第36話 さらば甲州

文字数 7,204文字

 宿願であった犬上郡次郎への(かたき)討ちを果たし、意気揚々と戸倉へ戻ってきた勝蔵だったが、それからまもなく山ごもりすることになった。
 犬上を倒したとはいえ、まだ宿敵の国分の三蔵と祐天仙之助が残っている。彼らの一味だった犬上を殺し、しかもその途中で三蔵の子分も一人殺している。
 これで三蔵が黙っているはずがない。必ず黒駒一家に報復してくるだろう。さらには、彼らの後ろにいる甲府や石和の代官所がいよいよ討伐に乗り出してくるかもしれない。
 そうなっては戸倉の屋敷では持ちこたえられない。また、これまで世話になってきた戸倉の堀内喜平次にも迷惑がおよぶ。
 それで戸倉の屋敷から退去して、さらに山奥にある炭焼き小屋へ移ることにしたのだった。小唐沢山というところにあり、この地域の三十二ヶ村の住民が共同で使用している山小屋で、山で伐採した木から木炭を作ってそこで貯蔵している。
 それを勝手に拝借したわけである。そもそも以前からこの小屋は勝蔵一家の仮の拠点といった様相を呈しており、武藤藤太の手配によって入手した十丁ほどの鉄砲もここに隠し置いていた。山中であれば少人数でもゲリラ戦が可能で、大勢の敵が攻めて来ても守りやすい。それでここを拠点としたのだ。
 宿敵である三蔵と仙之助の命は必ず取る。それまでは甲州を離れない。山にこもってでも奴らの命を狙いつづけてやる。
 そういった意気込みで勝蔵は山小屋へ入ることにしたのだった。

 玉五郎もようやく戸倉の屋敷を出て、数年ぶりに勝蔵といっしょに暮らすことになった。犬上を討ち果たしたことで玉五郎もようやく少し肩の荷が降りた感じだった。
 綱五郎、猪之吉といった側近もこれまで通り勝蔵の身近に残って山小屋へ入るが、二十人の子分たち全員が入るには山小屋はいくらか手狭だ。もとよりこの山ごもりは厳しい生活になるのが目に見えている。
 それで勝蔵は子分たちに言った。
「無理に残れとは言わねえ。こんな山の中じゃ博打はできねえし女も抱けねえ。食う物だって満足に食えるか分からねえ。いつかきっと、また声をかけるから、もうしばらくどこか別の所でしのいでくれ」
 すると子分たちは、
「親分、何を水くせえ。俺たちは親分に命を預けたんだ。死ぬ時は一緒ですぜ」
 と皆が一緒に山小屋に立てこもると言った。
(バカな奴らだ……)
 と勝蔵は思いつつも心の中で嬉し涙を流した。が、同時に彼らを食わせていく大変さを思い、重苦しい気持ちになった。

 ただし山ごもりといっても全員が全員、ずっと山小屋にこもっているわけではない。
 米や味噌などの食料を調達しに町へ出る者もあれば、金を得るために町や賭場へ行って金品を調達してくる者もいる。
 金は堀内喜平次から最後に餞別(せんべつ)として、というより手切れ金とでも言うような形でいくらかもらったが、それとていつまでもつか分からない。中には、かっぱらいまがいの事までして金品を持ってくる奴もいた。
 まあ、そもそも勝蔵たちが時々やっていた「賭場荒らし」もかっぱらいには違いなく、その点では手慣れたものだった。
 おかげで黒駒一家の評判もずいぶんと悪くなった。もともとヤクザなのだから評判が良いはずはないが、勝手に山小屋を使っていることもあわせて近隣での評判はガタ落ちである。

