第33話 試験開始

文字数 1,875文字

「ねぇ、来栖朧ってどんな人なの?」

出雲が椿に聞くと、椿はそんなことも知らないのと出雲に対して馬鹿なのと言う。出雲はごめんと言うと、椿が説明を始めた。

「来栖朧さんは、この国で一番と言われる国が設立した特別な魔法部隊の隊長にまだ三十代ながらも就任した凄い人なの! その隊長が今目の前にいるの!」

椿はその興奮を抑えられないのか、出雲に鼻息を荒くしながら説明をした。それを聞いた出雲はそんなに凄い人なのかと納得をし、それならこの会場の熱気も理解できると思った。

「私はこの魔法学校で多くのことを学びました。 友情、愛情、魔法のこと、武器の扱い方など多くのことを学び、今この瞬間の私に活かされています。 君達受験生はこの試験に合格をすれば、私のようになれる未来もあります!」

そう来栖が言い終えると、会場にいる出雲も含めた全員が湧いていた。そして、その湧きが数十秒続いた後に来栖が手を叩いて場を鎮める。

「さて、余興は終わりです。 これから試験を始めます」

来栖の試験を始めますとの言葉と共に、会場に眩い光が溢れる。出雲と椿は目を手で覆って眩しいと二人して言う。

「な、何が起きるんだ!? この光は!?」

出雲が椿を見ると、椿はまさかと言いながら目を手で覆いながら出雲の手を掴んだ。出雲は何で手を掴むのと突然握られたので驚いていると、椿がいいから握っててと口調を強めに出雲に言う。

「わ、分かった! 何か分からないけど分かった!」

出雲が椿の手を強く握り返すと、椿が艶やかな声で痛いよと小さく呟いた。その声は出雲の耳には届いておらず、強く握ったままであった。会場を眩い光が照らして数秒が経過すると、目を強く閉じていても光が目に入る程に強くなった。すると、椅子に座っていたのだが何やら草花のような匂いが香ってきた。

「花の匂い? 一体何が起きたんだ?」

出雲が目を開けると、目の中に遠くまで広がる草原が入ってきた。それは自身が何らかの魔法でこの場所に移動させられたとの事実であった。

「何でここに!? あ、椿は大丈夫!?」

手を握っていた椿の方向を見ると、地面に倒れて気絶しているようであった。出雲はその椿を見ると肩を掴んで起きてと揺さぶった。

「起きて! 起きて椿!」

何度も出雲が揺さぶると、椿は呻き声をあげて目を開けた。椿は周囲を見渡すと聞いた通りだったと頭を抱えていた。

「聞いていた通り? どういうこと?」

出雲が起きた椿に聞いてみると、椿が兄さんから聞いていた通り後期試験は実戦形式が多いみたいなのと出雲に言う。

「実践形式か……美桜は知らなかったのかな?」

そう悩むも、とりあえず周囲に何があるか見た。

「まずは足元に自身の鞄があることで、草原が綺麗で天気が良いことか。 どれだけここにいればいいんだ?」

出雲がそう悩んでいると、頭の中に壇上にいた試験監督の人の声が響いてきた。

「頭の中に声が!? 何これ凄い!」

出雲が驚いていると、椿がちょっと黙ってと出雲の唇に右手の人差し指を置いた。

「受験生の皆さんは突然のことに驚いていると思います。 しかし、これこそが今回の試験でもあります。 まずその場所は特定地域となっており、小型の魔物が多数生息しています」

魔物が生息と聞いて出雲は生唾を飲み込んだ。出雲が真剣に聞いていると、説明が続けて行われる。

「その場所で指示された時間まで生き延びた人達の中でこちらの加点対象の動きをした人達、上位五名を合格とします」

そう言われた出雲と椿はそんなテストなのかと驚き、すぐにこの場所から動かなくてはと思った。

「では、試験を開始します。 今夜十七時まで死なないように気を付けてください」

死なないようにとの言葉を受けた出雲はどれほど危険なテストなんだと冷や汗をかく。そんなことを考えていると、椿がいつまで手を握っているのよと出雲の右足の脛を蹴った。

「あ、ごめん。 抱き起こすときに握ってた……」

出雲の言葉を聞いて、椿はでも会場で手に握ってて良かったでしょと出雲に言う。

「そういや、どうして俺の手をあそこで握ったの?」

椿は出雲の質問に苦笑しつつも、あの光が出た瞬間に移動させられると思ったから知ってる人の出雲との方が動きやすいと思ってと言う。

「手を握っていれば一緒に移動させられると思ってね。 光で溢れた時に移動させられると思ったからバラバラにならないように手を握ったのよ」

椿の言葉を聞いて出雲はなるほどと納得した。
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