エピローグ

文字数 2,378文字

 ――その後、父の一周忌を済ませ、高校を卒業した日の夜、わたしと彼は我が家のゲストルームで初めて結ばれた。
 やっと彼と本当の意味で繋がりあえたような、わたし自身もひとつ大人になれたような、幸せな夜だった。

 そして、結婚準備が本格的にスタートし、わたしたちは仕事の合間を縫って式場の予約や衣装のオーダー、式場内のガーデンレストランでの結婚披露パーティーのお料理決め(具体的にはビュッフェテーブルにどんなメニューを並べるのか)、結婚指輪の注文……と、準備に追われることとなった。

 彼のご両親にも結婚前のご挨拶をした。

 お父さまの(あつし)さんは温厚そうな男性で、五十五歳。銀行の支店長さんだと伺っていたので、もっと神経質そうな人を想像していたのだけれど、まったく違っていた。
 お母さまの()()()さんも優しそうな女性で、年齢はお父さまの二歳年下だと聞いた。保育士さんのお仕事に未練はあるものの、「孫ができたら私が家で面倒を見るの」と笑顔でおっしゃっていた。
 本当に素晴らしいご夫婦で、この人たちがわたしの義理の両親になるのかと思うとワクワクした。
 ただ、その場には悠さんはいらっしゃらず、貢に事情を訊くと、「恋人ができたので一緒に暮らしている。もうじき籍も入れるらしい」とのこと。どうやら、彼女さんはオメデタらしい。そこでキチンと責任を取るのが、女性に優しい悠さんらしいなとわたしは思った。

 ――そんなこんなで、わたしと貢は今日という晴れの日を迎えた。

****

「――で、絢乃さん。最終確認なんですけど。本っっ当に僕でいいんですね? 僕と結婚して後悔しませんよね?」

「まだ言ってる。いい加減クドいわよ、貢」

 わたしは苦笑いしながら、彼のいで立ちを眺めた。真っ白なタキシードに、彼の引き締まった顔が映える。彼の胸元に結ばれているループタイは、なぜかブルーだった。

「……ねえ、それってもしかして〈サムシング・ブルー〉になぞらえてるの? でもあれって、花嫁のための(ゲン)(かつ)ぎなんじゃ……」

 わたしの今日の髪飾りにもイヤリングにも、〈サムシング・ブルー〉に(あやか)ってさりげなくブルーが取り入れられている。

「まぁ、そうなんでしょうけど。僕は婿入りする側なんで、嫁入りするのと同じような気持ちで……と思いまして。おかしいですか?」

「ううん、別におかしくないわ。ステキよ、よく似合ってる」

 彼の謙虚すぎる答えに、わたしはより一層彼への愛おしさが増していく。

 実は衣装をオーダーする時、わたしのドレスよりも彼の衣装選びの方に時間がかかったというのは何とも面白い話である。彼が、黒っぽいタキシードは着たくないとゴネて衣装担当のスタッフを困らせたのだ。

 黒は死者を(いた)む色だから、前に進むためにこの色を避けたかったという彼の気持ちはわたしにもよく分かっていたのだけれど。いい年した大人がゴネるのはやめてほしい。
 というわけで、彼のタキシードは白に決まったのだ。披露パーティーの時には、お色直しでグレーのタキシードを着ることになっている。

 ちなみに、わたしのこのベアトップのドレスを選んでくれたのも彼だ。彼はわたしのドレス姿をまじまじと眺めて目を細める。

「やっぱり、このドレスにしてよかったですね。よくお似合いですよ。絢乃さんは、デコルテがキレイですから」

「……やめてよもう。そんなあからさまに言われたら、なんか恥ずかしい」

 いくら夫になる人からとはいえ、わたしはまだ男性にそういうことを言われるのに慣れていない。
 とはいっても、彼はもう我が家に一緒に住んでいて寝室も共にしている。すでに新生活は始まっているのだ。

「そうやって恥じらう絢乃さん、可愛くて好きですよ」

「またそうやってからかう……」

 わたしは結局、彼に弱いのかもしれない。悠さんの言葉を借りるなら、「惚れた弱み」というやつだろうか。

「――絢乃さん、ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「それ、普通逆じゃない? 花嫁の言葉でしょ」

 彼と話していると、わたしは笑顔が絶えない。父が亡くなって、「もう笑えなくなるんじゃないか」と不安になったのがウソのよう。でもそうならずに済んだのは、彼が側にいてくれたからだった。

 今日の結婚式には、里歩と唯ちゃん、悠さん(……は貢の身内だから当たり前か)、広田室長に小川さん、村上社長、山崎専務も招待しているけれど、わたしの会長就任を反対していた親族は()ばなかった。こんな晴れの日をブチ壊されてはたまったもんじゃない。

「――新郎様、お写真撮影の準備ができております。先にフォトスタジオまでお越しください!」

 式場の女性スタッフが、控室の外から彼を呼んでいる。なぜ新郎だけ先にスタジオへ行くのかといえば、新婦はヘアスタイルの最終調整やお化粧直しをしなければならないから、なのだとか。