 子分の中には三蔵屋敷の様子を調べるため偵察に出かける者もおり、また玉五郎などは仙之助の足取りを追うために甲州の各地を渡り歩いていた。
 一方、猪之吉は昔取った杵柄(きねづか)で、山で狩猟活動に励んでいた。得意の弓矢もときどき使うが、今では主に鉄砲を使うようにしている。せっかく入手した鉄砲を試す意味でも、猪之吉にとってはやりがいのある仕事だった。山小屋の食膳にはときどき猪之吉が獲ってきた鳥、ウサギ、猪、鹿などの肉がならんだ。
 この日、猪之吉は綱五郎と一緒に猟に出ていた。そして猟の休憩をしている時に、まだ一匹も獲物を仕留められない綱五郎がグチっぽく言った。
「猪之吉よ。実際にやってみると、なかなか当たらないもんだな」
「ハハハ。いきなり上手くいってたまるもんですか。俺がどれだけ苦労して獲物をとれるようになったか、よく分かったでしょ」
「まあな。お前なら、すぐに(いく)さ場に出ても鉄砲隊として役に立つかも知れないな」
「うーん、そいつはどうかなあ。人に目がけて撃ったことはないですから」
「以前、人から聞いたことがあるんだが、外国の銃はこの火縄銃のように火を用意する必要がなくて、弾も五倍ほど飛ぶんだってよ」
「ええ?そんなのウソに決まってらあ。火縄を使わないでどうやって撃つの?それに、そんなに弾が飛ぶなんて、子どもだって信じませんよ」
「俺も実物を見たわけじゃねえよ。まあ、どうせヤクザ同士のケンカじゃそんなもの使えないだろうしな。いや、でも、うまく使えば三蔵を遠くから撃ち殺すのに使えるか」
「だからそんなのウソに決まってるって。大体そんな遠くから当たるわけないし」
「しかしなんだな。たまにはこうして山を歩いて猟をするのも良い気晴らしになるな。小屋にいても博打はやれないし、町へおりて遊女屋へ行く金もないしな」
「気晴らし気分じゃ弾が獲物に当たらないわけだ」
「ああ~、それにしても、早く遊女屋へ行きてえなあ!」
「ふふっ。こんなに長いあいだ風呂に入ってない汚らしい客が来たら、女も困るでしょうよ」
「だから町へ出て風呂に入って、すっきりしてから遊女屋へ行くんだよ!」
「我慢してくださいよ。親分だって我慢してるんですから」
「そうだよなあ……。親分は山に入ってから、全然、八反屋敷へ行ってないみたいだしなあ……」
「……」
 八反屋敷とは武藤家のことである。つまりお八重のところ、という意味だ。

