すれ違う思い

文字数 3,660文字

ワタクシの懸案はいよいよJITBOXの発送の段取りや荷物の梱包などとなっていった。2回のリハーサルで得た力はその準備を推し進めてくれるはずであった。
え、はず?
さふなり。そうはいかなかった。荷物は多くて流石の収容力のJITBOXでも不安になる体積であった。なんらかの圧縮が必要だ。しかし通常の段ボール箱詰めでは限界になる。
段ボール箱、案外大きさが不揃いですものねえ。
なおかつ使っていた市販の工具コンテナが無駄な体積を消費するのがすでに見えていた。箱型ではなく強度を出すための無駄なテーパーや突出部などが多い。
案外気が利かないんですよね、あれ。
ゆえ、著者の実家に箱の作成をまた頼むしかないとの結論に達した。
ええっ、著者さんとその実家って色々とそりが合わないんじゃない?大丈夫?
ワタクシもそれを危惧した。すでに大洗駅のケースでも揉めたからのう。
でも著者さんに対してそのご実家は一貫して冷たいというわけでもなさそうですわ。むしろ一部では過保護であるようにも思います。そうしながら時折突然冷たくなるように拝見してましたわ。
詩音くんの見立てはさすがなり。さふなり。もともとうちの著者の実家は愛がないわけではない。むしろ愛に溢れておる。だが、その愛に共感が伴わないのだ。それが最大の問題なり。
何故そうなんでしょう? 共感することと愛ってすごく近いもののように思えますが。
それは著者のプライバシーに関わるので詳しくは述べられぬのだが、著者の実家であった様々な幾星霜がそういったすれ違いを作ってしもうたのであろう。
悲しいですね……。
健全でありふれた家族などこの地上にほぼ存在しない。それは無慈悲な統計と想像力のたりないフィクションの中にしか存在せぬのだ。多かれ少なかれどの家庭も歪んでおるのが普通である。だからどうということはないのだ。
でも苦しんでましたよね、著者さん。
軟弱だからいかんのだ。40歳超えて斯様な問題に苦しむとは。いくらココロも体もままならぬとはいえ、軟弱がスギル。
ともあれここまで輸送専用箱を作ってもらったのだから実家に感謝せよ、著者。これなくして今回の輸送作戦はあり得なかったのだ。
すごい、ぴったり綺麗な大きさの箱!
専用箱はやはり最強であるのだ。
ええっ、でもこれ、パークタワー模型じゃない! 展示間近にこんなにしちゃって! まさか、大規模修繕するの!? ヒドイッ!
著者が作ったこのパークタワー、実家は「見ていてイライラする」と言い出したのである。
ご実家はプロの工芸工房ですから仕方ないのかもしれませんわね。
でも著者さんだって手抜きしたわけじゃないのに……。
そこが圧倒的なスキルの差であろう。工作の経験値がどうやっても違うからのう。
でも著者さん、それだと傷つきますよね。もうちょっと別の言い方はなかったのかなあ。
ないからそうなのだ。自分が苛立ちの元しか作れない、作ったものが苛立つものだと思えば確かに悲しいであろう。しかし事実そうなのだ。それでも作るなんて耐えられないだろう。何も作らなければ苛立たせることもない。
そんな……。
でも作ってしまうのだ。作らざるを得ないのだ。だから実家はそれをわかってそう言うのだ。かといって傷つかないわけではない。しかしそれに全く気づかない。それが著者と実家のすれ違いなのだ。
たぶん、これはずっとそうなんでしょうね。
さふであろう。こういうものは解決することなどない。ひたすら仕方のないことだ。増して著者が傷つく以上に実家は著者によって傷つけられることに敏感ときている。
だからすれ違いなんですね。
ゆえ、著者がひたすら達観して耐えるしかないのだ。もうこれはどうやっても解決はせぬからの。解決を諦めて耐えるか、耐えるのをやめるか、そのどちらかしかない。
耐えるのをやめるって……無理じゃないですか。
ひとつだけやめる方法はある。あまりにも悲惨な結果になるのは必定の。
それは……回避して欲しいですよね。
実は著者は具体的にそれを考えておったのだ。ゆえ、この出展を最後と考えておった。
ええっ、そんな!
それがどうなるかはともかく、七転八倒したのち、著者は実家にパークタワーの修繕を依頼した。
間に合うんですか、こんなギリギリで。
実家もヨミ違えたのだ。このパークタワーの仕上げが甘いのはサボったからではない。やりようがなかったのだ。このサイズでベニヤ板を手でカットするのがいかに困難か。その狂いを直していたらどれだけ時間がかかるか。
ということは、2016年の初出展のときはその狂いをキワキワでだましだまししながら展示していたのですね。
さふなり。隙間が見えているとはいえ、それを全て埋める技術以前に時間もマンパワーも不足していたのだ。
じゃあご実家は……。
3日で直すはずが、1週間以上かかったのである。
ひいい、ギリギリでヒドイッ!
