第74話 ユニバーサル・ジェンダー党 の公約:2023年12月

文字数 3,503文字

(ユニバーサル・ジェンダー党の公約が発表された)

2023年12月。東京。ユニバーサル・ジェンダー党オフィス。

ユニバーサル・ジェンダー党の公約が発表された。概要は以下である。

[前文]

ユニバーサル・ジェンダー党は、日本経済の停滞の原因は、ジェンダー差別を始めとした人権侵害によって、能力のある人、特に、女性が有効に活用されていないためであると考えます。ユニバーサル・ジェンダー党は、ユニバーサル・ジェンダー計画の活動に協力して、ジェンダー差別を取り除き、人権侵害のない社会を築くことを目指します。

[政策公約]

2023年12月の選挙公約は以下です。

政治活動のリソースを集中するために、ユニバーサル・ジェンダー党は、人権侵害対策を最優先に活動します。環境問題や産業振興問題にも、人権侵害問題と関係した問題があり、人権侵害問題の解消によって、同時に解決出来る問題もあります。

1.人権侵害対策
性別・年齢差別の撤廃
ジョブ型雇用への完全切り替え
ベーシックインカム法案
ベーシックインカム法案への出産・育児加算条項
企業採用職員・公務員採用職員・大学入学定員・企業役員への女性優先枠の実現
性犯罪問題に対応する加害者と証言者以外は、全て女性からなる女性裁判所の実現

2.環境問題
カーボーンフリー社会実現のためのロードマップの作成
………

3.産業振興問題
………


以上。

[質問と答]


Q:大学の女性の授業料は政府が補助しないのでしょうか。
A:ユニバーサル・ジェンダー計画は、社会を変えることを目標としています。全てを、政府が行うのではなく、社会も変えていく必要があります。各大学が、女性の授業料のサポートを拡大すれば、それは、ジェンダー・エクイティ・レポートに反映され、社会的な評価を受けます。今までの予算中心の発想では、税負担が増えただけで、高い効果は、見込めません。発想の転換が必要と考えます。

Q:ジョブ型雇用への完全な切り替えは出来るのでしょうか。
A:これは、難題です。成功している例は、ほとんどありません。
具体的な方法は、まだ、わかりません。
しかし、社会意識の切り替えには、着手できます。
今の年功型組織では、トップは、上のポストまで上り詰めた一番の年寄りです。そして、多くの場合、選抜レースを生き残って、自分はグレートだと思うわけです。数年前、世界スポーツ委員会の高齢のトップの方が、女性差別発言をして、国際的に非難を浴びて辞職に追い込まれたことがあります。この場合には、失言が直接のきっかけになりました。年功型組織を、ジョブ型組織に切り替えるのであれば、その権限を持っているのは年功型組織のトップの人です。その人は、ジョブ型組織への切り替えを断行しないのであれば、失言がなくても、その行動は女性差別になります。私たちは、声を上げて、こうした意識改革を進めることができます。
具体的な方法は、今後も、引き続き検討を進めますが、まずは、今の年功型雇用は、差別があり、人権問題を抱えているという、意識改革から始めましょう。

Q:ジョブ型雇用はどうして重要なのでしょうか
A:歴史にイフはありませんが、2000年以降の労働者派遣法の改訂は、まともな労働市場を生み出していません。つまり、ジェンダー問題を解決していません。ジョブ型雇用が出来ていれば、労働者派遣法はいらないはずです。2000年代に、労働者派遣法の改訂ではなく、ジョブ型雇用が実現していれば、出産後も働け、ジェンダー問題の解決が進み、少子化に歯止めがかかり、失われた30年にはならなかったでしょう。問題は、健全な労働市場です。

健全な労働市場を作らずに若年搾取を繰り返した結果、大学では、理系の優秀な学生は、医学部に流れてしまいした。技術系では、インドの優秀な大学を卒業した人の方が、日本のトップ大学の卒業生より、高い給与が得られるからです。このため医学部を除く、日本の技術系学科のレベルは20年間で、絶望的に下がっています。世界の大学ランキングで、日本の大学のランキングが下がった理由に、人の問題を度外視して、研究費ばかりが取り上げられますが、人のレベルが落ちた以上、研究費ではカバーできないと思われます。コロナウイルスのワクチンを独自に国内生産できなかったこと、コロナ対策のスマホアプリがつくれなかったことを見れば、レベルの低下は目を覆うばかりです。