「あ、はい! ――それじゃ、僕は先にスタジオへ行ってますんで、失礼します」

「うん。また後で」

 彼と入れ違いに、母を伴って控室へ入ってきた式場スタッフは手早くわたしの髪形とメイクを直し、立ち上がったわたしのドレスの裾のシワも直してくれた。

「――じゃあ絢乃、私たちも行きましょうか」

「さあ会長、参りましょう!」

「はいっ!」

 母は裾の広がったパープルのパンツスーツ姿。亡き父に代わって、一緒にバージンロードを歩いてくれることになっている。

 彼の待つフォトスタジオへ向かう途中、わたしは心の中で父に話しかけた。

 ――パパ、見てくれてますか? 貢はパパとの約束を守ってくれたよ。
 わたし、彼となら幸せになれると思う。ううん! 絶対に幸せになるから!
 だからね、パパ。わたしは彼と一緒に、これからの人生を歩んでいくよ。
 パパがわたしを託してくれて、わたしが初めての恋をささげたあの人と――。


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登場人物紹介

篠沢絢乃(しのざわあやの)

私立茗桜女子学院・高等部二年A組。

四月三日生まれ、十七歳。O型。

身長一五八センチ、体重四四キロ。胸はDカップ。

趣味は読書・料理。特技はスイーツ作り・英会話。好きな色は淡いピンク。

主人公。高二の一月に『篠沢グループ』の会長だった父・源一(げんいち)をガンで亡くし、父の跡を継いで会長に就任。

小学校から女子校に通っているため、初恋未経験。

大のコーヒー好き。ミルクと砂糖入りを好む。

桐島貢(きりしまみつぐ)

篠沢グループ本社・篠沢商事・秘書室所属。大卒。

五月十日生まれ、二十五歳。A型。

身長一七八センチ、体重六〇キロ。

絢乃が会長に就任する際、本社総務課から秘書室に転属し、会長付秘書になった。マイカー(軽自動車→マークX)を所持している。

恋愛に関しては不器用で、現在も彼女なし。

絢乃と同じくコーヒー党。微糖を好む。スイーツ男子。

中川里歩(なかがわりほ)

私立茗桜女子学院・高等部二年A組。

五月二十四日生まれ、十七歳。B型。

身長一六七センチ、体重五三キロ。胸はCカップ。

初等部からの絢乃の同級生で大親友。バレーボール部に所属し、キャプテンを務めている。

数ヶ月前から交際中の、二歳上の彼氏がいる。

コーヒーは、ミルク多めを好む。

※このアイコンではセーラー服着てますが、本当の制服はブレザーです。

篠沢加奈子(しのざわかなこ)

篠沢グループ会長代行。篠沢家当主。短大卒。

四月五日生まれ、四十三歳。O型。

身長一六〇センチ、体重四五キロ。胸はDカップ。

絢乃の母で、よき理解者。娘が学校に行っている間、代わりに会長の務めを果たしている。

亡き夫で婿養子だった源一とは、見合い結婚だったがオシドリ夫婦だった。

大の紅茶党。ストレートティーを好む。

ちなみに、結婚前は中学校の英語教諭だった。

桐島悠(きりしまひさし)

フリーター。飲食店でのバイトを三ヶ所ほど掛け持ちし、調理師免許を持つ。

六月三十日生まれ、二十九歳。B型。

身長一七六センチ、体重五八キロ。

桐島貢の兄。一人暮らしをしている弟の貢とは違い、実家住まい。高卒でフリーターになった。

貢曰く、かなりの女ったらし……らしい。兄弟仲は決して悪くない様子。

愛煙家である(銘柄はメビウス)。

阿佐間唯(あさまゆい)

私立茗桜女子学院・高等部三年A組。※絢乃、里歩とは三年生から同じクラス。

七月二十四日生まれ、十七歳。B型。

身長一五四センチ、体重四一キロ。胸はBカップ。

三年生で初めて絢乃、里歩のクラスメイトになる。マンガ・アニメ研究部に所属。

男子バレーボールが題材の『ドラゴン・アタッカー』というアニメにハマっている、いわば「オタク少女」。その縁で、バレー部員である里歩と親しくなり、絢乃とも仲良くなった。

一つ年上の大学生・谷口浩介(たにぐちこうすけ)という彼氏ができたばかり。

レモンティーが好き。

村上豪(むらかみごう)

篠沢グループ本社・篠沢商事の代表取締役社長、常務兼任。大卒。四十五歳。

絢乃の父・(旧姓・井上)源一とは同期入社で、同じ営業部だった。源一が会長に就任した際に専務となり、常務を経て社長に。源一亡き後、絢乃の会長就任に際して再び常務を兼任する。

源一とは恋敵でもあったようで、結婚前の源一と加奈子を取り合ったことも。現在は一つ年下の妻と、絢乃より三つ年下の中学生の娘がひとりいる。

源一の死後は、父親代わりに絢乃を支えている。

コーヒーにこだわりはなく、インスタントでも飲む。

山崎修(やまざきおさむ)

篠沢グループ本社・篠沢商事の人事部長。専務兼任。大卒、五十二歳。

総務課で続いていたパワハラ問題に頭を抱えており、人事部長として責任も感じていた。

真面目でカタブツだと誤解されがちだが、実は情に脆い性格。三歳年下の妻と二十二歳の娘、二十歳の息子がいて、自分の子供たちが篠沢商事に入社してくれることを期待している。

広田妙子(ひろたたえこ)

篠沢グループ本社・篠沢商事の秘書室長。大卒、四十二歳。秘書室に異動した貢の直属の上司。

入社二十年目、秘書室勤務十年のベテラン。バリバリのキャリアウーマン。職場結婚をしたが、結婚が遅かったためにまだ子供には恵まれていない。

絢乃とは女性同士で気が合う様子。

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