第3話 第一章 『墜落者』② 折れた翼
文字数 933文字
スキー板を滑らせながらそこに向かった晃子は、その手前で突然、踊るように急ブレーキを掛けて止まった。全ての躍動は停止し、身体は硬直していた。ただその視線だけが、折れて変形したグライダーを凝視していた。
その黒い翼が、周りの雪の白さと強いコントラストを見せていた。が、それが何であるか晃子の頭脳は直ぐには認めることを躊躇していた。
それから無意識のまま一歩踏み出そうとして、スキー板を交差させ危うく転びそうになった。板をまだ付けていることさえ忘れていた。
・・上空から墜落した人物は、辺りの色合いに溶け込むような薄い夏服を纏っただけの姿で、冷たい雪の上に倒れていた。
裸足のままのきれいな脚がその柔らかそうな衣から伸び、変形した翼の下から眠っているように目を閉じた若者の顔が覗いていた。
曇り空の下でさえ輝くような髪が、その美しい横顔を縁取っている。
そんな全てが美しい肢体の中に一ヵ所、目を背けたくなるような部分があった。折れた翼の根元から血が滲み、白い雪を汚していた。
そのコウモリような黒い翼は、男の剥き出しの背中から直接広がっている。
その時、上空を覆っていた厚い雲の合間から光が差し込み、瞬く間にそれまでのどんよりとした色合いが消え去り、辺りは輝くような陽光で溢れた。
魔法に架けられ、長い間眠っていたその空間が目を覚ましたかのように・・。
しばらくの間、そんな異形の姿を象った野外展示物に釘付けになっていた晃子は・・ふと冷静な面持ちで顔を上げ、静かに辺りを見回した。
(・・コスプレ・・?・・ドッキリ?)
・・どこにもカメラは見えない・・。
それから意を決したようにスキー板を外すと、直ぐ近くまで寄った。が、手にしたストックを握る手には自然に力がこもる。
裸足のまま気を失って横たわる姿に、なんら威嚇的なものは感じられない。目を閉じたままのその横顔には、恐ろしげなものはない・・。
深い森の奥、空気はあくまでも澄み清浄な気が漲っている。そこに邪悪なものは何もない。ただ、魅惑的な神秘の午后の情景以外は・・。
ただそれは、晃子自身の感覚でそう感じたものなのか・・或いは既にその時、雪深い森の空間は・・異形の翼の持ち主に支配されていたからなのか・・。
その黒い翼が、周りの雪の白さと強いコントラストを見せていた。が、それが何であるか晃子の頭脳は直ぐには認めることを躊躇していた。
それから無意識のまま一歩踏み出そうとして、スキー板を交差させ危うく転びそうになった。板をまだ付けていることさえ忘れていた。
・・上空から墜落した人物は、辺りの色合いに溶け込むような薄い夏服を纏っただけの姿で、冷たい雪の上に倒れていた。
裸足のままのきれいな脚がその柔らかそうな衣から伸び、変形した翼の下から眠っているように目を閉じた若者の顔が覗いていた。
曇り空の下でさえ輝くような髪が、その美しい横顔を縁取っている。
そんな全てが美しい肢体の中に一ヵ所、目を背けたくなるような部分があった。折れた翼の根元から血が滲み、白い雪を汚していた。
そのコウモリような黒い翼は、男の剥き出しの背中から直接広がっている。
その時、上空を覆っていた厚い雲の合間から光が差し込み、瞬く間にそれまでのどんよりとした色合いが消え去り、辺りは輝くような陽光で溢れた。
魔法に架けられ、長い間眠っていたその空間が目を覚ましたかのように・・。
しばらくの間、そんな異形の姿を象った野外展示物に釘付けになっていた晃子は・・ふと冷静な面持ちで顔を上げ、静かに辺りを見回した。
(・・コスプレ・・?・・ドッキリ?)
・・どこにもカメラは見えない・・。
それから意を決したようにスキー板を外すと、直ぐ近くまで寄った。が、手にしたストックを握る手には自然に力がこもる。
裸足のまま気を失って横たわる姿に、なんら威嚇的なものは感じられない。目を閉じたままのその横顔には、恐ろしげなものはない・・。
深い森の奥、空気はあくまでも澄み清浄な気が漲っている。そこに邪悪なものは何もない。ただ、魅惑的な神秘の午后の情景以外は・・。
ただそれは、晃子自身の感覚でそう感じたものなのか・・或いは既にその時、雪深い森の空間は・・異形の翼の持ち主に支配されていたからなのか・・。