第20話 源氏とキセキの物語、天皇賞春は王様の命令!?(4)(挿絵あり)

文字数 1,700文字

「オーソリティ、頑張れ!」
鞍さんにしては珍しくスタートから馬名で応援するハイテンションだ。
シーザリオは鞍さんが好きな一頭だ。
その娘ロザリンドを経由して、孫のオーソリティを応援する。
今は存在しないG1のアメリカンオークスの覇者であるシーザリオ。
数奇な運命の桜花賞を経てオークス馬になった黒鹿毛の美少女はアメリカに向かい最後となる競馬で勝利を飾ったのが懐かしい。

2020年5月2日土曜午後の東京競馬場、ダービートライアル青葉賞だ。
シェアハウスのリビングで、85インチ8K液晶テレビが繰り広げる熱戦を伝える。
L字ソファーには窓側短辺にはセーラー服の果凛に濃紺のタイトスカートにスーツの冴。
テレビが正面の長辺には白Tシャツと黒白の花柄ロングスカートの惠。
その隣にはオーソリティを食い入るように見るエプロン姿の鞍さん。
ソファーの右、オットマンにはグレーのパーカー姿の優が座る。
高校制服の果凛は、休止中である土曜の軽音部へ馳せる思いだという。
そしてこの青葉賞は『オーソリティ単勝1万円』で勝負した鞍さんの独壇場となる。

スタートして、ブルーミングスカイがまずハナへ、オーソリティは2番手だ。
絶好の芝生コンディションは前行く馬が良い結果を出しているだろうか。
フィロロッソ、サーストンカイドー、コンドゥクシオンなど馬群がなだれ込むように1コーナーへ殺到し、オーソリティが激流に飲み込まれて行く。
2コーナーではフィロロッソが先頭、サーストンカイドーが2番手。
オーソリティは5,6番手の内、フィリオアレグロとヴァルコスはその後。
「うん、いい位置」
鞍さんが膝の上で握る手に力が入る。
1000m60.4秒
そこから中段の動きが激しくなる。
4コーナー手前、オーソリティは7番手となる。
『大丈夫かなぁ』と苦い心配が去就する。
直線入口、フィロロッソがここでも先頭、2番手はサーストンカイドー。
オーソリティは内側から先行集団に取り付こうとする。
だが、行き場がない。
『苦しそう』と手を握る。
ぽっかりと馬群を無視する横の空間、心配を打ち消すようにオーソリティは横へ飛ぶ
直線が開ける、右鞭、持ち替えての左鞭で鼓舞を打ち続ける。
オーソリティ、六頭が横一線の外を駆る。
まず最内フィリオアレグロが先頭で、真ん中からヴァルコスが襲う、オーソリティも食らいつく。
今度は三頭横に並んだ勝負となる。
オーソリティが一完歩ずつヴァルコスを追う、最後はこの二頭が内のフィリオアレグロを躱す。
「オーソリティーッ!!」
声援に応えたオーソリティがヴァルコスを差し、クビ差でゴールインだ。
さらに首差で3着がフィリオアレグロ。
勝負強いしぶとい勝ち方だ。
ゴールの瞬間、鞍さんはオーソリティの勝利に両手を叩いて『やった、やった』喜んでいた。

子どものように飛び跳ねる鞍さんを横目に住民たちも的中を祝う。
「おめでとう御座います」
「自在性があって、操縦性も高いですね」
「息の長い脚が使えて、いい勝負根性しているわ」
「ひょっとしたら、皐月賞1、2着の二頭に割って入るかもね」
惠、優、果凛、冴の感想に『ええ、そうですとも』と鞍さんが自分の息子の栄誉のように胸を張る。



「直線の内から外へ、スパートをかける場所を探したロスが痛かったですね」
それで、あの競馬だ。
「スムーズにレースが運べたなら…」
そう言い及んだ鞍さんは冴に向く、両者の髪が外からの風に揺れる。
「コントレイルやサリオスとやり合える可能性がありますね」
冴の言を受けて果凛が気も早くレースの直線をイメージする。
「直線先頭のサリオスにコントレイルとオーソリティが同時スパートで襲いかかる」
「たまらない展開ですね」
心躍る優に惠が甲高い応援をする。
「でも、今度はサリオスが先頭でゴールよ」
「その意気だ」
サリオス好きな惠と果凛。
「あら、皐月賞と同じようにコントレイルが府中でも差し切りよ」
「その通りです」
コントレイル派の冴と優。
『鞍さんは勿論…』という感じで、住民たちの目線が集中する。
「まずは、無事にゲートインして欲しいですね…」
「…ゲートインしたら全力で応援したいですね」
鞍さんが女神のような微笑みを見せると、住民たちは首を縦に振った。
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