 二人が猟を終えて小屋へ戻ってくると、たまたま町から戻ってくるところだった玉五郎とバッタリ出会った。
 すると玉五郎は真面目な表情で二人に「大事な話がある」と言うので一緒に小屋の中へ入った。
 玉五郎は勝蔵たち一同を前にして話をはじめた。
「祐天仙之助はとっくに死んでいました。道理でここ一年ほど奴の顔を見なかったわけだ」
 それから仙之助が昨年の十月に江戸で大村達尾に殺されたことを玉五郎は詳しく語った。その詳細は少し前の「祐天仙之助を追え」の回で紹介したので、ここでは割愛する。
 ただ、玉五郎が情報を入手したといってもそこまで詳しく分かっているわけでもなく、勝蔵がむかし鰍沢(かじかざわ)で会った桑原雷助の息子が敵討ちで仙之助を殺した、ということまで勝蔵がここで聞いた訳ではなかった。とはいえ「仙之助が実は浪士組に加入していた」という話は耳にすることになった。
「そうか、あの祐天が武士になっていたとはな……。しかし武士になって江戸へ出たおかげで命を落とすことになるとは、あいつもよくよく運のない野郎だな」
 と勝蔵が感慨深げに言った。
「甲州に残っていれば博徒の親分としても目明しとしても大きな顔ができていたのに、わざわざ庄内藩の下級武士(新徴組)になろうとするなんて、よほど武士になりたかったんでしょうよ、祐天は。ふふっ、武士をやめて博徒になった俺とは、まったく逆だ」
 と玉五郎は皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「どうしてあいつは武士になろうとしたんだろう?庄内藩ということは勤王、佐幕どっちになるんだ?玉五郎」
「多分、佐幕でしょう。浪士組といえば幕府の肝入りで作られた隊のはずです。確か京には会津藩お抱えの新選組とかいうのもあったはずで、それも佐幕と聞いてます。ただ、祐天の場合は勤王も佐幕も関係ないでしょう。武士になれればどっちでも良かったんじゃないですか」
「まあ、そうだろうな。だが、あいつは甲府勤番の手下で働いていた奴だからな。勤王じゃなくて佐幕に行ったのは当然だろうよ」
 そこで綱五郎が口を挟んだ。
「ねえ、親分。キンノーとかサバクとか、それって何のことです?」
「バカ。そんなことも知らねえのか。勤王っていうのは天朝様をひいきにする側で、佐幕っていうのは幕府びいきってことだ」
「ふうん。天朝様には様を付けるけど、幕府は幕府と呼び捨てにしても良いんだ」
「良いんだよ。俺の頭の中ではな。お前だって甲府勤番の役人は嫌いだろう?幕府はあいつらの親玉だぞ」
「なるほど。そりゃあ確かに様は付けたくねえ。ところで、その天朝様と幕府がケンカしたら、どっちが勝つんですか?」
「わからねえ」
「ほほう。こいつは良い博打になるとみた。じゃあ、俺は天朝様に二十文を賭ける」
「バカ野郎。そんな気楽に賭けるような博打じゃねえぞ」

 こうして仙之助の死が判明したことによって勝蔵が狙う相手は国分の三蔵のみとなった。
 その三蔵の屋敷にはときどき近くまで偵察を送って様子を調べているが、以前同様、塀には鉄砲を持った見張りがいて、なかなか守りは厳重だ。時間をかけてじっくり調べて隙をうかがうしかない。
 そうこうしているうちに甲州の厳しい冬が来た。山ごもりをしている勝蔵たちにとってはつらい季節だ。
 ただし炭焼き小屋なので木炭は腐るほどあり、暖を取るのは問題なかった。人も暑苦しいほど大勢おり、食い物が少ないことと体中が不潔なことにつらさは感じたものの、なんとか冬を越すことができた。
 が、逆に暖かくなってからが大変だった。
 初夏の頃から室内では疥癬(かいせん)の皮膚病が流行りだして勝蔵や多くの子分たちが罹患(りかん)した。この(やまい)はダニが原因らしく、とにかく(かゆ)くてたまらず体中をボリボリと()くことになるのだが、そこらじゅうの皮膚が化膿してしまった。狭いところで多人数が不衛生な生活をしていたためにこういった状態になってしまったのである。
 どれだけ敵が攻めてきてもビクともしないつもりでいたが、まったく意外な相手(ダニ)に攻められて戦力が消耗するかたちとなった。

 そして七月。一番暑い季節である。
 山小屋ではむさ苦しい男どもがスシ詰め状態となって、しかも皮膚病で苦しんでいる。
 そこへ石和代官の軍勢およそ五十人が攻めてきた。
 今度こそ黒駒一家を一網打尽にしてやる、という意気込みで山狩りに来たのである。

 皮膚病で苦しむ黒駒一家ではあったが、戦闘意欲まで衰えてはいなかった。
 見張りから敵接近の知らせを受けると、全員ただちに戦闘配置についた。猪之吉が指揮する鉄砲隊五人は森の中をこっそりと迂回して進み、敵の側面を突いた。
 そして猪之吉たちが敵の側面から鉄砲を撃ちかけると、それに合わせるかたちで山小屋からも鉄砲を撃ちはじめた。鉄砲による周囲からの一斉攻撃である。

