プロット

文字数 2,101文字

起:
 人を笑わせることが大好きな小六男子・尾張桃也は、ある日同じクラスの瀬見太市に「ネーミングセンス、ある? バスケットモンスター略してバケモンとか、そういう感じのおもしろいやつ。名前をつけたいんだよね」と聞かれる。何に名前をつけたいのかよくわからないままに「いいけど」というと、「じゃあ、よろしく」といわれ、その日の会話は終了する。
 瀬見はクラスで一番の無口で、何を考えているのかわからない謎なやつだった。笑っているところを見たことがないし、しゃべり方ものぺっとしていて抑揚がない。あまり話したこともないのに、どういうつもりなんだと疑問符を浮かべる尾張。家に帰ってから、テレビで「セミの最期の悪あがき。セミファイナル特集」を見て、瀬見からの宿題は完了。
 次の日、瀬見に考えてきたものを伝えると、「【セミファイナル】か、いいね。じゃあそれにしようか。ふたりのコンビ名」「はッ?」「このあいだ、将来芸人になりたいっていってたよね。おれもなりたかったから、ちょうどいい」「どんな理屈だよ! おれ、お前にちょうどよくフィットしてるつもりないんだがッ? おれはお前の抱き枕か」「さすが。ちょうどいいスピードのツッコミだね」こいつ、こんなにグイグイくるやつだった? と戸惑う尾張。「まだ友達として遊んだこともないのに、コンビなんてむりじゃねッ?」「じゃあ、今日家に帰ったあと、いっしょに市民会館に行こうよ」
 そんなつまんないところに遊びに行って何が楽しいんだよ……。そう思いながらも仏頂面のわりに遠慮のない瀬見に、尾張は仕方なくオーケーをした。

承:
 市民会館では有名芸人によるお笑いライブが行われていた。瀬見にチケットを渡され、流されるままに見ることになった尾張。
 しかし、プロ芸人のライブは終始笑いっぱなしで「やっぱり、芸人になりたい」という思いを強くすることになる。帰り道、公園を見て瀬見が「ここで路上ライブやろうよ」といいだす。「ネタも台本もギャグすらないのに、なにいってんだよ!」「トーヤ、アドリブうまいじゃん。大丈夫だよ」「いや、いつから呼び捨てッ?」
 また瀬見ののらりくらりとしたノリに乗せられ、ノー練習で公園ライブを敢行することになってしまう。すると、ふだんは寡黙な瀬見が、漫才がはじまったとたん人が変わったようにすらすらとしゃべりだした。そのギャップに、尾張は驚きつつも「こいつ、おもろー!」と、どんどんテンションがあがっていく。
 子どもたちといっしょに盛り上がっていると、それを見ていた近所のおばあさんに「ちょっと来て」と連れていかれる。老人ホームに引っぱられていった二人はおばあさんに「催し物をしてくれる芸人さんが、急きょ来られなくなっちゃってね。困ってたのよ」。
 ええいままよ、とさっきのノリのままに漫才を敢行し、「おもしろかったぞ、ボーヤたち!」「孫を見ているようでほっこりしたわ」とたくさんの拍手をもらうことができた。
 その後、何度かお互いの家で漫才のことを語りあい、瀬見とのコンビに手ごたえを感じはじめていく尾張。
 だが「瀬見くんってけっこうイケメンじゃない?」「なんだか最近よく笑うようになったよね。しかも、ぼそっという一言がおもしろいの!」と、周りで瀬見ばかりが評価されるようになり、尾張はじょじょにすねはじめてしまう。

転:
 「来月の銀小祭でお笑いライブをしようよ。舞台を乗っ取ってさ」といい出した瀬見。しかし瀬見への小さな嫉妬から「やだ」とつっぱねてしまう尾張。
 瀬見と口を聞かない日々が続くなか、別のクラスの鎌田が「おれ、五年生のころに、瀬見とお笑いコンビを組んでたんだよ」と明かす。「組んでたのは一ヶ月程度だったけどさ。大変だったよ。あいつ、お笑いに全力すぎるだろ。ツッコミのスピードにはうるさいし、台本の役になりきるときも、もっとのめりこめってムチャいうし」
 そこで尾張は、瀬見が誰よりもお笑いに対して真剣だったことを知る。「今はもう、瀬見の相方はおれだから! 俺たちがプロの芸人になって、漫才グランプリで一千万もらっても、ぶつぶつ文句いうなよ!」尾張は瀬見に、お笑いライブをしようと告げる。
 しかし気づけば、銀小祭はもう明日と迫っていた。

結:
 その後、なんやかんやで意気投合した鎌田と協力し、銀小祭の舞台乗っ取り計画を実行。しかし漫才の練習は何もできていない。尾張は瀬見に渡された漫才の台本を読み、驚く。
 それはぺらっとした一枚の紙きれ。漫才の流れだけが書いてある台本で、一番重要なボケもツッコミも何も書かれていない。「いくらやるって決めたのが昨日だからってさー!」「おれたちの漫才は、アドリブでこそ輝くと思うんだ。おれはこの台本が、今日の最善の台本だと思う」
 鎌田が舞台に飛び出していく。突然のお笑いライブの司会乱入に、会場はポカンとしている。二人はその場のアドリブでどんどんと会場を盛り上げていく。最後には台本そっちのけで、会場を大いに笑わせた。先生が止めに入ったことも笑いに変え、舞台は大成功。
 先生にこっぴどく叱られたが、コンビとしての絆は一層深まったのだった。
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