第153話 篭絡
文字数 2,026文字
腹も満たされ人心地ついたころ、ユウトはメルに話し掛ける。
「なぁメル。初めてレナに紹介されたとき、確か織物に興味があるって言ってたっけ?」
「ええ。洋裁師として独立することが目標なんです。今はレイノス様の館で女中として働きながら職人登録を行うための資金を溜めているところですね」
食べ終わった皿を重ねながらメルは答えた。
「ネコテンって毛皮以外に・・・えっとなんて言ったらいいかな。産業に利用されてたりしてないかな?」
ユウトの問いに対してメルは少し驚いた表情を浮かべたのち気分が高ぶった表情を見せる。
「その通りです!実はネコテンは家畜化が進んでいて、ネコテンから生産される糸で織られた織物は高級品として取引されてます」
いつもは落ち着いた雰囲気のメルが見せる興奮した様子にユウトの方も少し驚いていた。
「メルの家はもともとネコテンの毛から織物を作るのが家業だったからね」
レナが合いの手を入れるように解説する。
「家はネコテンの飼育から製糸、紡績、織物までを一手に商っていたんですよ。
・・・まぁそれも随分と昔のことなんですけどね」
「そうなの?またどうして」
メルは寂しそうな笑顔で答えた。
「増えすぎたゴブリンで郊外では安心して生活できなくなってしまったそうで、私が小さい頃にやめて市街に移り住みました。
だけどやっぱり両親はその仕事が忘れられないみたいで、よく思い出話にいろいろなことを教わってました。
わたしの方はもう市街地の生活が長くなってしまって服飾の方に興味が強くなってしまったし、両親がまたやりたかった仕事を再開できるかわからなかったのでこうして働きに出て洋裁師になることにしたってわけです」
「なるほど・・・ならもしかしてメルってネコテンの扱いには慣れてる?」
「え?そうですね。引っ越した先でも何匹かネコテンは連れてきていてずっと飼っていましたから、慣れていると思いますよ」
「なぁう(それであんなに撫でるのが上手だったわけかぁ)」
一緒に話を聞いていたセブルが一人納得したようにつぶやく。ユウトは考えていたことの確信を強め決心した。
「メルのネコテンへの知識を見込んでお願いしたいことがあるんだ」
「わたしにですか?」
突然のユウトからの申し出にメルはきょとんとする。
「いろいろと事情があってクロネコテンが一匹、増えてしまったんだ」
「いろいろ・・・ですか、気になってましたけど」
メルはセブルにじゃれつくもう一匹のクロネコテンに目をやった。
「もうすぐ決戦本番だし、この子をしばらく預かってくれないだろうか?」
「ええっ!いいんですか!・・・いえッそうじゃなくて、ですね・・・」
それまで食い入るように見つめていたメルの視線が首ごとユウトに向けられる。そして明らかな動揺を見せながら思い悩んでいる様子だった。
「わたしにはギルドの仕事がありますし・・・」
「この子は賢い、人語を理解するしメルの言うことを聞いて邪魔しないようにしておくから」
「う、うーん・・・」
宙を見上げ、両手を食卓の上でぎゅっと握りしめながら思い悩むメル。ユウトはセブルに目配せした。セブルは頷きクロネコテンへ指示を出す。わなわなと苦渋の表情で食卓の考えこんでいたメルはふと何かに気づいたように自身の手に視線を落とした。
メルの握り締めた手の甲にクロネコテンが両手を乗せている。次の瞬間には力の抜けたメルの指が開き空いたもう片方の手がクロネコテンの背を撫でていた。
「・・・わかりました。喜んでお引き受けしますっ・・・!」
絞り出すメルの承諾。レナはやれやれといった困った笑顔でメルを見ていた。
三人が食糧配給大テントから出てくる。
「まったく話が長い。待たせすぎよ」
連れだって歩きながらレナが大きなあくびをした。
「すまないな。大事な頼み事だったもんで」
申し訳なさそうに謝るユウト。レナを挟んで反対側のメルはクロネコテンを抱きかかえ一人気合の入った表情を浮かべていた。
「ま、いいわ。メルにとってはせっかくの好機だし、あたしからもレイノス副隊長に話は通しておくわよ」
「よろしく頼む。時間は少ない。やれるだけのことをやろう」
ユウトとレナはメルの方を見る。メルには二人の会話が届いていたいようだった。
「メル、がんばりましょうね!」
レナはそう言ってメルの背中をぽんと叩く。メルはハッとして二人を見た。
「がんばりますっ!」
「ははっ!緊張しすぎだよメル。なんとかなるからさ。
さてこの辺で別れるかな。じゃあユウト。また明日の会議で」
「ああ、また明日」
そうしてユウトはレナ、メルと別れる。ユウトは立ち止まり二人の背中を見送った。
「ほらっ。けが人なんだから肩くらい貸しなよ」
レナはそう言いながらメルの肩に手をまわす。
「何言ってるの。ここにくる時にはけが人扱いするなって言ってたくせに」
そんな会話を繰り広げながら去っていく二人をユウトとセブル、ラトムは見送り、ユウトはふっと笑ってまた歩き始めた。