しかし実家もそれで著者の苦悩を少し理解したのかもしれないと思えばこれで良かったのかもしれぬ。
でも著者さん、苦しいままだよー。
実家さんも苦しいのかもしれませんね。悲しいすれ違いに思えます。
どうしてそうなったのか、ワタクシは著者の愚痴を聞いていてわかったのだが、それは我が胸中に秘しておくのだ。
そうですよね。秘すしかないですよね。
ちなみにこの大規模修繕のために著者は実家に重たいLEDプリンタを持ち込んでパターンシートの供給を行った。思いの外この建物は面が多くまたパターンも複雑で、しばしばパターンシートが不足した。その度にLEDプリンタで印刷して補充した。
しかし実家は工芸工房、蒔絵の塗りの箱のようなものを作ったりする家である。ただの修繕では終わらせぬのだ。
すごい、ツヤツヤ……!
しかもパターンの縦横が全部綺麗にあってるー!
丹下健三建築の難しいところを上手く再現しましたね。
仕上がりが楽しみです!
夕日を受けて超高層のキラリと反射する外壁……モダンな都市風景で大変美味しくなりそうですわ!
あー、詩音ちゃんがまた妄想はかどらせてるー!
な、何やってんの御波ちゃん。
え、ここは詩音ちゃんの胸で充電するところかなー、って。
もう! 充電しすぎ! だいたい変態じゃない。変態禁止ー! ヒドイッ!
御波くん、充電は節度を持ってされたいのである。
総裁にそういう節度を言われるとは思わなかったわー!
御波くん、ワタクシは
じょじょ、冗談ですー!
うむ、ワタクシは嘘は嫌いだが冗談は理解するのだぞ。
はー、ビックリした。総裁、時々真顔で冗談言うもんなー。
衝突防止灯、電飾を一部復旧させたところである。
豪華だなー。
だがこの電飾は断線により幻となった。修繕でパターンを貼るときにエッジを効かせようとポリウレタン線に無理な力をかけたため、ことごとく断線したのだ。
それも仕方がないですわねえ。
別人にやってもらうということはそういうことであるからの。それにもともと無理な配線法でもあった。建物外壁をポリウレタン線を這わせるのはやはり破損しやすい。それゆえ、それを建物内から配線することに訂正したのは当然である。
そしてこうなった。
もともとコピー用紙にしか印刷できないパターンですもの。コピー用紙はコシもないし貼り付け時に伸びもない。それをこのように自在に貼るのは難易度がとんでもなく高いですわ。
そこはやはりプロの技であろうのう。
すごい迫力ー。
実際のパークタワーよりも18階ほど高いのがこの修繕によるパターン整理で判明したのだが、まあそれはそれで良いということとした。しかしこれは作業のために電装を全て解除した姿である。電装はこれを著者宅に持ち帰って実施することとなった。
すごーいー。
そしてこれが電飾の電装を復旧した朝の姿である。
光沢が電飾も相まって独特の迫力ですわ。
でもこれで間に合いましたね!
さふなり。これでほぼ全ての準備品は整った。あとはJITBOXの発送である。BOXへの格納はいつもの3Dデザインソフトshadeでシミュレーションを行った。ミスがなければぴったり収まるはずである。
JITBOXの集荷トラックがやってきた。やや大きめであったがなんとか入れたぞ。
荷物の積み込みである!
おおー、ぴったりだ!
計算通りであった!
そして全て搭載してこの状態である!
結構いっぱい入ったねー。
トラックへの積載である。
運ばれていきますね……。
もはやちょっとした引っ越しレベル……ヒドイッ!
そしてトラックはたった16分で荷役を終えて発進していった。
その直後に土砂降りのゲリラ雷雨であった。
ええっ、じゃあ、少し遅れてたら雷雨の中でやることになってたの?!
幸運すぎてヒドイッ!
ワタクシはここで息を吐いた。あとは設営と展示である。もうほとんどの荷物は発送してしまったのでできることは少ない。そう思ったのだ。
え、「思ったのだ」ってことは、まだあるんですか?
その通りなのだ!
えええええっ!!
発送から搬入日まで中2日あった。その間もまだ作業があったのだ!
何やってたんですか、ヒドイッ!
それについては、続く! いよいよ怒涛の10日間が始まるのだ!
まだ続きます!
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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