 代官の軍勢は、黒駒一家にこれほどの鉄砲があるとは思っていなかった。そのため、この鉄砲による一斉攻撃で大いに狼狽(うろた)えた。
 もともと代官の軍勢は武士ではない連中が大半を占めている。
 武士は博徒などという下賤な連中に直接手を下すことを嫌っており、こういった場合の実働部隊はほとんどが武士の使い走りをさせられている下役や目明しなどである。
 ゆえに彼らの幕府に対する忠義心はそれほど高くない。また戦闘意欲も低い。
 不意打ちをくらった代官の軍勢はたちまち潰走(かいそう)して山から逃げていった。この戦闘で彼らの中から数名の死傷者が出たようだった。
 代官の軍勢、つまり幕府軍の惨敗といっていい。

 ちなみにこの三ヶ月前には将軍家茂が幕府軍およそ二万人を率いて江戸を出発し、東海道を通って京都へ向かった。長州を征伐するための上洛軍である。
 その上洛途中で、上洛軍の百分の一でも甲州へ振り分けていれば勝蔵たちなど苦もなく踏みつぶしたであろうが、幕府は甲州の治安にそれほど危機感を抱いておらず、また甲州自体をそれほど重視していなかったのでそのまま放置した。

 この山中での戦いの数日後、国分の三蔵屋敷に変化があった。
 三蔵屋敷を偵察していた子分から話を聞いた勝蔵は、最初、耳を疑った。
「三蔵屋敷からこつぜんと人がいなくなった」
 というのである。
 そのあと何人か人を送って調べさせたが、やはり三蔵たちがいなくなったのは事実だと分かった。
 おそらく黒駒一家が山中で戦った際の鉄砲隊の威力が、代官所で誇大に喧伝されたのであろう。別に勝蔵たちは百も二百も鉄砲を持っていたわけではないのに、三蔵たちにはそのように伝わったのかもしれない。
 三蔵の国分一家はこれを境に、こつぜんと甲州から姿を消してしまった。
 この事は後々まで地元で語り継がれたようで、国分の三蔵は「逃げ三蔵さん」という異名で呼ばれるようになったという。

 とにかく、これで勝蔵が倒すべき相手はすべて甲州からいなくなってしまった。
 と言うことは、これ以降、ようやく勝蔵が甲州の天下に覇を唱えることになるのか?
 いや。それほど世の中は甘くない。というか幕府は甘くない。
 この山中での掃討作戦失敗をうけて、「次こそは確実に黒駒一家を壊滅させる」と決意して、代官所は現在、新たに戦力を増強しているところなのだ。


 このとき勝蔵は苦悶していた。
(犬上、祐天、三蔵……。安五郎親分の(かたき)だった連中は皆、もはや甲州からいなくなった……。黒駒一家が甲州でやるべきことは他に何かあるだろうか?甲州の賭場を取り戻すのはおそらく当分のあいだは無理だろう。黒駒や竹居の人々も以前のように我々をかばってはくれないだろうし、こうして代官所と戦火を交えた以上、これから幕府は本気で俺たちを潰しにかかってくるだろう。となると、一ヶ所に留まっているのは危険だ。やはりまた、放浪の旅に出るしかないか……。だが今度旅に出ると、二度と甲州へ戻れなくなるかも知れないな……)

