなでかぶつを仮に一人ずつでも相手にしていたら、救援がきたら、結果は明瞭だった。

「おい、もう離していいかよウォーケン。腕がやや疲れた」

 怪鳥の飛翔力は竜を超えるとさえ言われている。ただの噂だが、鼻毛を抜くような気軽さでクバリがそういって、

「これも主命だよ。さっさとしろ」

 そうして、彼女は空に舞い上がった。

 “馬鹿で助かった”

 僕は思った。

「やばい」

 クバリが髭をこすり、舌打ち。

「高度が高すぎるな。ウォーケン……あの馬鹿、変な提案しやがって。あいつが一緒に死んだら、あの魔喰いの女が死んだか確認ができねえ。やはりこの実験は失敗か」

 それでも眉はぴくりともしなかったが、遠間には生死の判断はつかない。それでもすぐにまあ大丈夫と、気を取り直し周囲を確認した。

 どいつもこいつも、死骸のような顔をしている。精も根も尽き果てて仲間の生死はおろか、自分の生死にすら愚鈍な興味の沸かぬ木偶。

「さあて、じゃあ唯一の観客は、っと」

 クバリの目にすぐに入ったのは——いるはずのないウォーケンの放心したような顏と、ふきっ晒しの荒れ腐った大地。そこにいた誰かがいない。代わりにそこにいた誰かの位置にウォーケンがいる。ぼうっとしていて、何が起きたのか判然としていない。

「おまえ、まさか……」

 ウォーケンも同時に空を見た。でもそこには荒れ狂う怪鳥数十羽と、首をつるされた彼女と——二本のロープしかない。それもすぐに見えなくなった。

 どちらも魔法の事は詳しくない。ただ兵長からは融通の利かない、暴れ馬とだけ。

 まさか、魔法にそんな賢しい技があるとは聞いていない。

 まさか、油断していたあの小童が、多少の怪力はあれど、逃げられないと踏んでいた、あの結局は捕まって監獄送りの知能のない囚人が。

 そして、万が一にもここの囚人を生かして逃がしたら。失敗したら。

 彼らは吼えた。

 後日。怒りに任せて彼らは島の住人を皆殺しにした。

 実験はまた新しい魔喰いと囚人が選ばれ再開した。

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登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

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