4-2. 口が達者な子って実際こわい
文字数 3,941文字
ル=ウの〝命令〟によって、伊織介は椅子に座った姿勢で固定され、上擦った声で悲鳴と文句を叫び続けることしか出来ない。
「は? そう簡単に出るものではない、ですって? 冗談ですこと、ずばっと出してさっさと
「フラン……君というやつは、本当に男性というものを知らないんだね……」
「尻ばっかり弄ってる癖に、モノの弄り方は知らないんだな。この
フランは
「わたしに任せろ。勃起と吐精の
「い、痛い! 痛いですルウ!」
「あ、あれ、おかしいな……? いつもなら擦っているだけで勃ってくるのだが」
「奴隷の世話も満足に出来ないなんて、とんだ主人ですのね! 全くもってお笑い草ですわ! やーいやーい」
ル=ウは頭でっかちの
――断っておくが、彼女たちは伊織介自身の身体には一切触れていない。切り離された男性器が、魔女たちの手の中で代るがわる弄くられているだけである。
「魔女の癖に男も知らないだなんて、仕方がないなぁ、君たちは。フランはともかくル=ウまでそんな体たらくだなんて」
「
「馬鹿! わたしのイオリのモノをそんな汚い穴に挿れるんじゃない!」
「汚いだなんて失礼ですわね! 毎朝毎晩綺麗に掃除してますのよ!」
「はいはい分かったから。さっさとボクが採集しちゃうからねー」
結局、最期はリズの
「ボクに
くすくすと、そう言ってリズは悪戯っぽく嗤う。
とにかく無事に処置は終わり、〝価値ある代償〟は
* * *
「泣くなって、イオリ。この事はわたし達だけの秘密にするから」
流石に可哀想になったのか、ル=ウが背中をさする。伊織介は、椅子の上で器用に膝を抱えてすすり泣いていた。
「そうですわイオリノスケさん! どうせ肉棒は身体から切り離されている訳ですし、これは姦淫には含まれませんわ!」
「それはすごい理屈じゃないかな、フラン。その線を敷衍するならば、いくら本番してもイオリノスケくんは童貞を維持できるのでは?」
「そ……それならば、ちょっとだけ、味見をさせて頂けますかしら!? 先っぽだけ、先っぽだけですわ!」
フランは昂奮した口調で、リズは意地の悪い笑みを浮かべて、それぞれに喚いている。
「騒ぐな痴女ども。とにかく支払いは為された。さっと仕事しろ、フラン。早くしないと尻の毛を燃やすぞ」
焦れたル=ウが、机を叩いて水を差す。少しだけ、機嫌が悪そうだった。
「生えてませんわ!?」
「嘘だね。ボクはフランがけっこう毛深いことは確認してるよ」
「ひっ、卑怯者! リズ、それは魔術の悪用ですわ! いつの間に見ていましたの!?」
「……語るに落ちたね。カマをかけただけさ、フラン」
「なっ……! ぐっ、ぐううううう! 何も言い返せません、悔しいですわ悔しいですわ!
「ボクはそんなもの生えてないよ」
「ええい黙れ色情魔ども! リズもフランで遊ぶな、収集がつかなくなるだろ!」
ル=ウがばんばんと机を叩くが、なかなか論争は収まりそうになかった。
* * *
「さぁて、まずは敵さんにこちらのやる気を見せつけんとな。
姦しい士官室での騒ぎを余所に、既に甲板上には戦場の空気が張り詰めている。
「ミズン、ラティーンスル、トプスル絞れ」
リチャードソンが叫ぶと、
「
操舵手が梶棒を右舷側に倒し、艦首がゆっくりと風下側に向き始める。甲板の水夫たちが力を合わせて
「フォア絞れ――フォアヤード、入れ――フォアヤード一杯!」
右舷開きだった帆は、今や全て左舷開きに切り替わった。今度は南西からの風を左舷真横から受けながら、メリメント号は北西方向に艦首を向けて
左舷からじりじりと距離を積める敵のピンネースに、メリメント号は左舷七門の砲を向けた形になった。
「これで良しであるな。さぁ、迎撃の構えは出来た。各員、奮起せよ! メリメント号の実力、刻み込んでやろうではないか!」
リチャードソンの檄に、水夫達が吼えて応える。甲板上は熱狂に包まれた。
「さて――お次は、魔女殿の出番であるな。お手並み拝見である」
誰にともなく、リチャードソンは呟いた。
* * *
「では――」
木皿に溜められた
「……〝あなたのしもべの祈りと願いに御顔を向けてください。私の神、主よ。あなたのしもべが、きょう、御前にささげる叫びと祈りを聞いてください〟……」
恭しく頭を垂れて、フランは祈りの言葉を囁く。
「……〝あなたのしもべがこの所に向かってささげる祈りを聞いてください〟……」
十字架に付いた巨大な眼球が、ぎょろぎょろと激しく動いた。すると、突然木皿が燃えがったように煙を上げる。次の瞬間には、木皿に注がれていた伊織介の精液は消失していた――
「……〝あなたご自身が、あなたのお住まいになる所、天にいまして、これを聞いてください。聞いて、お赦しください〟……」
そのおどろおどろしい様は、どこからどう見ても
「うわすごく気持ち悪いですね」
思わず伊織介が正直な感想を呟く。もう涙は出尽くした。今はただ、己の精液があの邪悪な十字架に吸い取られたようで、心の底から気味が悪い。
「こいつ、こんなんだから破
「本当に
ル=ウとリズもうんうんと頷いた。
「ちょっと黙ってて下さいまし! 今は
そんな
「いやこれっぽっちもお前の尻の話はしていないんだが……で? どうなんだ、占いの方は」
「占いではありません、
フランが胸を張る――彼女の眼は、瞳孔が開いたままだった。その瞳は既に、〝シェオルの十字〟が視せる
「悔しいが……この船の運命を、お前の
「ふん、軽いものですわ。任されましてよ! 報酬分は働くのが、
ル=ウの言葉に、フランは力強く頷いた。
「しかし――ル=ウ」
士官室を出る直前、リズが小声で、ル=ウを呼び止めた。
「イオリノスケくんの
意地の悪い笑みを浮かべて、リズが舌舐めずりする。
「な、なんだよ。イオリはわたしのものだぞ。代価として支払うだけなら吝かではないが……」
「そういう意味じゃないよ。いや、そういう意味でも手を出したいのは山々だけど。ボクが気になっているのは、イオリノスケくんの味のことさ。彼……味のベースは、ル=ウそのものだった」
「それはそうだろう。イオリの肉は、わたしの肉体を増殖変換して作成したものだからな」
「だろうね。だからこそ気になるんだよ。味のベースは、ル=ウそのもの……では、そこに混じる複雑な味わいは、いったい何?」
「……それは」
ル=ウが言い澱む。
「ボクには分かるよ。伊達に妖精の血を引いてないからね、
わざとらしく唇と舐めるリズ。人ならざる身でありながら、その仕草には密かにル=ウすら
「ル=ウ。イオリノスケくんに――いったい、何を混ぜたのさ?」