 こうして勝蔵は山小屋で思い悩んでいた。
 このとき、たまたま人手がほとんど外へ出払っていて、勝蔵の脇に猪之吉が一人いるだけの状態だった。
「おい、猪之吉よ。お前はどう思う?また、旅に出るか?」
「へい。親分が行くところなら、あっしはどこへでもお伴いたします」
「だが今度の旅は、二度と甲州へ戻れない旅になるかも知れないぞ?」
「え……?うーん、それはちょっと残念だけど……。あの親分……、ところで、お八重殿はどうされるおつもりですか?」
「ああ、お八重か。確かにお八重に会えなくなるのはつらいな。だが、それも仕方ないだろう。黒駒一家の皆が幕府に捕まって死罪になることと比べれば……」
「じゃあ、せめてお八重殿を一緒に連れて行ってあげる、というのは、無理なんですか?」
「無理だ」
「なんでですか?お八重殿は勝兄……、いや親分と契りを交わした女性(ひと)なんじゃないんですか?」
「おい、猪之吉。何を勘違いしているんだ。俺はお八重と契りなど交わしてないぞ」
「だって以前、何度も八反屋敷へ行って泊まっていたから……」
「ああ、あれか。あれは別に、そんな大層な代物じゃない。俺はお八重とゆっくり話をしていただけだ。俺はお八重と話をしているときが一番心が落ち着くんだ。他では話せないいろんな悩みを聞いてもらえるからな」
「え……?」
「多分、彼女が神様に身を捧げているからだろう。一緒にいると心が洗われるような気がするんだ」
「じゃあ、お八重殿を女房にする気は……?」
「あるわけないだろう。いや、お八重だろうと誰だろうと、俺は生涯、女房は持たん。俺の女房は死んだお花、ただ一人だ。もしも俺が女房を持ってみろ。その女も俺と同じようにいろんな敵から命を狙われることになる。大切な女性(ひと)をそんな目にあわせられるか。俺はお八重をお花のように死なせたくはない」

 猪之吉は話を聞きているうちにぶるぶると体が震え出し、それからぽろぽろと涙を流した。それを見て勝蔵は驚いた。
 猪之吉は叫んだ。
「ひどい!ひどいよ、勝兄貴!それじゃあ、あまりにお八重ちゃんがかわいそうだ!」
「猪之吉……」
「お八重ちゃんは……、お八重ちゃんはずっと兄貴のことを待ってたんだ!いつか一緒になれると信じて、待ってたんだ!そして今でも兄貴の無事を祈って毎日、神様に祈ってるんだ!それなのに一度も抱いてやらないで……、その期待だけ持たせつづけるなんて……、ひどいよ!ひどいよ兄貴は!あんまりだよ!」
 猪之吉は泣きながら叫んだ。
 勝蔵は少し顔をうつむかせて沈黙し、しばらくすると顔をあげて静かに言った。
「うん……。そうだな、猪之吉。お前の言うとおりだ。俺は今までお八重にずいぶんとひどいことをしていた……。どうやら俺はお八重に甘え過ぎていたようだ。俺はもう、お八重を解き放ってやらないといけないよな……」
 そう言うと勝蔵は筆と(すずり)を持ってきて書状を書きはじめた。

 自分はもう甲州へは戻れない。よってお八重にも会えない。長らく世話になった。お八重がいい男性(ひと)のところへ嫁に行ってくれることを切に願う。
 そう、したためた。


 数日後、勝蔵一家は再び解散することになった。
 幕府からの追及を避けるため、また皆がそれぞれ各地に潜伏することになったのである。

 勝蔵には玉五郎、綱五郎、猪之吉の三人だけが同行することになった。
 行き先は例によってまた東海道だが、とりあえず伊勢の丹波屋伝兵衛のところへ向かうつもりだ。
 勝蔵たちは「これで二度と甲州の土を踏めなくなるかも知れない」という覚悟を背負って旅立つことになった。

 旅立つ前に猪之吉はお八重に会うため武藤家へ行った。
 門をくぐるとそこでお八重が、むかしと同じように巫女姿でほうきをもって庭そうじをしていた。猪之吉に気がつくとお八重は静かに微笑んだ。
 猪之吉はゆっくりとお八重に近づいていって、懐から勝蔵が書いた書状を取り出してお八重に手渡した。

 その書状を読み終えると、お八重は泣き崩れた。
 猪之吉は、お八重をそっと優しく抱きしめてやりたい、と思う心を押し殺して、黙ってお八重を見つめていた。
 そしてお八重と目が合うと、お別れの一礼をして、足早にその場から立ち去った。

 猪之吉はお八重と甲州に別れを告げた。
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