えんじぇる☆まりりあ ~天使失踪中☆~
文字数 3,347文字
あっ!もう、なんで逃げるのよ!
おやつ持ってきたけどタマたち散歩中みたいだから、分けてあげようと思っただけなのに~。
せっかく人型になれるんだから色んな猫のお話聞いてみたいのになあ。
あ、あの、それじゃ私のお話、聞いて貰えますか……?
ちょっと前から、です。
さっきの猫さんが来て、いかついお兄さんに変身したのが怖くて、水飲み場の陰に隠れてました。ごめんなさい!
こっちこそ驚いちゃってごめんね。
あ、あと手水舎ではお口はゆすぐだけなのよ……って、猫ちゃんからしたら水飲み場か。なるほど。
はぁ~!しかし綺麗な猫ちゃんね!!
どこで飼われてるの?もしかして2丁目の西園寺さんちのエリザベスちゃん??
いや、その耳スコティッシュフォールドか。じゃあ九条さんちの姫ちゃんかな??
あ、えっと……そこの猫カフェの、えんじぇる☆まりりあ……です。
あ~!猫カフェ!
……え?なんてお店?エンジェル……?
えんじぇる☆……まりりあです。
あの、店名じゃなくて、私の名前です……
あ~、猫カフェではそんなハイカラな名前つけられるのね。
いいじゃない、エンジェルって、可愛くて……!
えと、ぜんぶひらがなで……えんじぇるとまりりあの間に星マークがあって、つのだ☆ひろと同じです。
お店に来たお客さんによく言われるんです……。
あ、でも普段マリーって呼ばれてるので、そう呼んでください!
あの、それじゃ早速なんですがご相談が……
えっ、ま、マリーちゃん。
別にここは人間に相談したい猫の駆け込み寺じゃないんだけどっ……!
はい知ってます!お寺じゃなくて、神社さんです!!
あっ……やっぱりご迷惑ですよね……すみません。
ごめん、そうじゃなくって!
まだ私あの兄弟以外の猫さんとロクに話せてないのにいきなりそんなお悩み相談とか、力になってあげられるのかな~って。
ほんとあんまり期待しないでね!
それでどんなご相談かな?猫カフェでの暮らしが窮屈で逃げ出したくなった的な??
い、いえ!お客さん達と遊ぶのは楽しいですしマスターも優しくて、同僚ともうまくやってるつもりです。
今回巫女さまにお願いしたいのは、マスターに感謝のお手紙を書くのを手伝ってほしくて……
ええ、どうしても日頃の感謝を伝えたいので、おしりくらいなら捧げる覚悟で……!
はぁ!?おしり!!??
ちょちょ、ちょっと待って、うちはどういう噂になってるの!?
ええ、新人さんから又聞きしたのですが……
「鳥居をくぐると人間になれるけど神社の人に捕まるとおしりペンペン百叩きの刑」だと聞きました。
話に尾ひれが付きすぎてる……なるほど、それで人間になりにくる猫が妙に少ない上に超速で逃げちゃうのか。
野良猫の情報網も頼りないわねえ。
いや、大勢とお悩み相談なんてしてらんないからそういうことになってたほうが都合がいいわ。
マリーちゃんは特別に見逃してあげるけどもし誰かに聞かれたらすごく痛かったって言っといてね!
でもねえ……せっかくマリーちゃんの気持ちをお手紙に書いても、イタズラだって思われて終わりじゃないかしら?
猫が文字を書いたりこうやって喋って人間に代筆させてるなんて考えつかないから、お客さんがマリーちゃんになりきって書いた文章だって思われるんじゃないかなあ?
そ、そんなぁ……!それじゃあマスターをここに呼び出して直接伝えるしか……?
でもマスターはいつも忙しいし、猫が人間になるって知ったらきっとびっくりしちゃう……。
う……流石に人間の間で噂になるのは避けたいわねえ……。
う~ん、いっそ逆転の発想で、最初からお客さんからの手紙の体で書いてみるってのはどう??
「猫ちゃんたちも喜んでるみたいですよー」って感じで!
あっ!なるほど……!さすが神のお使いの方、名案ですね!!
えへへ、ありがとう。そう言われて悪い気はしないよね、掃き掃除と授与所のお手伝いくらいしかしてないけど……
それじゃ、便箋と封筒持ってくるから、拝殿の縁側でも座って待ってて!
