第二二話 ブラック組織の資金繰り
文字数 4,522文字
①既存事業の強化
・営業戦略、宣伝戦略の見直し★継続中【戦士】
・接客対応の一新(「売ってやる」から「おもてなし」へ)★業務完了【戦士】:売上・利益未知数
・大量仕入による仕入れ価格の圧縮★継続中【勇者・魔法使い】
・武具を製造する各工房との関係強化★継続中【勇者・魔法使い】
・各工房が投げ売りする商品を抱えるための倉庫の増強
・王国政府への武器納入指定業者になること(御用商人)★業務完了【勇者・魔法使い】:月平均1000万G売上見込み、粗利率50%超
②新規事業への挑戦
・独自商品の製造
・成人式などの季節イベントに合わせた武具販売キャンペーン
・実用性よりも価値のほうを優先した高級ブランドの創設★不明【僧侶】
・国際貿易によるまったく新しい武具の調達
・武器防具の扱い方講座を開催し、潜在顧客を獲得(学校)
いや、御用商人になったことで大量の案件が確保できて、これらは自然に為し遂げられつつあるんだよ。大量仕入にも繋がってるし、各工房に次々と商品製造を依頼していけば大いに関係も良くなっていく。王国政府からの発注が継続すればするほど、勝手に成果が上がっていってくれる分野なわけだ。
今日も2件、工房に出向いて職人さんたちとお話してきたんですが、みなさんすごく優しくしてくれるんです。ちょっと前までは、『ドリームアームズ』は倒産寸前だって知れ渡っていて、誰もちゃんと話を聞いてくれなかったのに。
すべては御用商人の指定を受けたおかげなんだけどな。
今まで王国政府には散々都合よく利用されてきたアタシらだが、今度ばかりは、ちったぁ感謝してもいいのかもな。魔王討伐に引っ張り回されたアタシらの貸しと、声一つで御用商人にしてくれた借りで、差し引きゼロといったところか。
■資産
現預金 107万G
商品 678万G
売掛金 1764万G
(プラス計 2549万G)
■負債
買掛金 692万G
借入金 5206万G
(マイナス計 5898万G)
本当は損益計算書と貸借対照表でじっくり眺めないと細かい部分が把握できないものなんだが、知りたきゃ簿記の本でも読んでくれ。経営全体を掴んで、素早く方針を選び取っていくことのほうが遥かに重要だろう。だから、お前ら用にざっくりとな。全体として儲かってるのか損してるのか、プラスとマイナスだけで理解しておいてくれればいい。
これを見ると、ちゃんと利益が出てるんだなって感じるわね。だって全体のプラスが2500万Gを越えてきてるっていうのは、成果が挙がっている何よりの証拠なんじゃない? 少し前に魔王から1000万Gを借りただけで何の動きもなかったはずなのに、しっかり数字が動いてるわ。
そういうことなんだよ。やっぱり王国政府に武器を卸し始めたのが大きいんだ。あとはもちろん店頭販売も成果が出てないわけじゃない。接客マニュアルの改善を図っているおかげか、店頭でも着実に売れ始めてる。このままいけば、いずれプラスとマイナスが逆転してくれるタイミングが来るだろう。
でも、なんかこれっておかしくありませんか? 魔王さんから1000万G借りて、もともとの私たちの手持ちが2万Gあって、合計1002万Gの現金があったはずですよね。それが今じゃ現金が107万Gしかありません……。戦士さん、肝心の現金が減っているのはどうしてなんですか?
そこがまさに、商売の難しいところなんだよ。たとえば王国政府からの命令通りに武器を卸したとしても、その場で現金を渡してくれるわけじゃない。武器を収めた分だけ月末で締めて、翌月末にまとめて支払われるという契約条件になってるんだ。ということは、最大で2ヶ月間、販売したにもかかわらず現金を手にすることができない。
黒字倒産という言葉もあるくらい、資金繰りっていうのは匙加減が難しいものなんだよ。だからその現金を補うために、普通なら銀行借入なんかをして凌ぐわけだ。だが俺らの場合、もう限界を越えて借入をしているわけでな……。これでも販売先が王国政府だから、月末で締めて翌月末には支払ってくれるからまだマシなのさ。相手によっては入金が3ヶ月先、4ヶ月先、あるいは9ヶ月先なんてケースだってあるんだぞ。その間にまかり間違って相手が倒産でもすれば、回収すらできなくなる。
いいや、違う。
文明が極度に発展し、世界中の物品が行き交うリスティア王国だからこそ、信用で成り立つ部分が大きくなっていく。
人々から信用される通貨の流通、銀行業の発展、商業法の整備、金融決済の仕組みとかが進展した結果、商品をスムーズに社会に流通させていくための工夫がこうした状況を生み出しているとも言えるな。
だいいち、100本の剣を納品したら、毎回それと同じくらいの金塊を荷車に乗せて持ち帰っているわけにはいかないだろ? 俺らのような戦闘員が運ぶならともかく、普通の商人だと無理だ。毎回護衛を付けないと、強盗に襲われたりするに違いない。それじゃ非効率な、古代の経済だよ。
そういうことだ。
大口契約は楽だし売上激増にも繋がるが、商品をおさめたあと後日になってまとめて支払われるから、資金繰りは大変だ。でも個人に一つ一つ小売りするならば、即座に現金を回収できるから、資金繰りにはだいぶ余裕ができてくれる。
だから大口契約と小売りをバランスよく、儲けを確保しつつ資金繰りも安定するあたりが大事なんだよ。
つまり今は、王国政府さんへの納品額の割合が大きすぎて、売上は上がっているはずなのに、資金繰りが厳しくなってしまっているわけですね? これからは販売のバランスを取るために、個人のお客さまへの販売にも力を入れていかなくちゃならないと……。
特に俺らの場合には銀行借入がもう見込めないから、資金繰りの安定化のためにも、小売りのほうに重きを置くべきなんだよ。御用商人になれたのは大きいが、このままでは黒字倒産という危険性もある。だから急いで目先の金を確保するために、個人客に、一気に大量販売していく方法を考えていかなきゃならないんだ。