第4話 Under arrest.

文字数 1,776文字

(第1話続き)
俺はアラームをセットしたままTATAMI宿に飛び込んだ。

居た!
コーリャンタウンの”ワンハンド“のタレコミ通りだ。

とうとうNO.2に手が届いた。

PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi

部屋中にアラームウォッチを鳴り響かせる。

「ゲロッパ!!お前には黙秘権がない。全ての罪状は捜査官であるこの俺がこの場で決める。」

いつもながらのセリフを言いながら、俺が放った“ランギッドショット”は奴に命中した。(ランギッド…昔は真逆の効果の“スタンガン”というもの を使ったらしいが、現代では当たった相手が倦怠感、無気力に襲われるこちらが使用されている。)

確保した容疑者は横向きに寝ながら澱んだ眼でこちらを眺めている。

俺は男の鞄を開け、物色をした。

「ほう?こりゃ何だ。アイマスクか。これで1 年、蛇型の抱き枕か?これは。4年と。それに…ちょっと待てお前ローズヒップ…いやラベンダーティーも服用しているな。あーあ、たまげた!肉球付きのモコモコスリッパまで持ってやがる(苦笑)。合計で懲役10年ってところか?とりあえずの罪状はこんなもんだ。まぁ余罪でもう2000年ぐらいはぶち込めるがな。」

俺は無気力で怠そうにしている男を立たせ、入室前に争ったボディガード達の死体を足で端に寄せながらその場を出た。こいつらの後始末は他部署がやってくれる。もちろん今月分の正当防衛クーポンはまだまだあるので、大丈夫だ。

「さあ車まで歩くんだ」
男を無理矢理警察車両まで歩かせた。

男はランギッドショットが効いているにもかかわらず俺と話したがっている。

俺は停車中のPat-Remotor(警察車両)の後部座席に犯人と並んで乗り込み、署に向かった。

気だるさの後を引きながら男はついに話し出した。

「…なぁ刑事さん。最後に観た夢はいつだ?」

酷い渋滞だったので少し会話に付き合うことにした。

「そんなのはとっくに忘れたよ。…あれは人間社会の過去の遺物だ。」

「本当にそう思うのか。」

「思うさ。歴史を見てみろよ。産業革命前に戻りたいか?インターネットなしの社会を考えられるか?睡眠法もそれと同じなんだ。」

男が言った。

「…産業革命は人間性を奪っていった。インターネットは人間関係を破壊して、そして睡眠法は個人から”夢“を取り上げた。
それが “最後の砦”だった。こうして人は生きる理由を根こそぎ盗まれたんだ。」

男は段々と意識がハッキリとしてきたらしい。
ランギットの効き目が落ちてきたか。

構わず俺は反論した。

「いいか?この社会は人間が寝ない事で機能しているんだ。
産業革命が悪だとか言うがそのおかげで多くの人々が飢えなくなった。
インターネットのおかげでより多くの物資に恵まれ、 睡眠法が日本を世界一の超大国にした。
どこの国が全く眠らず100%稼働する国に勝てるって言うんだ?
それをお前らテロリストが旧時代に戻そうとしている。俺にはまぁ訳がわからないね。」

刑事としての本心だった。 男は少し間を置いて語り始めた。

「…なら聞くが、なぜ金持ち達は産業革命で得たその大量生産フードを食べない?なぜ成功者達はインターネットよりも高級車を乗り回したり現実世界を好むんだ?そしてまたなぜ権力者達の多くが俺たちに接触して何時間も何時間も眠りに耽るんだ?」

俺が言葉に詰まっているのを見て、男は続ける。

「連中が少量しか採れない自然栽培された食料を食べ、仮想現実を楽しまず、代理体験を毛嫌い、24時間寝ないで働こうともしないのはなぜだ? さぁ答えてくれ。刑事さん。」

俺は苦しかった。俺はわかっているんだ。しかし認めるわけにはいかなかった。
俺は刑事なのだ。しかし男の論理に押されてとうとう言葉が漏れてしまった。

「…その必要がないから…それが理想ではないからだ。」

そうなのだ。自分が本当に食べたい物を食べ、表に出て自由にしたいことをし、愛する人が自分の腕の中で眠る幸せというものがあるという事を俺は知っていた。

「…しかし俺は、刑事で…お前らはテロリストだ…。だから」

「ありがとう。刑事さん。今日はここまでにしよう。」

そう言うとほぼ同時に、男のピアスから霧状のガスが噴射された。

「なにを…。」

クロロフォルム・ヘイズ(麻酔煙)だった。

「たまにはゆっくり寝たらいい。Sleep-tight(おやすみ)、刑事さん。」

(続く)
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