友愛

文字数 1,299文字

 〝銀河系内戦〟の最中(さなか)、旧帝国の中枢種族〝剣の王〟は、〝慈愛の王〟が地球に秘匿(ひとく)せる〝聖霊(ホーリースピリット)〟、すなわち〝先帝〟種族の生存人格群が宿る母星外量子頭脳を奪取すべく、傘下(さんか)の二種族を派遣せり。

 〝射手座人(サジタリアン)〟は人間大の蟷螂(かまきり)、〝牡牛座人(トーラン)〟は子象大の(かに)に類似せる種族にして、いずれも遺伝形質や歴史、文化を操作され、高度な知能と冷酷さ、あるいは好戦性を与えられし戦闘種族なり。

 彼女達の艦隊は、新帝国の理事種族アモンによりて〝剣の王〟の指揮部隊を排除され、間一髪で制止されしが、人類は彼女達を〝死神(リーパー)〟及び〝(ビースト)〟と呼びて恐れたり。

 この事件後に両種族は、対外進出の挫折と人口爆発から、内戦による文明崩壊の危機に直面せり。しかしこの時、人類は新皇帝種族の指導のもとに、遺伝子の修復・改良や経済・社会の安定化、平和・民主化教育など技術・政策上の支援を提供し、侵略と淘汰による犠牲や損失(ロス)費用(コスト)危険(リスク)を要せざる文明発展を可能として、両種族を救いたり。

 二つの種族はそれ以来、人類の心強き同盟種族となりて、共に旧帝国の襲撃から周辺宙域を防衛せり。彼女達はまた、戦後の〝聖霊〟救出作戦にも参加し、高度な作戦能力を発揮して、〝聖霊〟のみならず、〝慈愛の王〟の個体群に操られし人類兵士の無血保護にも成功せり。 

 〝先帝〟の側近団たる中枢種族達は、その腐敗から〝先帝〟種族を傀儡(かいらい)化して権力抗争に明け暮れ、ついには〝銀河系内戦〟を惹起(じゃっき)して、〝先帝〟の滅亡と帝国の崩壊を招きたり。

 一方、新皇帝種族たる〝光輝帝/知恵の光を運ぶもの(ルシファー)〟サタンは、旧帝国の文明開発長官として、かつては〝先帝〟種族を善神となし、自ら悪役を演じる伝承説話を用いてまでも発展途上星域の文明化に貢献せる、忠良な種族なり。

 かかる経緯から、すでに多数の〝先帝〟人格群がサタンへの秘密亡命を果たし、その意思決定に参画(さんかく)せり。ゆえに〝聖霊〟人格群もまたサタンへの帰化を希望し、ここにサタンは帝国継承の公式的正統性を獲得せり。

 人類は、鈴虫の如く美しき声を持つ〝御者座人(サジタリアン)〟に〝歌い手(シンガー)〟、巧みな脚話言語を用いる〝牡牛座人(トーラン)〟に〝踊り手 (ダンサー)〟の愛称を与え、彼女達もまた多国語由来の豊かな言語表現を有する人類を〝語り手 (トーカー)〟と(たた)えて、友好を深めたり。

 その後、両種族は人類と共に、寿命の到来せる者達から量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)を達成し、さらには人類との共有量子頭脳〝三位一体(トリニティー)〟及び共通分離個体、愛称〝大海老(ロブスター)〟の形成にも成功せり。

 三種族は現在、民主化が進展しつつある新帝国において、旧発展途上星域の開発につき中心的な役割を果たすことが期待され、星域の発展を先導しつつあり。
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