2021年6月 ワクチンがポストの中に入ってた

文字数 2,150文字

日記には何の記載もないが、地元行政から送られてきた封書が手元にある。
消印はないので家にいつ届いたものか、記憶が定かではないが、封入されていた書類には『6月3日時点で住民登録がある方に送付しています』とあり、予約開始日が7月中旬に設定されているところを見ると、6月末には送られてきていたようだ。自宅にも届いた新型コロナウイルスワクチン接種のご案内である。

ざっと中身を説明しよう。まず封筒には保健所の保健予防課からの手紙であることが示され、それよりも大きく目立つ位置に赤い文字で、[重要][新型コロナウイルスワクチン接種券在中]必ず開封して、中身を確認してください。とある。

引っ張り出した中身のクーポンはシール台紙になっていて、印字済みのラベルシールが数枚並んでいる。その余白にはこれまた大きな太角ゴシック赤文字で、【新型コロナウイルスワクチンを受けられます。費用負担はありません。接種は任意です。】とある。
次に出てきたのは予診票兼接種希望書で、複写式の用紙に □はい □いいえ で回答できる質問事項がならんでいる。その下は申込書になっていて、署名欄が用意されており、接種を希望する人は問診に答えここに署名することになる。3枚目はワクチン接種までのながれを大まかに説明するA4表裏のチラシで、①接種可能な時期を確認する②医療機関/接種会場を探す③予約して、ワクチンを受けるという大枠の流れが書かれている。裏面は基礎疾患についての説明、住民票がある場所以外での接種方法、ワクチン接種には本人の同意が必要だということわり書きがある。一番下にあるのは首相官邸ワクチン特設ページを案内するQRコードと、厚労省と行政担当部署のコールセンターの電話番号だ。

そのほかにもう一枚、こちらはA3二つ折りの、もっと細かいところまで書かれた接種のながれを記載したチラシで、具体的な接種場所まで地図と合わせて記載されている。それから新型コロナワクチン予防接種についての説明書というものがあり、それにはファイザー社製用(2021年6月改訂)とある。各製薬会社のものに対応しているようで、自治体によって使用する製剤が違うため、それに対応する説明書が同封されているようだ。ここではワクチンの効果と接種の際の注意点、副反応と予防接種健康被害救済制度についてと、新型コロナウイルス感染症についてとこのワクチンの特徴、有効成分と添加物の一覧表が書かれいている。最後の一枚はWebページから接種予約をする人のためのマニュアルになっており、ブラウザの表示画像イメージとあわせて操作案内が書かれている。ふぅー。

都合全6枚の文字量はなかなか大したもんである。普段文字を読む習慣のない人にとっては苦痛に感じる文章量だろう。しかしそれなりに重要事項ばかりなので、きちんと読んで内容を理解してからでないと接種にまでたどり着けなさそうだ。

ある意味待ち焦がれたこの封筒を、私は状差し代わりにしているトレーに置いて、ひとまず届いたことを忘れることにした。それは決してこの書類を読みこむことを苦痛だと思ったからではない。素人にも読める平易な文章でまとめられた書類は、それほどの労力をかけなければ読めないような代物ではないし、そうであってはならない。もちろん行政文書らしく最低限の配慮はされたわかりやすさでまとめられており、問診票にしても難解な質問事項があるわけでもなかった。それでも「今すぐに予約して接種しよう」という気にならなかったのは、ワクチン接種についてマスコミが報道している、その様子からの判断だった。

各地で始まった一般接種の模様をニュースで見ていると、事前予約をした人たちが接種会場に長蛇の列を作っている様子が映し出された。見れば皆働き盛りといった感じの人たちが、出勤前に、あるいは休暇をとって列をつくり並んでいる様子だ。どこの自治体も原則として予約が必要らしいが、そうした手続きなしでも接種できるという会場も一部に存在しており、そこでは開場後1時間と経たないうちに本日分が全て終了したとして受付を終わったという。それはつまりワクチンの供給量自体が不足しているということだ。

エッセンシャルワーカーとまでは行かずとも、理美容師や整体マッサージ師等、リモートワークってわけにはいかない職業は多岐に渡って存在する。しかも一度の接種で即座に効果が出るわけもなく、3週間後に二度目を接種してのち7日間後に初めて効果がでるということは、今すぐ接種しても効果はおよそ1カ月のちになってからということになる。これからやってくるお盆シーズンを考慮に入れたら、次期感染拡大の波は近い。どうにかそれまでには「せめてもの安心」というものを獲得したいだろう。
出勤どころか毎日を自宅で過ごし、家人としか顔を合わせず世捨て人のように暮らす戦力外の人間に、ワクチンはそもそも不要不急の代物である。優先されるべきは、毎日通勤し、誰かを相手に商売することを日常にしている人たちに違いない。そう考えた私は、ひとまずこの混乱がおさまる時を待つことにした。その日が来たらこの封筒を再び開封すればよいと考えたのだ。
そうして私宛に届けられた接種券の入った封筒は、永い眠りにつくことになったのだった。
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