寿能泥炭層遺跡

文字数 2,335文字

2021/03/02 18:57
 関東平野の洪積台地である、武蔵野台地・下総台地には多くの貝塚遺跡が見られますが、その中でも見沼を囲む大宮台地は、特に貝塚群が密集しています。貝塚があるという事は、その近くに魚貝類の棲む環境…即ち海洋があったという事であり、この海を「奥東京湾」と呼んでいます。貝塚から出土する貝の種類を、生物学的に分析する事によって、温暖化や塩分濃度など、縄紋時代における見沼の環境変動を考察できます(示相化石)。
2021/03/02 18:59
2021/03/02 19:00

 大宮第二公園の建設に際して、縄紋時代などの遺跡が発掘され、寿能(じゅのう)泥炭層遺跡と名付けられました。地質学には「古い物ほど下にある」という地層累重の法則がありますが、この考えに基づいて、遺跡から産出した珪藻化石を分析すると、縄紋時代前期には海水が多く、次第に淡水と混合した「汽水」が増え、中期には淡水が多くなっています。つまり、縄紋前期には奥東京湾の海が入り込んでおり、中期には海と切り離され湖沼に成ったと考察できます(縄紋中期の小海退)。また、遺跡から丸木舟が出土しており、縄紋時代の原日本人は、これに乗って海上を移動していました。見沼には「水」を中心とする文化が存在しますが、その起源は、縄紋時代の漁労までさかのぼる事ができます。そして「見沼」の歴史も、数千年前の縄紋海進を、大きな画期として開闢します。

2021/03/02 19:02
「大氷河時代であった約5万年前の更新世後期以降、埼玉に人類が住み始め、見沼地域の旧石器・先土器時代が始まりました。 ところが、約6000~7000年前の縄紋時代前期になると、急激な地球温暖化が発生し、大陸氷床が溶け、海水が膨張し、古東京湾が拡大しました。これが奥東京湾であり、渡良瀬遊水地・谷中湖のある栃木市藤岡町にまで海洋が広がっていました。奥東京湾は、荒川・河越や芝川低地にも入り込み、この海域を『古入間湾』とも呼びます。このほか、霞ヶ浦・印旛沼・手賀沼も海と繋がって『鬼怒(きぬ)』を形成しておりました。こうした東京湾の環境変動を研究した先駆者は、大森貝塚を調査した、あのモース博士とミルン教授です」
2021/03/02 19:07

「この六千年前という時代は、世界史においても重大な転機でした。遥かなるメソポタミアにて楔形文字が発明され、最古の文明と考えられているシュメール都市国家が誕生したのです。しかも『旧約聖書』に基づく、古代の太陰太陽暦であるユダヤ暦は、紀元前3761年10月…つまり約6千年前を『創世元年』に定めています。文献に記録される歴史の始まりであり、まさに世界の開闢とも認識され得る年代だったのでしょうね」

2021/03/02 19:14
「そして、オリエント神話の結晶である『ギルガメシュ叙事詩』及び『旧約聖書』には、太古に神の御怒りを(こうむ)った人類が、大洪水で絶滅の危機に瀕した…と云う箱舟説話が語られている。こうした伝説は、急激な温暖化で大陸氷床が溶解し、異常気象による水害が引き起こされた歴史を、反映しているのかも知れない…」
2021/03/02 20:40
 ところで、縄紋海進の最高潮であった6000~7000年前は、このように人類文明の黎明であり、二酸化炭素などの温室効果気体を多量に排出する産業活動は、当然ながら存在しなかった(はず)です。では何故、急激な地球温暖化が引き起こされたのでしょうか?
要因の一つとして考えられるのは、太陽の黒点数による活動の変化です。太陽表面の黒点では、フレアという爆発現象が発生するので、黒点数が多いほど、太陽は活発になり、地球に降り注ぐエネルギーの日射量が増加します。また、太陽と地球の距離が最接近した時も、気温を上昇させます。
2021/03/02 20:42
2021/03/02 20:42
 現代においては、人類の産業活動が、地球温暖化を招いていると指摘されています。私達が暮らしている埼京の都市を含め、関東平野の沖積低地を海没させてしまった縄紋海進は、現代の私達に対する警告であるとも言えます。但し、二酸化炭素を主因とする温室効果に対しては、根強い温暖化懐疑論が唱えられているほか、温暖化による急激な洪水が海洋に流れ込んだ結果、海水の深層循環が停滞し、温かい海洋深層水が湧昇しなくなり、最終的には氷河期に戻ってしまう…と云う逆説さえも主張されています。これは複雑で難解な問題ですが、人為的温暖化説の真偽を「卒業論文」のテーマとした研究なども行われているので、今後の解明に期待したいです。
2021/03/02 20:51

「逆に、黒点数が異常に減少し、太陽活動が極端に低下した歴史時代としては、17世紀のマウンダー小氷期があり、この期間にはオーロラも観測できませんでした。日欧で飢餓が発生し、特にヨーロッパでは、害虫の繁殖によって黒死病(ペスト)がパンデミックし、追い詰められた人々の心理は乱れ、いわゆる魔女狩りの横行を招いてしまいました…」

2021/03/02 21:01

 寿能泥炭層遺跡に建てられた大宮第二公園は、洪水を受け止めて水害を防止する遊水地の機能もあり、芝川第七調節池と呼ばれています。かつて奥東京湾に海没していた見沼は、現在も貯水能力を持つ「天然ダム」なんですね。弥生時代に入ると、見沼は完全に海洋と分離し、東京湾も現代の体積に縮小します(弥生の小海退)。見「沼」という地名の通り、湖沼湿地としての芝川低地が形成されたのです。第二公園の南に隣接する大宮第三公園では、往時の見沼湿地が復元されています。郷土の自然環境を再生し、多くの植物と魚類が暮らしていますが、ここも大雨の際には、洪水を防ぐ調整池として機能します。日本列島の内地(九州・四国・本州)では、縄紋文化の原日本人と、弥生文化の渡来人とが混血し、後世に至る()(江戸時代までの狭義の大和日本人)の形質が遺伝し、民族が形成されました。台地上の大宮公園・歴史民俗博物館には、縄紋~弥生時代の竪穴住居集落遺跡があります。

2021/03/03 03:08
2021/03/03 03:10
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登場人物紹介

【神霊矢口】とさみや じゅのうじょうだい アキラ

十三宮 寿能城代 顯

関東州 東京府 東京市 蒲田区


蠍座♏11月1日トパーズ

・一人称「私」

・二人称「あなた様

・地位 中級生?

・専攻 地理学(共生科学士)

・属性 

・武技 レーザー剣・自動小銃

・愛機 ステルス攻撃機ナイトホーク(誘導爆弾)


 十三宮聖の義弟、また星川初の養子。本名は「富田巌千代」で、宗教信仰者としての法号(生前戒名)が「アキラ」。東京の大森・蒲田で生まれ育ち、地理学などの探究に基づき文芸作品を創る「地球学(地理学文芸)作家」を称す。同人サークル「スライダーの会」を結成した会長であり、一心同体の校長(マネージャー)である春原あきらと共にサークルを運営。


「天主と神仏に感謝を、あなた様に幸福を…合掌」

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