「なぁメル。初めてレナに紹介されたとき、確か織物に興味があるって言ってたっけ?」
「ええ。洋裁師として独立することが目標なんです。今はレイノス様の館で女中として働きながら職人登録を行うための資金を溜めているところですね」
食べ終わった皿を重ねながらメルは答えた。
「ネコテンって毛皮以外に・・・えっとなんて言ったらいいかな。産業に利用されてたりしてないかな?」
ユウトの問いに対してメルは少し驚いた表情を浮かべたのち気分が高ぶった表情を見せる。
「その通りです!実はネコテンは家畜化が進んでいて、ネコテンから生産される糸で織られた織物は高級品として取引されてます」
いつもは落ち着いた雰囲気のメルが見せる興奮した様子にユウトの方も少し驚いていた。
「メルの家はもともとネコテンの毛から織物を作るのが家業だったからね」
レナが合いの手を入れるように解説する。
「家はネコテンの飼育から製糸、紡績、織物までを一手に商っていたんですよ。
・・・まぁそれも随分と昔のことなんですけどね」
「そうなの?またどうして」
メルは寂しそうな笑顔で答えた。
「増えすぎたゴブリンで郊外では安心して生活できなくなってしまったそうで、私が小さい頃にやめて市街に移り住みました。
だけどやっぱり両親はその仕事が忘れられないみたいで、よく思い出話にいろいろなことを教わってました。
わたしの方はもう市街地の生活が長くなってしまって服飾の方に興味が強くなってしまったし、両親がまたやりたかった仕事を再開できるかわからなかったのでこうして働きに出て洋裁師になることにしたってわけです」
「なるほど・・・ならもしかしてメルってネコテンの扱いには慣れてる?」
「え?そうですね。引っ越した先でも何匹かネコテンは連れてきていてずっと飼っていましたから、慣れていると思いますよ」
「なぁう(それであんなに撫でるのが上手だったわけかぁ)」
一緒に話を聞いていたセブルが一人納得したようにつぶやく。ユウトは考えていたことの確信を強め決心した。
「メルのネコテンへの知識を見込んでお願いしたいことがあるんだ」
「わたしにですか?」
突然のユウトからの申し出にメルはきょとんとする。
「いろいろと事情があってクロネコテンが一匹、増えてしまったんだ」
「いろいろ・・・ですか、気になってましたけど」
メルはセブルにじゃれつくもう一匹のクロネコテンに目をやった。
「もうすぐ決戦本番だし、この子をしばらく預かってくれないだろうか?」
「ええっ!いいんですか!・・・いえッそうじゃなくて、ですね・・・」
それまで食い入るように見つめていたメルの視線が首ごとユウトに向けられる。そして明らかな動揺を見せながら思い悩んでいる様子だった。
「わたしにはギルドの仕事がありますし・・・」
「この子は賢い、人語を理解するしメルの言うことを聞いて邪魔しないようにしておくから」
「う、うーん・・・」
宙を見上げ、両手を食卓の上でぎゅっと握りしめながら思い悩むメル。ユウトはセブルに目配せした。セブルは頷きクロネコテンへ指示を出す。わなわなと苦渋の表情で食卓の考えこんでいたメルはふと何かに気づいたように自身の手に視線を落とした。
メルの握り締めた手の甲にクロネコテンが両手を乗せている。次の瞬間には力の抜けたメルの指が開き空いたもう片方の手がクロネコテンの背を撫でていた。
「・・・わかりました。喜んでお引き受けしますっ・・・!」
絞り出すメルの承諾。レナはやれやれといった困った笑顔でメルを見ていた。
三人が食糧配給大テントから出てくる。
「まったく話が長い。待たせすぎよ」
連れだって歩きながらレナが大きなあくびをした。
「すまないな。大事な頼み事だったもんで」
申し訳なさそうに謝るユウト。レナを挟んで反対側のメルはクロネコテンを抱きかかえ一人気合の入った表情を浮かべていた。
「ま、いいわ。メルにとってはせっかくの好機だし、あたしからもレイノス副隊長に話は通しておくわよ」
「よろしく頼む。時間は少ない。やれるだけのことをやろう」
ユウトとレナはメルの方を見る。メルには二人の会話が届いていたいようだった。
「メル、がんばりましょうね!」
レナはそう言ってメルの背中をぽんと叩く。メルはハッとして二人を見た。
「がんばりますっ!」
「ははっ!緊張しすぎだよメル。なんとかなるからさ。
さてこの辺で別れるかな。じゃあユウト。また明日の会議で」
「ああ、また明日」
そうしてユウトはレナ、メルと別れる。ユウトは立ち止まり二人の背中を見送った。
「ほらっ。けが人なんだから肩くらい貸しなよ」
レナはそう言いながらメルの肩に手をまわす。
「何言ってるの。ここにくる時にはけが人扱いするなって言ってたくせに」
そんな会話を繰り広げながら去っていく二人をユウトとセブル、ラトムは見送り、ユウトはふっと笑ってまた歩き始めた。