新卒一括採用、初任給が同じというのは、労働市場ではありません。ジョブ型雇用で、能力に合わせて、給与が支払われれば、誰でも努力するモチベーションが上がります。人のレベルが落ちたというのは、テストの点数の事ではありません。継続して努力する人が少なくなったということです。

Q:ジョブ型雇用と年功型雇用の間に関係はあるのでしょうか
A:それは、大変良い質問です。今までは、この2つの雇用形態は、並列に、共存しているという前提で、政策がなされてきました。労働者派遣法は、その前提で作られています。しかし、この前提は誤りと思われます。それは、正常な労働市場が形成されていないからです。資本主義では、市場は需要と供給のバランスをとります。これが、資本主義のダイナミックスです。つまり、供給量、あるいは、生産量は、価格が上がると増加し、価格の上昇を抑える方向に働きます。労働市場ができていれば、派遣の時給は、正社員の時給より高くなります。そうなっていないので、日本では、労働市場が機能していません。年功型雇用は、男性の正社員を優遇する一種の身分制度で、人権侵害がまかり通っています。さらに、年功型雇用はIT化に対して、破壊的な効果があります。
最近、年功型雇用をしている企業で、新規採用社員がジョブ型雇用を選択出来る例があります。この場合、新規採用社員には、年功型雇用を選択するメリットはありません。年功型雇用の給与は、ジョブ型雇用の給与の半分です。その差額は、高齢者の管理職によって搾取されています。新規採用社員の半分がジョブ型に移行すると、長期的には、搾取出来る部分が半分になりますから、高齢の管理職の給与は半分の値に収束します。これは、ジョブ型雇用と年功型雇用を併用している企業で、新規採用時に、年功型雇用を選択すると、若年の時には、搾取され、逆に、リターンを受け取るはずの高齢に自分がなったときには、搾取する対象の若年の年功型雇用社員がいなくなって、リターンを受け取れないことを意味します。したがって、2つの雇用形態の併用はあり得ません。併用を掲げることで利益を得るのは、現在、リターンをもらっている高齢の管理職だけです。併用すれば、時間稼ぎができ、退職までに給与が減りません。この点で、併用は、モラル上の大きな問題を抱えています。

Q:人生100年計画と公約には関係がありますか。
A:人生100年計画はジョブ型雇用が、前提です。学びを繰り返して、その結果を反映した新しい仕事に就くことが出来る社会を作らねばなりません。転職が当たり前な社会、つまり、正常な労働市場がある社会を作らなければ、人生100年計画は、実現できません。


Q:年功型雇用は日本の高度経済成長を支えた、とも言われています。本当に、問題があるのでしょうか。

A:日本の企業は、敗戦で、1950年頃からスタートします。1980年頃までの退職年齢は、55歳です。22歳で大学を卒業すると、33年働くことになります。大まかに言えば、22年が平社員で、11年が管理職といったバランスです。管理職は、現場を離れて最大で11年経ちますが、技術変化が遅かったので、問題が出ませんでした。1980年の男性の平均寿命は73歳です。現在は、退職年齢が伸びて、管理職のトップは70歳になりました。年功型雇用とひとくくりにできないほど内容が変質しています。
あるいは、生態学的な解釈の方がわかりやすいかもしれません。年功制雇用は、戦時中に導入され、戦後も引き継がれますが、それは、遷移生態系としての年功型雇用です。戦後は、戦死者も多く、戦後生まれの若年層の数が多かったピラミッド型の年齢構成でした。また、GHQによって、戦前の有力者が公職追放されてもいました。つまり、多様な雇用システムが混在する遷移生態系としての年功型雇用であったわけです。これが、すべての被雇用者が戦後生まれとなるころには、極相としての年功型雇用に変わります。20歳で働き始め、55歳で定年とすると、戦後が1945ですから、その時期は2000年になります。つまり、今世紀の年功型雇用と前世紀の年功型雇用は異なった遷移フェーズになります。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み