はい!ああ、えっと……戻ってこられたら巫女さまも一緒に人間のお客さんらしい文章、考えてもらえますか……?
勿論!それじゃちょっと待っててね!
あっ、もし怖い顔のおじさんが来たら、猫だってことは内緒にしてね!!
マリーちゃーん!おまたせ!それじゃ早速書いていこうか!
は、はい!ええと最初は……「マスターへ」?
「マスターさんへ?」でしょうか
お客さん達はマスターさんのことなんて呼ぶ人が多いかな?
「店・長・さん・へ」……っと。
ねえ、そのマスターって呼び方は猫ちゃんだけなの?
ふふふ……マスターは「喫茶店のマスター」に憧れてたらしいんですけど、なかなかそう呼んで貰えないんだとちょっとガッカリしてました。
ああっ、と!これは猫の従業員にだけ話してくれた秘密のお話なのでした……!
うふふ、それで猫ちゃんはそう呼んであげてるのね。
そういう猫ちゃんならではのお話を聞けるのは楽し…ううん大丈夫大丈夫、誰にも言ったりしないよ!
次行ってみよう、次!
そして二人は話しあいながら、一枚の短い手紙を書き上げた。
えーっと、
「店長さんへ
いつも楽しい時間をありがとうございます。
このお店の猫ちゃん達はとてもよくお世話されていて、
店長さんの猫ちゃん達への愛をひしひしと感じます。
皆とても幸せそうで、貴方を信頼している様子がよくわかります。
私が代わりにお礼を言ってしまいたいほどです。
猫ちゃんたちを愛してくれて、本当にありがとうございます。
猫ちゃんたちも、きっと貴方のことを愛していますよ。
それでは、また遊びに来ます。」
わぁ!巫女さまのおかげで素敵なお手紙になりました!
本当にありがとうございます……!
いえいえ、お役に立ててよかったわぁ!そんなに喜んでもらえるなんて、こっちこそありがとね。
んじゃあとはこれを、というかマリーちゃんが見つかって騒ぎにならないように猫カフェに戻るだけか……
ハードル高いなあ、寧ろあの人通りの多い所をよく来れたねえ?
うちには元野良ちゃんで保護猫出身の子も多いので、裏道や抜け道の情報をばっちり聞いて来たんです!
お店も定休日でマスターは買い出しで夜まで戻らないので全然大丈夫です!はい!
おお、意外とお転婆さん!
それじゃ、気をつけて帰ってね。
古都夜は鳥居を出たマリーが手紙を咥えた猫の姿になって走り去るのを見送って、歌いながら境内の掃き掃除を始めた。
にゃんにゃんにゃにゃ~ん、にゃんにゃにゃ~ん♪
あっ!タマ!マオ!おかえり~!!
今すっごくお利口で可愛い猫ちゃんとお話してたんだよ~!
みゃーっ!なんで俺らのシマに勝手に他の猫上げてくっちゃべってんだよ!!
マオ、あたしたちご厚意で置いてもらってるんだよ。
古都夜さん、ただいま。
なんだかすっごく上機嫌だね、どんな猫さんとお話してたの?
スコティッシュのえんじぇる☆まりりあちゃんっていう……
みゃっ!?『猫喫茶ぷてぃ☆にゃんじゅ』ご指名率ナンバーワン2代目看板猫!!??
野良猫たちのアイドル、幻のショーウィンドウの天使ちゃん!?
そうみたい!あの子がお店に出ててお客さんに付いてない時間なんてないから、出窓で日向ぼっこしてるマリーちゃんを目撃できた猫は死ぬまでハッピーになれるって聞いたの!
それはそれは可愛らしいんだって……いいなあ~!
そんな大層な噂になってるんだ……
さ、さっきまでずっとここに居たんだよ。
なんでもうちょっと引き止めとかなかったんだよ、俺の一生分のハッピー返せよぉ悪の巫女オンナぁ!!!
ネコパンチ!ネコキック!!
コラッ、ヤメッ!!ああ~っ!わかったわかった!
成り行きで「遊びに行く」って手紙書いちゃったし、今度一緒に行ってみよう!!
待ってマオ。あたしたち鳥居を出たら猫の姿に戻っちゃうよね……?
ぷてぃ☆にゃんじゅによその猫は入れないんだよ……
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